ステラは、途方に暮れていた。というのも、いくら調べても、調べても、話を聞いても、今自分が生まれ、育ってきた世界での両親と自分の血縁関係が証明されてしまうのだ。
いつもであれば、転生、または新たに生まれてくるとしても拾われ子として誰かに拾われていたのに、今回のステラには、ステラを心底から愛し、大切に見守り育てる両親が居た。血縁関係がしっかりとある、両親が居たのだ。
そのため、ステラは混乱していた。血のつながった両親がいる、ということに対してが一番大きいのだが、自分がまぎれもなくこの"ルシス王国"という国の王族に連なるという事実にも。そしてテネブラエの神凪の一族であるレイヴスという九歳年上の婚約者がすでに決まっていることにも。
完全に政略結婚ではあるのだが、ステラは自分の生まれた場所である王家というものではしょうがないかとも思っていた。
自治が認められているテネブラエだからこその政略結婚なのだろうが、それでも帝国の動きは気にしているに違いないだろうとステラは思うのだが、決まってしまっているものはもうしょうがない。
王家に連なる人間でないのであれば、どうせ早くに死ぬのだ。自分は婚約破棄をしてもらわなくては困ると思って五歳児、という枠を出ない程度に調べまわったのに結果は血縁関係アリ、というものだけだった。
「……あまりにもはじめてすぎて、おどろきしかありません」
屋敷の庭にそなえてあるテーブルに腰掛けながら、小さくつぶやく。精霊はこの世界に来てからすっかりとなりをひそめてしまっており、ステラはうまれてからずっと自分の中にいる精霊とは話せずにいる。
ルシス王国の王族にしか使えない力というものがあるらしい。ノクティスはすでにそれを使いこなす練習をしているのを、つい先日ステラも見ているが、ステラにはほとんどその力は備わっていなかった。クリスタルに選ばれたのはノクティスであり、それはステラにとってはあたりまえのように思っているのだが。
武器の召喚や魔法、などといった力はそもそもステラには備わっているため、それが王族で生まれたことの恩恵なのかはわからなかったため、ステラはそれを隠した。できません、と口にした。
が、先日ノクティスと共に王都の外へ遠出した際に、魔法を使ってしまったのだ。この世界において、魔法を使えるのはルシス王家の人間のみとされている。それを知ってからは何もせず、うしろで守られるだけの令嬢としていたのだがいかんせん護衛だけでは分が悪すぎる魔獣が多かったのだ。自分の両親やノクティスも危険な目にあいそうだったこともあり、魔法を使ったのは本当に咄嗟だった。
この世界で使える魔法ではなく、以前からつかっていたものを使ったのも間違っていたのだが。その一件のせいで、ステラは魔法の力が突出している、と評されるようになってしまった。
試しに、とこの世界で使えるであろう魔法を使ってみても難なく使え、もうこうなってしまっては仕方がないかと両親や伯父――国王、それに従兄弟であるノクティスに言われるまま家庭教師をつけ、魔法の特訓をすることになった。の、だが。
五歳児が魔法を使う、というのは中々に骨が折れる。以前の世界でも子供の頃に魔法を使うことはあったが、ステラが魔法をきちんと使うのはある程度体が育ってからだった。幼児と称される時期に使うことはまずなかったと言ってもいい。
まず、魔法を使う調整が難しかった。ある程度体の育ってきた十代であれば難なく使えるものが、五歳児の体には負担が大きすぎたのだ。おかげで林をひとつ燃やし尽くしそうになる事件を起こした。もちろんそれは隠ぺいされ、魔獣のせいだという噂を流されているが。
「……はあ」
メイドの手によりテーブルに用意されたお茶を飲んで、ため息をつく。王位を継ぐのはノクティスであるため、ステラはわりと自由にできている。が、王族というのもあり、日々稽古や勉強を繰り返しす日々が続いていた。
ある程度のマナーや立ち居振る舞いはこれまでの経験上完璧にこなせ、もともとのステラの性格上忍耐強いため、何度も同じことをくりかえし学ぶということに疲れるわけではないが、やはり環境が今までと違いすぎるため、五年経った今でもステラは家族という存在に慣れなかった。
完璧にしすぎてもいけないという理由で、最近になってようやく時々失敗をするように心がけだしたのだが、怪我はないか、とそのたびに両親は心配をする。お皿を割ったとなれば両親は真っ青になり、魔法の訓練の時に転んだといえばノクティスまで顔を見せにくる始末だった。
「どう考えても、最初をまちがえました……」
両親との血縁関係を疑い、信じられず、そして拾われているのだとしたら少しでも迷惑をかけまいと今までのように過ごしていたのだが。夜中に両親が「もう少し甘えてくれてもいいのに」と話しているのを聞いてしまったため、ステラはあまえる、というものを手探りで開始した。
が、なかなかに難しかった。転んで痛いからそばにいてほしい。お皿を割ってしまってごめんなさいとあやまってゆるしてもらう。甘えるというよりも少し違う方向に走っている気がステラ自身もしていたが、人に頼る子供時代というのを初めて送るためなかなかうまくいかなかった。
「ステラ、こんなところにいたの?」
「ノクト」
ノクティスからステラに、従兄弟に敬称をつけるのはおかしい。敬語もおかしいからやめていいよ。と言われたのはずいぶん前だった。敬語だけは口癖でとれないのだと説明をすれば、ノクトと呼ぶことを強要され、最初こそ戸惑ったものの今ではすっかりステラもノクティスを敬称で呼ぶことに慣れてしまっている。
ノクティスがやってきたことで、少し離れた位置にいたメイドが新しいカップとソーサーを用意して、それにお茶をいれる。五歳児と六歳児が話すような場所ではないほどしっかりとしたティータイムのとれる空間を見ながら、ステラは隣の椅子に座ったノクティスを見て「来られていたんですね」と声をかけた。
「うん。お父さんが用事があるからって言うから。ついてきたんだ」
「王さまが」
「……魔法、また失敗したの」
「え?」
「元気ないから」
ノクティスは言うなり、じっとステラの体は服、顔を見て怪我がないことを確認すると「失敗はしてないんだね」と言ってどこか安心したように笑う。ああ、なるほど、心配をこんな小さな子供にさせてしまったのかとステラは思うが、見た目だけであればステラも子供なので言わずに笑った。
「ごめんなさい。魔法ではなくて、少しへやの中にいるのにつかれてしまって」
「遊びにいきたいとか?あ、それとも中で遊ぶ?」
「えっと、は、はい、どちらでも……あ、でも時間があまり。もう夕方ですし」
「ああ、そっか」
ついこの間、婚約者のレイヴスが訪ねてきた際、退屈をしているだろうと気を遣いステラをかくれんぼに誘って屋敷の中でかくれんぼを行った。子供らしい遊びを全くしないと使用人や両親が言ったこともあるらしく、レイヴスがかくれんぼを提案してくれたのだ。もうそんなことをする年でもないだろうに、鬼をするから隠れて、とステラと遊んだ。
それをステラはなんとなくおもいだして、ああ、ふたりとも優しいなあ、と甘くしてある紅茶を口に運ぶ。
「また今度、いっしょに遊んでくださいますか?ノクトの好きなことで遊びましょう」
「え?僕の?」
「はい。お城にわたしが行った時でもいいです」
「じゃ、じゃあ、一緒に探検しよう?庭とか、お城の中とか」
大きすぎて子供の足では中々歩き回れない城の中、中庭等は昔からノクティスとステラにとって遊び場である。秘密基地を作ってメイドにしこたまに怒られたり、ステラが転んでしまい怪我をした時は二人して怒られた。探検をしたあとは大概怒られているのだが、それでも子供心にノクティスは惹かれるものがあるのだろう。
ステラも城の中を歩くことは嫌ではないし、確かに子供の足と記憶力では一日歩き回った程度ではまわれないのだ。ノクティスと手をつないで歩き回るのは、むしろ少し気に入っていた。
「はい。じゃあ、探検しましょう。今度は南のほうに行ってもいいかもしれません」
「この間の続き?」
「つづきです」
言えば、ノクティスの顔がぱあっと明るくなった。むしろ部屋の中にいるのに疲れていたのはノクティスだろうに、とステラはおもうが、顔にも口にも出さずに「やくそくですね」と小指を出すだけにとどまった。それにノクティスが指を絡めて、ぶんぶんと上下に振る。微笑ましそうに少し離れた場所から見ているメイドたちには、二人が怒られる率の高い遊びをしようとしていることなど全くわからないだろう。
「……うーん、慣れるしかないですね」
「?今度は怒られないようにそっと行こうね」
「あ、えっと、はい。そうですね」
ノクティスとのやりとりは気持ちが落ち着いて、ステラはどちらかといえば好きなのだ。もうこの際いっそ家族というのをとことん追求して、この世界で生きていく心づもりをしてもいいのかもしれないと思う。
幼馴染のような、家族のような不思議な関係が、ステラは自分が思うよりもずっと気に入っていた。
20180909
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