プロンプトにとって、ステラという少女は初めて会った時からすきな相手であった。
 そもそも高校二年生の時に、ノクティスに連れられ「いとこの入学祝に放課後外に連れていくことになった」と聞いた時にはどんな子なのかと心配したものだが、なぜか一般市民代表としてプロンプトもそれに連れていかれたのが初めて会った瞬間だった。
 ノクティスにとっての友人を紹介したかったのだという理由もあったのだが、その時のプロンプトにはわからず、ただ従姉妹の王族と会うことに完全に委縮していたのだ。
「待ってオレ会っていいの!?びっくりされない!?」
「しねえって」
 というノクティスとの会話を、待っているという校門までひたすら繰り返したほどに。
 いざ校門へつけば、一人の少女を囲んで大勢の生徒が物珍しそうにしているところだった。それにずかずかとノクティスが人を割って入っていき、少女の前に立つ。そうなればプロンプトもついていかないわけにもいかず。及び腰ながらもついていき、少女に近づいて、目が合った瞬間「はじめまして」とほほ笑まれた。それがまず最初だった。
 ひとめぼれも甚だしいと自分でも思うが、その日の放課後を過ごしただけで、どんどんプロンプトはステラに惹かれていったのだ。やわらかな雰囲気、口調、笑顔。おしとやかに見えてゲームセンターでは好成績をおさめ、それを鼻にかけるでもなく。ほんとにノクトといとこなの?と小声で聞いたところノクティスにはわき腹を小突かれたのだが。



 高二の春から、ずっとステラが好きだった。つまりもう三年近くになる。婚約者がいるとわかっていたが、好きでいる分には、友達として会う分にはと言い訳を三年近くしてきていた。王都はなくなったものの、婚約者は生きている。二十歳になればステラも結婚するんだろうなと思っていた矢先、ステラは婚約者であるレイヴスに啖呵をきり、婚約破棄をしたわけで。
「――トさん、起きてください。プロンプトさん」
 オレにもどっかでチャンスがあるかも、とやっと思えるようになってきた。その矢先である。
 寝起きの頭にステラの声が響いて、とんとん、と肩をたたかれている。ううん、とプロンプトは寝返りを打とうとして、自分が何か柔らかい抱き枕のようなものを抱いていることに気付く。
 今現在プロンプトが寝ころんでいるのはテントの中だ。昨日はキャンプをして、イグニスとステラが作った食事を食べた。寝る時はステラを端にしてノクティスが必ず横で眠るようにしているため、どう考えてもプロンプトがステラの近くで眠ることはあり得ないのだが。
 ステラの声は、プロンプトのすぐ近くでした。もっと言えば腕の中の柔らかい何かから。
 そこでプロンプトは一気に覚醒した。まずい。なにがまずいのかわからないけど非常によくない。内心冷や汗をかきながら、腕の中の柔らかい抱き枕の感触に意識がいってしまうのは致し方がないだろう。
「プロンプトさん、朝ですよ」
 笑みを含んだような、柔らかい声だった。嫌がっている、困惑している、そんな声音ではないそれに安心するが、プロンプトは起きるタイミングを完全に失っていた。
 プロンプトの腕の中にいるのはステラであり、テントの中に他に誰もいなさそうなのも確かだ。
 ステラとプロンプトの間にはノクティスとイグニスがいたはずなのだが、その2人がいないというのがおかしいのだ。
 イグニスは朝食を作るために朝早く起きる。ノクティスは、どちらかといえば遅く起きてくるタイプである。それがいない。いないが故にプロンプトの今の状況。
 そして完全に覚醒したがゆえに分かる、ステラとプロンプトの密着具合だった。主にプロンプトがステラを抱きしめて寝ていたせいなのだが、これ以上ないほどに密着していることに、今更ながらにプロンプトは叫び出したい衝動にかられていた。
 柔らかいしいい匂いするし抱き心地がよくっていいにおいがするしやわらかい!
 穴があったらその穴に向かって全てを叫んでいる勢いで思って、それからすぐに、ゆるゆると目を開けてみることにした。できるだけ自然に、を心がけたが、かなりの至近距離にステラの顔があり、プロンプトは自然に、どころかバチッと目を開けて固まった。
「あ、おはようございます、プロンプトさん。ノクトは朝釣りみたいで、今朝はお魚が食べれますね」
 笑顔でそう雑談をするステラに、プロンプトは反射的にテントの端っこまで飛び退いていた。抱きしめているだけならまだしも、顔が近すぎたのだ。間違いがおこったらどうすんの!?とテント内にいない友人へ叫ぶが聞こえるわけもなく。
「驚かせてしまってごめんなさい、あの、」
「あっいやっ待ってこれオレが悪いよねいやなんかほんとごめんステラ抱き心地がよくってきもちよくっていい匂いするしちょっと離せなくてっていや寝てたからオレも無意識なんだけどね!?」
 早口で一息だった。はぁはぁと肩で息をするプロンプトに、ステラはきょとんとして座り込み、それから面白そうに笑った。
「プロンプトさん、朝ごはん食べにいきましょう。ノクトもそろそろ戻ってきますよ」
 テントの端っこにいるプロンプトに手を差し出して、ステラはプロンプトの手を引いて立たせた。抱きしめて寝ていたことには触れないあたり、プロンプトは気を使われていると思いかなりヘコんだ。嫌われたらどうしよ、生きていけないかも。なんてことを考えながらも握ったステラの手が小さいだとか、やわらかいだとか、そんなことを心の片隅で考えていた。



「ノクト、プロンプトとステラ。テントにふたりきりにしたのわざとか?」
 俺まで釣りに連れてきて、と言うグラディオラスに、ノクティスは「釣りがしたかっただけだって」とぶっきらぼうに言った。
 

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