アスベル・ラントさま
おてがみ、ありがとうございました。アスベルくんからまさかおてがみが来ると思ってなくて、すごくびっくりしたけど本当に嬉しかったです。
きし学校でのべんきょう、ケリーさまやだんなさまはとても心配してたけど、わたしはアスベルくんを応援しています。がんばってね、アスベルくん。
それと、わたしにあやまらないでも大丈夫だよ。アスベルくんがいなくなったときは大さわぎだったけど、ちゃんとおてがみもくれたしわたしは大丈夫です。シェリアちゃんもすごく心配してたから、おてがみ出してあげてね。
そうだアスベルくん、わたし、お屋敷でメイドのみならいをすることになりました。アスベルくんもヒューくんもいなくてひとりで何をしようかとおもってたら、ケリーさまにメイドのしごとをしたらどうかって言われて。わたしを拾ってくれただんなさまやケリーさまにおんがえしが出来るし、がんばってメイドになろうとおもいます。
おたがいにがんばろうね、アスベルくん。
ステラ
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ステラへ
返事が遅くなってごめん。
俺のほうこそいつもステラの手紙を楽しみにしてるんだ、だから迷惑なんて思ったこともないよ。
それとメイド見習い卒業おめでとう!
卒業はステラに先を越されたけど、家に帰ったら絶対にステラが居ると思うと俺も安心できる。騎士になれたら一番に帰るから、メイド、がんばって。
これから忙しくなると思うけど、俺も応援してるから。
明日から…手紙が届いてるころにはもう行ってるか。明日から少し王都を離れて外で合宿みたいな訓練をするんだ。魔物と戦ったりだとか、野営をしたりだとか。楽しみで仕方ないんだけど、こういう時は緊張して寝れないな。
同室のやつらも落ち着かないみたいだし。
お互いに無理しないようにがんばろう。
特にステラはためこむほうなんだから、何かあれば母さんやシェリアに言えよ。もちろん俺だって愚痴とか、仕事のこととか聞くから。…というよりも、ステラの話を俺が聞きたいだけか。
そういうことだから、まあ、がんばろうな。(ごめん、最後何が言いたいのか分かんなくなった)
アスベル
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アスベル・ラント様
いつも忙しいのにお手紙ありがとうございます、アスベルくん。
アスベルくんからお手紙が届いた日はいつも嬉しくて顔の筋肉が緩んじゃうみたいです。みんなに"アスベル様から手紙?"とよく言われてしまいます。
アスベルくんはマリク教官のことが本当に好きなんですね。お手紙を読んでいるといつもそう思います。あ、好きというか尊敬しているんですよね、少しだけうらやましいです。いつかわたしもマリクさんにお会いしてみたいです!わたしが王都に行くことがあったらぜひ会わせてくださいね。
騎士学校も順調に行っているみたいで安心しています。旦那様も奥様も心配していらっしゃいました。
あ、そうだ。そういえばついこの間、リチャードくんがラントへ視察へいらっしゃいました。公ではないものだったから寄ったのだと言われていましたが、アスベル様に会いに。騎士学校にはいなかったらしいんですけど、訓練で他所へ行かれていたんですよね。そうお伝えしたら、リチャードくんはまた会いに行くと言ってました。
それとアスベルくん、聞いてください!わたし、もしかしたらメイド長になるかもしれません。昔から居た人たちが寿だったりでやめていかれて、何年もいるのがわたししかいなくなってしまって。わたしは遠慮しているんですが、奥様やメイド長がわたしを押してくださって…。あ、今のメイド長はアスベルくんが昔厨房に入り込んでつまみぐいをした時にすごく怒った方なんですが、一週間後に結婚されるそうです。だからわたしに白羽の矢が立ったというか…。昔とはメイドの顔もちらほらと変わっていて帰って来られたら変な気持ちになるかもしれないですね。
アスベルくん、騎士学校がんばってくださいね。わたしももしメイド長にえらばれたら、精一杯がんばろうと思います。
メイド長になると王都に買い付けにも行くみたいなので、会えたらいいですね。
また、お手紙かきます。
ステラ
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ステラへ
手紙ありがとう。
メイド長の仕事も大変そうだな。無理してないかそれだけが心配だ。
それよりも、王都に来てたなら声をかけてくれたらよかったのに。学生の俺たちはあまり外に出ることはないから、大抵なら学校にいるし……なにより俺がステラに会いたかった、かな。
でも七年も会ってないとやっぱりお互いに分からないものかな。手紙はこうやってずっとやりとりしててもお互い七年前から会ってないし。
そうだ、学生で思い出したけど、もうすぐ教官とふたりで行く任務があるんだ。簡単なものみたいだけど、やっぱり緊張はしてる、かもしれない。
その間は王都にはいないけど……もし次に来ることがあったら言ってほしい。
昼休みや休み時間はあるし、授業が終われば自由時間もあるから一緒に食事でもしよう。もちろんステラに時間があれば、でいいんだけど。女の子のすきそうな店もちゃんと調べておくし、いつでもたずねてきてくれ。
ステラ、仕事あまり無理をするなよ。母さんやシェリアもいるから大丈夫だとは思うけど……。
けど、何かあれば必ず頼ってほしい。俺はいつでもステラの力になるから。
アスベル
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「メ、メイド長!」
突然後ろから聞こえてきた見知った声に、わたしはあわてて持っていた手紙をエプロンのポケットに突っ込んだ。読んでいたのを隠したいわけではなかったけれど、その咄嗟の行動に自分でもびっくりしてしまった。エプロンのポケットに手紙があることを確認して、気付かれないように目の前に広がる海と一本の大きな木、それと一年中花の咲き誇る花畑に目をやって、そっと深呼吸をする。
視界に入ってきた木の幹に掘ってある四つの名前を見て、少しだけ目を細めてから、ゆっくりと後ろ……声のかかったほうを向く。そうすればそこには声から想像した人物が息を切らせて立っているところで。肩口までの真っ黒の髪が彼女が動くたびに一緒にゆれた。
その子は少し汚れたメイド服をぱぱっとはらって、たたずまいを直すと私の横に来て申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「ど、どうしたの?ヴィア」
「すみません、せっかく休憩されてたのに。私たちじゃどうにもできなくて」
「け、けが人?」
「はい。足が折れてて、腹部にも剣が貫通した傷があって、血が、」
真っ青な顔のヴィアの背中をわたしはそっとなでてやる。そうすれば力の入っていた体が少しだけ柔らかくなって、ヴィアはそこでやっとふっと息をついた。
昔から隣国とこの国……ウィンドルとの板ばさみではあったらしいけれど、最近になって、ラントでは戦いが増えているように思う。国境にあるというのもその理由のひとつなんだろうけれど、それでも異常なほどのそれにお屋敷で働いているメイドも、アストン様もケリー様もひどくお疲れのようだった。前戦に立たれるアストン様はもちろん、それを支えるケリー様も心労が重なっているのか最近ではお屋敷に引きこもりがちで。
アスベル様もヒューバート様もお屋敷にいないことだって、きっとケリー様の気持ちを沈ませているんだろうけど……。
「シェリアさんも手当てをしてくれているけど、間に合わなくて。メイド長の回復術じゃないと」
「わかりました。……シェリアちゃんは広場?」
「はい。広場でみなさんに応急処置を」
しています、と続いた声は気が抜けたからか空気にとけるように小さくなってしまった。そういえばここに来るまでの道中は魔物もでるし、きれいな道とはいえないし……疲れるのも当たり前かもしれない。
そう思って、そっと彼女の背中に手をかざして小さく「ファーストエイド」と唱えれば、ヴィアははっとしたように私を見て申し訳なさそうな顔をした。
「ご、ごめんなさい。お疲れなのに私のことまで」
「いいえ、だいじょうぶですよ。わたしは言ってもあまり何もしてませんから、疲れてはないんです」
わざと明るく声を出してそういえば、ヴィアはきょとんとして、だけどすぐに目を細めて笑う。「メイド長ったら」と面白そうに言う姿を見て、私も少しだけ笑って花畑と名前の刻まれた大きな木に背中を向けた。
七年前のあの日からなのかなんなのかはよくわからないけれど、いつのまにかつかえていた術。それのおかげで、わたしは戦う術を手に入れられている。こうしてここまで一人で来ることなんて簡単であり、回復術も使え、そしてアストン様のお力にも少なからずなれていると思っていた。
「ソフィが、守ってくれてるのかな」
ぽつりとつぶやいて、振り返って木の幹に掘られている名前を見る。思い出すのは夜明け前の景色と、重なったよっつの小さな手のぬくもり。石で名前を彫って、"友情の誓い"を交わした情景。アスベル、リチャード、ソフィ、…ステラ。
「メイド長、いきましょう」
「あ、うん、ごめんね、いこう」
紫の髪の長い少女だけは、もうこの世界にいないのだと思うと無性にかなしくなった。彼女は、七年前、私たちを守って死んでしまったのだ。
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