水着になることには、確かに恐怖はあった。
けれど肌を見せたところで人目をどうしても引いてしまうという私の力≠ノは関係の無いことだし、ロイドとランディ、それにワジしか異性がいないのであれば水着だろうとなんだろうと特に問題はないだろう。
彼らは私にすっかり慣れてしまっているし、目を引いたところでワジがともかくとして、ロイドやランディはきちんと理由を把握している。
女性たちに関しても、私の力の影響がないわけではないけれどセシルは昔からの知り合いでもあるため特に問題はなさそうだった。
けど、背中にある実験の傷跡≠ヘ見て気持ちのいいものではないだろうと思ってパーカーを着ることにした。
事情を知っている人がほとんどではあるけど、それでも他人への配慮は必要だろうと思う。
それに、彼らは無駄に心配をしてくれるのだ。それは心地よくもあるのだけど、下手に私が思い出したくないというのもあった。
最初はパーカーの前も閉めていたけど暑くなってジッパーはおろしてしまったけど、特に体の前には傷がついていないため脱がなければどうということはないだろう。
特にすることもなくて、したいこともなくて、エリィたちと日光浴をしてみたりロイドをからかってみたり。
けどじっとしているのにも飽きてしまったために湖に入って少し奥まで進む。
海でもないのに波の音がするというのは不思議な感覚だった。砂浜ではビーチバレーをしていたり、砂遊びをしていたりとみんな自由に過ごしているようで楽しそうな声が聞こえる。
ぼんやりと少し奥まった浅瀬に立って、沖を見やる。青空と青い湖は、どこまでも透き通っている気がしてきれいだった。
こんな穏やかな気持ちで、水着になって景色を眺めている自分がなんだかおかしくて少しだけ私は口許を緩めていた。
「マリア」
近づいてきているのは知っていたけど、声をかけられるまでは待とうと知らないふりをしていたロイドから声をかけられて、そこでやっと振り向く。
振り向けばロイドは屈託なく笑って「綺麗だな」と言った。
また勘違いしそうな言い回しを、と思うが、私の中のいたずら心がつい疼いてしまい、ふふふと笑う。
「あら、私のことは綺麗だねって褒めてくれないのね」
「え、ええ!?いや、そりゃマリアももちろん綺麗だけど!」
驚き焦り始めたロイドにさらに笑うと、からかわれたことを察したロイドが呆れたようなため息をついた。
けれどそれが嫌なものではなく、仕方がないなと言わんばかりのため息で、そのままロイドは私の横へと並ぶ。
「マリアと話してると心臓がいくつあっても足りないよ」
「ドキドキしてくれるのね」
「またそういう言い方するし……」
以前ほど露骨に反応してくれないけど、困ったように反応してくれるロイドが可愛いと思う。
年は近いけれど、年下ではあるため、いわば弟のような感覚なのかもしれない。
口に出すとまたややこしくなるのだろうから言わないことにしておくけど。
「ロイド、むこうはいいの?ビーチバレー、楽しそうだったじゃない」
「一区切りついたから。それにマリアが1人だったのも気になったし」
随分ロイドはリーダーらしくなったと思う。
前も私がふらふら1人でいれば心配はしてくれていたけど、前に比べるとずっと頼りになるというか。
「ふふ、別にどこかへ逃げちゃったりしないわよ?」
「はは、さすがにそんな心配はしてないよ。ただ、水着だし……無理してないかと思って」
D∴G教団に私が居たこと、数えきれない実験を施されてきたこと、人間として扱われなかったこと、性的な暴力、という名の実験にあっていたこと。
多分そのことを気にしてくれているのだろう言葉に、思わず目を細めていた。こうして気にしてくれる人がいるというのは、随分気持ちが楽になるものだと思う。
「貸し切りだから平気。ロイドもランディもワジも、私をどうこうしようなんて思わないでしょう」
「なら良かった」
優しく笑う顔が、ガイと重なる。似てないと思ってたけど、そうやって笑う表情は少し似ているような気がした。
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