面倒なことになっているわね、とマリアはジオフロントへ入ってから内心ため息をついていた。
 魔獣狩りをセルゲイから言い渡されたのは想像の範囲内ではあったし、ロイドたちの実力は疑ってはいない。
 そもそもがマリア自身魔獣狩りで小遣いを稼いでいたようなものなので今更魔獣狩りをしたところで面倒だとも思わないのだが、ジオフロントに入ってからずっとマリアの耳に聞こえている℃q供の泣き声がやまないのだ。
 誰かと戦うのは久しぶりだったが、四人共にマリアにとっては動きも読みやすく彼らと実力を合わせることになんら問題はなさそうだった。
 危ない時にだけはさすがに手は出したが、安定して戦えている様子から背中を任せても大丈夫だろうという確信もある。
「マリア? 大丈夫?」
「え? ああ……ごめんね、なんでもないのよ」
 子供がジオフロントの中に入っているなどと急に言ったところでロイドたちに不審がられるのは目に見えているだろう。
 セルゲイやアレックスであれば、と思うがたらればの話をしたところで子供がこの中にいることに変わりはない。
 何故子供がいるのが分かったのか、と問われると、答えられる回答をマリアは持っていなかった。
 持っていない、というよりも、答えたくない、が強いが。
 そんな考えに沈んでいたからか、マリアの様子を心配するようにエリィが声をかけた。
 それには微笑んで返すも、心配そうなエリィはちらちらとマリアを気にしている。
 声を聞く限り子供は怪我をした様子もないが、魔獣が多いジオフロント内だ。早く見つけるに越したことはないだろう。
「その、マリアは、綺麗な戦い方をするのね」
「え?」
 しばらくジオフロント内を魔獣を倒しながら進んだところで、エリィがマリアへとそう言った。
 進行方向に行くにつれて子供の声が近くなっていることに安堵しながら、急なそれにマリアが一瞬遅れてエリィへ目を向けると、少し眉を下げたエリィは肩をすくめる。
「綺麗というか、無駄がない、というのかしら」
「たしかに。マリアさんの動きには無駄もですけど迷いがありませんね。戦い慣れている動きです」
 そばにいたティオまで会話に入ってきて、マリアは首を傾げる。
 マリアからしてみるとランディのほうが戦い慣れはしている動きだったが、それは言葉にはせずに「初めて言われたわ」と小さく微笑んだ。
「俺たちが取りこぼした魔獣も知らない間に倒してるしな」
「そうね……その度に自分の視野の狭さも見えるのだけど……」
 しれっと会話に入ってきたランディに同意して肩を落とすエリィ。
 えらく褒められるものだとマリアはなんとなく居心地の悪さを感じるが、表情には出さずに「魔獣狩りはずってしていたの」と一言添えた。
「だから、私たちが見てない間に怪我でもしたんじゃないかって不安だったんだけど、大丈夫そうね」
 なるほど、とそこでマリアは思う。
 道中いやにエリィがマリアを気にするとは思っていたが、子供の件で考えに沈んでいたマリアを怪我でもしたのかと思っていたらしい。
 怪我の心配をされるのも随分久しぶりだと思って、なんとなく懐かしい気持ちになった。
 マリアは、体質的なこともあり怪我をしても普通の人間よりもずっと早く治ってしまう。
 小さなものであれば見る見るうちに消えてなくなるだろう。大きなものだとしても、頑丈でもあり、そう簡単には死なないような体なのだ。
 例えばビルの上から飛び降りたとしても、骨折で済んでしまう、だとか。その骨折すら、三日もすれば歩けるほどに回復する、だとか。
 生きるのがいやになるくらいに忌々しい体だ、とマリアは内心で思い、けれどエリィの心配の言葉には素直にお礼を言った。
「あれ、はしごがある……」
 そこから更に進んだところで、外に出られる場所があるのをロイドが見つけた。
 さすがにマリアもジオフロントの中には一人で入ったことはないため知らなかったが、どうやら広場のマンホールに繋がっているらしかった。
 ロイドとティオが何やら話している横ではしごの上を見上げれば、随分高い場所に青空が小さく見えている。
「ここから入ったのね……」
 広場からなら、子供も安易に入れるだろう。マンホールを開けて入るなんて、とも思うが好奇心の塊である子供のすることだ。
 随分近くなってきた泣き声に、そろそろ焚きつけるべきかとマリアはちらりとロイドを見やった。
「ロイド。マンホールが開いているのはどういうことがわかる?」
「え? それは……外から誰かが開けた、だよな……? 作業員は今日はいないみたいだし……」
 困ったように視線をさ迷わせるロイドに、首を傾げる他のメンバー。それにそうね、とマリアは返し、じゃあ、と更に言葉を重ねた。
「マンホールを閉じていないのはなぜ?」
「閉め忘れ……じゃないってことか」
「開きっぱなしだと誰かが気づかずに落ちる可能性もあるものね」
 ランディとエリィが続けて小さな空を見上げる。
 そしていち早くランディが「ちょっと閉じてくるわ」と慌ててはしごを登って行った。
 ランディがちょうどマンホールを閉じて、空が見えなくなった頃にはっとロイドが焦ったような表情を浮かべる。
「誰かが入ってきた……?」
 その言葉に、エリィとティオの表情が固くなった。
 まさか、と書いてあるものの、このままその可能性を潰されては困る。
 そこで丁度ランディも降りてきて、会話は聞こえていたのか黙ってマリアを見つめていた。
「そうね。マンホールを開けてはいけない、なんて大人やある程度育った子供は分かることよ。そうなると可能性として高いのは小さな子供が入り込んだ、かしら。それに広場で遊ぶのは小さな子供が多いでしょう。……さっきも、広場を通る時に子供が遊んでいるのを見たわ」
 最後のものははったりだが、一人でふらふらしてジュースまで買って会議室にやってきたマリアの言うことだからか、四人の空気が変わった。
「いなけりゃいないで魔獣狩りだけして帰りゃいいからな」
「そうだな。隅々まで探してみよう」
 ロイドとランディを先頭に、早々と部屋を出る面々にマリアはほっとした。
 後ろを着いて行きながら、ロイドの後ろ姿を見て随分大きくなったものね、と小さく笑みをこぼす。
 真面目な顔をしている時のガイにそっくりだわ、と思いながら。
 

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