「マリアは、随分顔が広いんだな」
 疲れたようにロイドが言うそれに、他三人が確かに、と頷いた。
 旧市街に喧嘩の仲裁にやってきたはいいが、想像よりも厄介そうな上、お互い潰し合うほどのことになっているとなれば原因が隠れているだろうと捜査をしようと言ったところである。
 ワジ・ヘミスフィア率いるテスタメンツ。
 ヴァルド・ヴァレス率いるサーベルバイパー。
 このふたつの勢力の頭から、一目置かれるような発言をされ、どちらとも親しげに話していたマリアはこの場において異様に映ったらしい。
 さすがに構成員まではマリアを知らなかったようで、戦う羽目にはなってしまったのだが。
 そういえばクロスベルの案内で立ち寄った遊撃士協会でも受付のミシェルに親しげに話しかけられていたり、ロイドの友人であるオスカーの働いているパン屋でも、オスカーと親しげだったな、とロイドは思い返す。
 当のマリアはきょとんと片方だけ見える空色の瞳を丸くし「そう?」と首を傾げているが。
「いや、さすがに行く先々でマリアに声をかけるやつがいるから顔が広くない、はないだろ」
 呆れたようにランディが言い、それに同調するようにティオとエリィも頷いた。
 マリアはしばし考え込んでいたが、ああ、と思い出したようにロイドを見る。
「そういえばロイドにしか言ってないのかしら。私、今までも支援課と似たようなことはしていたの。だから知り合いが多いんじゃない?」
「似たようなこと?」
 ロイドが支援課に残るか悩んでいる時に、マリアは何年か前から警察や遊撃士協会からあぶれた仕事や依頼を行っていたことを話していた。
 セルゲイ経由であったり、捜査一課からの依頼であったり、アリオス経由であったりと様々ではあったのだが。
 そんなことをしていれば、自ずと顔見知りは増えていく。
 旧市街でやんちゃをしているグループともなれば、仲裁とまではいかないが注意という名の武力行使に来ることも度々あった。
 そうこうしているうちに、マリアはワジやヴァルドとも話すようになったのだ。
「一人でこんなことをしていたの? 危険じゃ……」
「ふふ、私のできる範囲でしか仕事はなかったから大丈夫よ」
 マリアはなんでもないことのように言うが、喧嘩の仲裁を女性一人に任せるのは如何なものか、と難しい顔をしているロイドは思う。
 それがいくらマリアが強くても、だ。
 治安が良いとはいえない場所でもあるし、女性の一人歩き、しかもマリアのような人目を引く女性なら尚のことだろう、と。
 実際治安の悪さからマリアは良くも悪くも目立ち、旧市街での仕事はなかなか難しかった時期もあった。
 男女問わず声をかけられ、物陰に連れ込まれそうになったことも数しれず。
 しかしこれもまた良くも悪くもテスタメンツにしろサーベルバイパーにしろ、武力行使で圧倒してしまえばもうマリアにちょっかいをかけてくるような人間はいなくなったのだ。
 一般市民に物陰に連れ込まれそうになった際も、そのテスタメンツやサーベルバイパーのメンバーがマリアを助けてくれることもあった。
 ただの人間に、戦いで負けることはまずない。
 マリアにはその点においては自負があったし、アリオスにしろセルゲイにしろそう思って様々な仕事をマリアに回していたのだ。
 マリアを知らない新しい構成員などは未だに声をかけてくることもあるが、大概傍に先輩の構成員がいるため事なきを得ている。
 けれどそれを言うのも憚られたため、マリアは曖昧に微笑んで誤魔化すだけで終わらせた。
「しかしロイド、どっちから先に話を聞くんだ?」
「う、うーん……」
「血の気が多いのがヴァルド、冷静な意地悪がワジよ。どちらも悪い人ではないし、見ていてわかったと思うけどあの二人は仲がいいの」
「……悪いか良いかはともかく、どちらもろくな話は聞けそうにないですね」
 マリアの言い方も悪いが、マリアはふふふと楽しげに笑っているだけである。
「……ちなみに私もここには久しぶりに来たしあまりあてにしないでね。抗争の原因なんかは……本人たちに聞いた方が見えるものもあるでしょうし」
 私も全て知ってるわけじゃないもの、とマリアは付けたした。
 そもそも偶然にも聞こえただけのことを、マリアは言うつもりはない。
 どうして知っているのかと問われれば答えに困るのは分かりきっている。
 もちろん命が危ないだとか、危険が迫っているのであればそれとなくロイドたちを誘導するべきだろうとは思っているのだが。
 そして、それはワジに関してもだ。
 初めて会った時から、ワジは、マリアのよく言えば人目を引くという力に対して、多少抵抗があるらしかった。
 それでも最初数回はじっとマリアを見つめるという、他の人間と変わりない様子ではあったのだが、慣れるのが著しく早く、見とれていても復活するのも早かった。
 そのためマリアも珍しい人間もいるのね、と思っていた。
 しかし、ワジに会う前にたまたま聞こえてきた声に耳を傾けてしまったのが間違いだったのだ。
 知りたくもないワジの秘密を知ってしまった。
 知らないふりも数が多いと面倒になってくるため、本当に人の秘密なんて知るものでは無いわね、とその時に心底から思ったのだが。
「じゃあ、まあとりあえず……テスタメンツのほうから聞いてみようか」
「確か向こうに行ったわね」
 エリィがそう言って、広場から少し奥まった細い通路を見る。
 トリニティと大きく書いてある看板を見て「あそこですね」とティオが指をさした。


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