「見つけたあ!!!!」
 あまりにも大きく、そして真っ直ぐ聞こえてきた声にマリアは思わず立ち止まって後ろをふりかえっていた。
 支援課ビル前にて、任務帰りでマリアは最後尾を歩いていたのだが、振り返ってみてもそこには誰もいない。
 遠くから聞こえたわけではなさそうなその声の主は見えないが、どうやらその声はマリア以外の耳にも届いたらしくランディやティオたちも後ろを振り返って首を傾げていた。
「なんだぁ? 今の声……」
「さあ……? 緊急性、はなさそうだけど……」
 誰もいない階段があるだけの、いつもの道である。
 広場の喧騒もいつもと変わらず、特別賑やかな訳でもない。
 まあいいか、と他のメンバーがビルの中に入っていくのを横目に、普段はあまりしないがマリアは耳をすませてさっきの声の主を探してみることにした。
 それは案外簡単に見つかり、かなり近くでぶつぶつとなにか独り言を言っているようだ。
「えっ本物? いや絶対マリアだよね……? こんなとこで!? 何年も探してこんなちょっと買い物にきたこんなタイミング……というか隣にいたのランディじゃないの!? 羨ましすぎるんだけど!!」
「いやおまえ怖……そんなとこでしゃがみこんで独り言言われると他人のフリしたくなるんだけど……」
 独り言の中に自分の名前が出てきて、マリアは少しどきりとした。
 マリアがクロスベルへやってきてからの交友関係は、かなり狭い。そのためマリアを探すような相手はいないはずで、探していたとしてもマリアの所在や連絡先を知っている人間ばかりしかいないはずだ。
 まさか教団の人間だろうか、と一瞬思ったが、声の主である男からは、悪意や嫌な感覚というのは一切感じなかった。
 それにマリアが居たロッジでの生存者はいなかった、と当時聞いている。
 それならどうしてその声の主はマリアを探していたんだろうか。
 そのまましばらくそこで立っていたら、またもぶつぶつと独り言が聞こえてくる。
「えーー絶対マリア……あんな可愛い子他に居ないもんそれに似てるよね僕と……ねっ!? マーク!? あの子僕に似てたよねえ!?」
「いやさすがに遠すぎて見えないって!」
「銀色の髪で、僕と同じ瞳の色! 顔のパーツだって絶対似てるよ!」
「瞳の色まで見えてて恐怖を覚えるよ俺は……あとエリオットもしかして自分のことかっこいいと思ってる? まあ実際そうだけどめちゃくちゃ今俺は悔しい気持ちになってんだけど」
 まるで漫才のようなやり取りに、思わずマリアの口元に笑みが浮かぶ。
 どうやらマークとエリオットという人物らしい。
 エリオットと言われた男性の方がマリアを探していたと言うが、全く心当たりもない。知らない名前だった。
 人違いかしら、と思ってそのまま支援課の中へ戻ろうとしたら、ひょいと広場の柵から金色の髪と空色の瞳の青年が顔をのぞかせて、バッチリと視線が合う。
 目元までしか見えなかったが、確かに瞳の色はマリアと同じ空色である。
 エリオットの空色の瞳はマリアを見るなりきらきらと、まるで子供が憧れるヒーローに会った時のように輝いていた。
 しばし見つめあったまま、けれどマリアが少し微笑めば金髪の男性は「わあーーー!!!」と肉声でも十分聞こえるくらいの声量で叫び、隣にいた男性にうるさいと注意をされていた。
「僕の妹が可愛い!!!」
「はあーー!? エリオットが煩いのしかわかんねえ!」
 少しイライラしたようなマークの声と同時に、今度は茶髪で緑色の瞳の男性が顔を覗かせた。
 そちらは大体の人間がそうであるがしばらく惚けたようにマリアを見て、マリアが少し微笑むと金縛りが解けたかのようにビクッと体を揺らして柵の中に隠れてしまった。
「可愛いって言うかとんでもない美人じゃん……まだドキドキしてるんだけど」
「僕の妹にそういう感情抱くのやめてもらっていいですか?」
「いだだだだだつねるなつねるなつねるな!」
 未だに続く漫才を聞きながら、マリアはビルの中へと足を進める。
 聞きなれない単語と、初めて感じた変な感覚にビルへ入ってからマリアは顎に手を当ててしばらく思案に沈む。
「……妹?」
 そんなことはあるはずがない。マリアの両親は、死んでしまっているはずだ。兄がいるなんて聞いたこともないし、そんな話が信じられるわけもなかった。
 けれど、エリオットと呼ばれた男と目が合った時、マリアの中で嫌悪感や恐怖という感情はわかず、ただただ面白い人だな、程度の気持ちにしかならなかったのは事実である。
 そして同時に、エリオットのほうもマリアの力にあてられたようすはまるでなかったのだ。
 それが血をわけた肉親であるからなのかは分からないが、親の年齢を考えても、確かに兄がいてもおかしくはない。おかしくはないのだが。
「……」
 マリアは何も言わず、眼帯の上から右目に触れる。
 血のような赤い瞳は悪魔の魂が宿っている証であると言われていた。瞳もよく見れば、奥になにか刻印のようなものがあるのも見て取れる。
 日々、悪魔の娘を産んだ母親として、実験を繰り返されていた母親。様々な実験を繰り返されるうちに早々と亡くなった父親。
 万が一血をわけた兄妹だったとしても、他人にそれを気取られるわけにはいかないだろう。
 人違いであることを願いながら、マリアはため息をついて自室へと足を向けた。
 

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