「貴女をここで逃がすよう、彼女に言われています」
星見の塔、連れてこられたここで鋼の聖女から言われたのはその言葉だった。キーアに会うこともなく、アリオスに会うこともなく、あれから2日と経たずに私はここへ連れてこられた。無理やり連れてこられるでもなく、私も声をかけられたら素直についてきたからなのかもしれないけれど。穏やかに今、私は鋼の聖女と向き合っていた。まだ、この人には話が通じるというのがあるからかもしれないけど。
「逃がしたところで、またここに来るわよ?」
見たところ頂上にある鐘になにかあるようだし、きっとまたここへ来ることになるだろうことはなんとなくわかった。笑ってそういうと、鋼の聖女は少し間を置く。
「……その時は、相手をするまでのことです」
「ふふ、それもそうね。キーアが暗い顔をしてるのは、見てると私まで気落ちしちゃうわ。……だから、ロイドたちを連れて必ずクロスベルまで戻るわよ」
「……あなたは」
さて、ここからどこに行くべきか。早くに行けるなら病院くらいのものだろうけど、山道を通ればマインツくらいまでなら行けるだろうか。そう考えていたら、聖女が不自然に言葉を止めた。言いたいことがあるのか、じっと鎧の下から私を見つめているようだった。
「なあに?」
「……あなたは、彼女にそこまで入れ込んでいるように見えません。彼女の力の影響は少ないのに、助けようとするのですね」
それは、聖女からの素直な疑問の言葉だった。零の至宝の力というのは詳しくは知らないけど。それでもあの子がなにか特別な力を持っていることには気づいていたし、それを無意識で使っていることにも気づいていたけど。まあ、大方の事情は呑み込めていると思う。誰につかまっている間、ビル内に聞き耳を立てていたわけではないのだ。
「一緒に暮らしてたら、やっぱり情はうつるのよ。……私に家族はいないけど、妹みたいなの、あの子。放っておけないから」
「……そうですか」
だからあの子を助けたいのよ。そう一言残して、とりあえず私は山道を通ってマインツへ足を向けることにした。
20171009
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