目が覚めたら、医務室のような場所にあるベッドの上だった。確か私聖杯をとりに白野が行くと言うから一緒についていって、それから……それから?なんだっけ?
 あ、そうだ、白野は無事に聖杯を手に入れた……というか、ムーンセルの中に入ってしまって……それをセイバーが追いかけて……おっとそこから全く思い出せない。凛が鎮痛な面持ちでムーンセルを見ていたことは覚えているけど、そこまでで私の記憶は終わっている。つまりどういうことだってばよ。

「おや、目がさめた?」

 しかしなんというか二次元に入れるとは思わなかったなあ、アビスの世界然り、fateの世界然り。人生何があるのかわかったもんじゃないな、なんて妙に意識を別方向に飛ばしていたら不意に私に向けてかかった女の人の声に、私はゆるゆるとそっちへ意識を向けた。ら、なんか巨乳でめちゃくちゃな美女がそこに立って私を覗き込んでるじゃないか。なんだここが天国か……妙に現実味があるし医務室っぽい場所だけどここが天国だったのか。今まで美少女や美女を数々見てきたけどたぶんこの人その中でもトップクラスの美女に分類される。いやほんとに。

「…………あれ」

 いや待てでも見たことがあるような気がするどこで見たんだっけ。だめだ寝起きで頭まわってない。首をかしげつつも起き上れば、美女が楽しげに私の寝ていたらしいベッドの脇へ腰かけて「本当に普通の人間だなあ」と笑った。あ、はい、人間です……。普通なのかどうなのかわからないけどこんな二次元に入れるようになるまでは普通の女子高生でした……。

「ここがどこかわかるかな?」
「えーっと……美女の居る医務室……?」
「うん、まあ正解だ。もっと大きな範囲だと?」

 すごい美女というのを否定しなかった!いやまあ本当に美女なんだけど!目を奪われるレベルの美女なんだけど!でも私この人絶対どこかで見たことがある。そして今までの経験上見たことがあると思った人に会った場合そこはなんらかの二次元的なところなわけなんだけど。私ルークたちと一緒に溶けてからこれが生身なのかなんなのかよくわからなくなってきたけど、なんか溶けたあとからこうやってよくわからない世界に飛ばされてるよなあ絶対。
 っていうか大きな範囲って。……目の前の人は日本人というには少し顔立ちが違うし、でも言葉は今までと同じで通じてる。電脳の世界でもなさそうだし、そうなると……いや考えてもまったくわからん。

「ごめんなさいぜんっぜんわかんない」
「じゃあ質問を変えてみよう。ここに来た時のことは覚えてる?」
「……寝てた?」
「なるほど、覚えてないか」

 目が覚めたらここで寝てましたっていうありがちなアレですけど、と付け足して言うと、美女が「なるほどなるほど」と言ってまた楽しそうに笑う。そして何かを思い出したのか、ふふふと口元をゆるめて美女は笑いはじめた。そういえば白野と会ったときも確か私、急に保健室に現れたと思ったらずっと寝てたとか言ってたっけ。って言っても一日寝てて、ちょうど白野が来た時に目が覚めたとは言ってたけど。おかげで私はルークと消えた記憶の次の記憶が、私を覗き込む白野と桜の少し心配そうな表情だった。

「君が寝ているロマニの上に急に現れたらしく、ロマニは固まって、そこをたまたまロマニを起こしに行った私と彼が現場を目撃したんだけど。いやあ、真っ青な顔で首を横に振るロマニを朝から見れるなんて今日は楽しい一日になりそうだ」

 ええとどうやらそのロマニさんという人の上に私が急に出てきたってことでいいのか?というか話の口ぶりからしてロマニさんとやらはもしや男性なのかもしれない。それは申し訳ないことをしたと思う反面なんで私起きてなかったんだ!!と過去の自分をぶん殴ってでも起こしてやりたい気持ちにかられた。どうせイケメンなんだろうロマニさんとやらも!!そして私がそのロマニさんとやらの上に意識のないまま乗ってしまって、この美女の言うようになったんだろう。……って、彼って誰だろうか。いや、まああとで教えてくれるだろうけど。
 って、ここがどこなのか教えてもらってない。話がそのロマニさんとやらの話になってる。美女は変わらず楽しそうにくすくすと笑っているし。……って、白野。待って、白野と、桜と、そうだ、セイバー。思い出して、ふと目の前の美女に既視感を覚えた。会ったことはないし話したこともない。初めて会う美女。けど見たことがある。そしてさっき自分でも思ったけどここはどこかの二次元に違いないというのはもうなんとなくわかったけど。

「ん?私の顔に何かついてる?」
「待って待ってちょっと考える!」
「うん?まあ、ゆっくり考えてくれ」

 そう言うと、美女はやはり楽しげに笑って私をじっと見つめだした。ひい、美女が私を見ている!私なんかの顔を見るよりも鏡を見ていたほうがきっと楽しいと思うけど、今はそんなこと考える余裕はないわけだ。がんばれ私の脳、思い出せこの世界を!って、いや、さっき白野とセイバーたちのことを思い出して、何か引っかかった。そう、あの世界の続きのようなこの感覚。続き、というよりも、目の前の美女から感じる気配とか、感覚に、セイバーと同じものを感じたわけで。

「ダ・ヴィンチちゃん。さっきの子は――」
「ああ、いらっしゃい。今起きたばかりだよ」

 部屋のドアをノックして入ってきたのは、白い制服のようなものを来た同じ年代くらいの男の子だった。いや、同じ年代って、私体感時間で言うともう二十歳超えてるような気がするからよくわからないけど。だけど、その男の子には見覚えがあった。ありすぎた。そしてその男の子の後ろからついてきた、白衣を来た女の子にも。そしてつながる、目の前の美女だ。ダ・ヴィンチちゃん。

「……ああ!」
「何か思い出したかい?」
「いや、思い出したというか、サーヴァント……ダ・ヴィンチちゃんって、ああ、いや、あー……」
「ふむ。サーヴァントを知ってる、と」

 少し目を細めた美女と、不思議そうにしている今入ってきた男女の二人。どこから説明したらいいのか、というか、どう説明したらいいのかわからなくて私はベッドの上に座ったまま頭を抱える。でも、ごまかして話すのは私は絶対にできないし、たぶんこの人たちは多少の不思議なことには慣れているはずだろうと思う。だから私が別の世界から来たといっても受け入れてくれるような気がするけど、それを話すにはとりあえずいろいろなところを話さないといけないだろうことはわかる。

「あの、どこから話したらいいのかわかんなくて混乱してるんだけど」
「じゃあ、私からの質問に答えてもらうことにしようかな。それなら大丈夫そう?」
「えっとたぶん」

 話の見えないであろう、ぽかんとしたままの二人を美女が手招きして、ベッドの横にあった椅子をすすめた。それに二人はわからないながらも座ると、じっと頭をかかえる私を見る。ああ、うん、わかる、見たことある。大丈夫だ。結局は、似て非なるFateの世界にいるということになるだろうけど。

「あ、私、由良。神園由良。名前呼び捨てで全然オッケー!」
「由良か。日本名だね。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。気軽にダ・ヴィンチちゃんって呼んでくれたまえ」
「はーい」

 次いで、ダ・ヴィンチちゃんに促された男女――藤丸立夏とマシュ・キリエライトの自己紹介をうけてから、私はダ・ヴィンチちゃんの質問にひとつずつ答えることになった。

戻る