突き抜けるような晴天の空の下、綾瀬咲は通学用の鞄を抱えるようにして、背中を丸めて歩いていた。
 と、いうのも、咲の隣を、歩幅を咲に合わせて歩いている男――喜多川祐介がいるからなのだが。
 
 つい昨日、施設へ一緒に行きたい。子供の世話がしたい――と咲は勝手におもっているのだが――と言った祐介の言葉通り、祐介は放課後のホームルームが終わってからすぐに咲へ声をかけたのだ。じゃあ行こうか、と。
 もちろん祐介がなんの意味で言っているのか理解していた咲はなんの疑問も持たずに返事をしたが、クラスメイトはそうもいかなかったらしい。いくら咲と祐介が、咲がいじめられている、見た目が近寄りがたいが頻繁に話しかけていたとしても、だ。
 行こうか、と言われすぐに立ち上がった咲に、視線を投げる生徒は何人もいた。大多数が興味だけの視線ではあったのだが、中には嫉妬のような目で咲を見るクラスメイトもいたのだ。まあ、それが咲をいじめているクラスメイトだということまでは、咲はともかくとして、祐介はわからなかったが。

「き、きたがわく」
「祐介、ぐ、偶然〜」

 教室を出る時もひそひそと言われていたが、祐介はそれをさして気にした様子もなく出てきた。もともとそういう人間ではあるのを咲は理解していたのだが、さすがにあの時は教室を別で出るようにお願いしておけばよかったと思ってしまったのだ。祐介まで、いじめや、そのたぐいのものをされたらとおもえば、咲は胸が締め付けられる思いがした。
 隣に並んで施設へ向かって一緒に歩くというのを、咲ははじめて体験していた。高校に入ってからはおろか、中学時代もほぼ一人で通学をしていたのだが、隣を人が、しかも見目が整った祐介が歩いていると思うと、咲はあまりの釣り合わなさに消えてしまいたくなる。

 それでも何か話したほうがいいだろうと思い口を開きかければ、数人の高校生が祐介へと話しかけた。祐介はそれに「ああ」と特に驚くわけでもなく答えていたのを見て、咲はそっと祐介の後ろへと隠れるようにした。
 俯いて、鞄をかかえて、気配を消す。そっと前髪の間からその高校生数人を覗き見れば、咲とは月とすっぽんのような勢いで違いのありすぎる面々で、咲は呼吸を一瞬忘れた。
 祐介の友人であろう、他校の制服を着た面々を見て、咲は完全にフリーズをした。男子二人に女子一人。きっと祐介にとって他愛のない会話なのだろうそれも、咲からしてみれば完全に別の世界のできごとのようだったのだ。全員顔が整いすぎていて、咲はまるでみにくいあひるの子にでもなった気分で、そろそろと祐介のうしろへと逃げ込んでいた。

「えっと、はじめまして。祐介の友達?」

 このまま自分には触れずに会話は終わるだろうと思っていたのだが、咲の予想に反して、女子生徒が咲へと人懐こい笑顔で話しかけた。それにびくりと肩を揺らしたものの、女子生徒は「あ、ごめんね驚かせた?」と申し訳なさそうに眉を下げる。

「あ、い、いえっ、あ、あの」
「私、高巻杏っていうんだ。よろしくね」
「あ……は、はい」

 高巻杏、という少女は咲に笑顔で自己紹介をしたが、された咲というと視線を合わせることもできず、ただ「えっと、その、あの」と小さな声で繰り返しているだけだった。杏を見ていない咲はわからなかったが、あまりのおびえかたに、杏が少し目元を悲しそうにゆがめ「あなたは?」と、さっきよりか幾分か優しい声色でそう尋ねた。

「っ……あの、わたしは、綾瀬……咲、と、いいます」
「うん、咲ね。私のことも杏でいいよ」

 杏でいいよ、と呼び捨てでいいと親しく言ってくる杏に、咲はひえ、と喉の奥から声が出てしまった。今まで言われたことのないような言葉や態度に、完全に咲はパニックを起こしていた。が、そんな咲を知ってか知らずか、金髪の少年が「ゆ、祐介おまえどこ行くんだ?」と決められた台詞を読むような口調で祐介にそう尋ねる。それに杏と黒髪の少年が視線をやったが、金髪の少年は気まずそうに視線を反らしただけだった。

「これから綾瀬のいる施設へ行こうと思っている」
「この先にあるのって、養護施設?」

 真っすぐに杏から見つめられた咲は、はひ、と気の抜けた返事をする。それに三人――祐介もだが、視線を一瞬だけかわすと「俺たちも行っていい?」と、黒髪の少年が次いで咲へとそう訪ねる。

「えっ……?で、でも」
「こ、こうみえてこいつ将来養護施設で働きたいんだよな!な、暁!」
「そうだったのか、暁……」

 知らなかった、と祐介が顎に手を当てて何かを考えるようにうつむいたのを横目、むしろ前髪の間から見ながら、咲は「きょ、きょうは、だいじょうぶだと、おもいます……」と言うと、黒髪の少年――暁は、眼鏡の奥の瞳を少し細めて「そう、ありがとう」とどこか苦笑いにも似たような顔で笑った。

「ああ、そうだ。来栖暁です。よろしく」
「あ、そういや言ってなかったか。オレは坂本竜司。ま、頼むわ」

 まるで正反対のような自己紹介をした二人に、咲はやはりうつむきながら「よ、よろしくおねがいします」と言い、もういちど自分の名前を伝え自己紹介をした。
 

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