髪の毛を染め、眼鏡をやめ、言いたいことを飲み込むことをやめたと言っても、咲の根本的なものがそう簡単に変わるわけでもない。
学校に行く時は、杏や竜司曰く舐められてはダメだという理由で眼鏡や髪型、スカート丈も気にしてはいる。重くならないように、とは杏からの助言である。
もちろんいじめ自体が全く無くなったわけでもないが、数は圧倒的に減った。
が、いくら見た目を派手にしたところで落ち着く格好というものもある。
「……おまえ、今朝髪型それだったっけ?」
「あの……や、やっぱり、落ち着くんです……」
咲を一人で歩かせるのはまだ不安だということで、当番制にした上で、竜司が学校までの送迎担当日、放課後である。
呆れ顔の竜司から視線を逸らすように咲はすっと俯いてしまった。
前髪は短く切られてしまっているため顔を隠すことはできないが、コンタクトを外して眼鏡をかけ、髪の毛は三つ編みに。
髪の毛の色と多少アレンジされた制服が派手なため妙なギャップがあるのだが、いやこれはこれでありだな、などどうでもいいことを竜司は頭の隅で考えた。
「まあ急に変われっつーのも無理だろうけど……」
「す、すみません……」
やはり目を合わせずに、咲は頭を下げた。
咲が仲間になってからというもの、咲が竜司と目を合わせた回数はごくごくわずかだった。
もちろんそれは暁や祐介も同じなので特に竜司も気にしている訳では無いのだが、咲にとって竜司の見た目が怖い部類に入り、男、というのがまずいのでは、と考えているのもまた事実である。
杏や暁に言ったところで「仲間から慣れてかなきゃずっと怯えたままだよ」と言われてしまえばそこまでだ。
咲と出会った当初の怯え方と怪我の具合は本当に最悪だったし、咲自身「人と目を合わせて話したい」と望んでいるのだから望むまま、少しずつリハビリをして行くべきなのだろうが。
「あ、の、坂本くん」
「ん?」
しばらく無言で並び歩いていたら、咲から控えめに声がかかる。
沈黙が不快ではないので竜司も積極的に話しかけてはいなかったが、咲から話しかけること自体がかなりレアなため、思わず竜司は立ち止まって咲のほうへ体を向けていた。
それに咲がびくりと肩を揺らすが、怯えではなく驚いただけだろうこともなんとなく分かり、そのまま咲が口を開くのを待つことにする。
「きょ、今日は、その、メメントスに行くわけじゃ、ないですし」
「そうだな」
「作戦会議、だけなので、その」
しどろもどろ、詰まり詰まり。普段の竜司ならイライラしてたまらないのだが、咲のテンポに合わせるのも随分慣れたものだった。
慣れるほどの時間を共有しているのだが、咲から竜司に対する慣れ、はほぼ見えない。背景を思えば仕方の無いことだと割りきれるが、それでも少しの心の引っ掛かりがないと言えば嘘になるだろう。
しばらく咲がもごもごと口の中で何ごとか呟き、そして意を決したように顔を上げた。茶色がかった瞳は、真っ直ぐに竜司を見上げている。
「ど、ドーナツ、買っていきません、か!」
「………………は?」
真っ直ぐに合った視線にも、思わぬ発言にも驚き、竜司は素っ頓狂な声を上げた。それに咲が頬を真っ赤にして、あの、その、と続ける。
視線はもう下がってしまっていた。
「さ、作戦会議だけなら、その、お腹になにか入れてもいいかなって、思って。あの、き、喜多川くんもさっき小腹がすいたって言ってたし、ば、バイト先で、クーポン、貰ってる、んです」
段々と小さくなる声に、縮んでいく肩。ぎゅうと鞄を抱きしめるようにしている咲の頭に、竜司は思わず手を伸ばしていた。
ぽん、とその小さな頭に手を置いた時に、咲は見てわかるほどにびくりと体を揺らして固まってしまった。
これは怯えのほうだ、と竜司は思ったが、そのまま何度か頭に手をぽんぽんと置き、緊張が出ないようになんとか務めて声を出す。
「いんじゃね? てか俺も腹減ってるし」
なんでもないように言えば、しばらくして固まっていた咲が体から力を抜いたのが分かった。
おそるおそる上がる視線をじっと待てば、それは竜司の目と合う前に、先程とは違う意味で顔を真っ赤にした咲によりそらされてしまう。
次いであわあわと慌てだした咲に、くっ、と笑いをかみ殺す。
撫でられることがなかったのかなんなのか、先程までの脅えとは違い照れて慌てているらしい咲に、竜司は上がる口角をそのままに「ほら、行くぞ」と声をかけた。
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