「流石にそこまで飢えていないさ。昨日、きみに無理をさせているからな」
鶴丸はそう言って、今晩は私を抱くつもりはないらしかった。
ただ、部屋を出て行く考えはないらしく、布団を二つ並べると、並べる必要があったのかというほど私に密着して横になった。
どうしてこの刀はこんなに彼氏ヅラするのだろう、と思ってすぐ、そうだ、朝に風呂場で「付き合う?」と思いつきで言ってしまったんだった、と思い出した。
「鶴丸」
「うん?」
「本丸のみんなには、黙っておこう」
「どうして?」
「もうすぐ見習いが来るから。見習いには、主と刀剣男士が恋仲であることは知られない方が良い」
政府から、審神者と刀剣男士の恋愛については咎められてはいなかった。別に推奨されてもいない。メリットもあればデメリットもあるので、勧めることは到底しないけれど、禁止するほどのものでもないとの考えだろうか。
それに、私たちはそんなに色気付いたものでもない。
鶴丸の想いを知って、初めの感想は「正気か?」というものだった。私はそんなに疎くないはずなのに、この刀から好意など感じたことはなかった。何というか、主としての好意であって、それ以上ではなかった。嫌われている訳でもなかった。好きが転じて悪態をつく、ということもなく。きっと他の刀もこれを聞いたら驚くはずだ。
他所の本丸ではどうか知らないが、この鶴丸は驚きや面白いことはもちろん好きだが、静かな刀だった。だから特別早くに来たわけでもないこの刀と、そこまで個人的に話したことはなかった。それなのにこの刀は、そうするのが当然であるように私と過ごす。私には、よく分からなかった。
鶴丸は私に配慮してくれているようだった。本丸のみんなに分からないよう、頻繁に私の元へやって来たり、今まで以上に話しかけることはしなかった。あくまで通常通りを装った。
見習いが来てからもそれは変わらず、私の部屋を訪れることはなかった。
見習いは、良い審神者だと思う。まだ審神者のたまごだけれど、良い性格で優秀な部類だろう。それでも私は彼女を疑わずにいられなかった。もう諦めてはいたけれど、やっぱり期待してしまっていた。今度は私の期待を裏切らないかもしれない、と。
夜は眠れなかった。見習いが刀剣男士の誰かと睦み合うかもしれなかったから。私は結局、見習いが来ている間、慢性的な睡眠不足となって体調を崩した。夜に起きているから、昼間に起きれなくなっていった。朝に指令を出して昼間に寝て、夜になると起き出して朝方まで過ごす、ということを繰り返した。見習いにはそういう生活リズムだと思われているかもしれない。刀剣たちはわざわざ私の不調を伝えなかっただろう。私がそう頼んだからだ。
昼夜逆転してしばらく、鶴丸が私の部屋にやって来た。
「不安かい」
そうだな、と思う。けれど何が不安なのかももう、わからなかった。
鶴丸は私が起きている間、ずっと私と共に過ごした。起きているとは言っても書類仕事をするか、布団に横になるかくらいしかしていなかったので、彼は手伝ってくれたり、ただ添い寝してくれていた。少なくとも夜の間、鶴丸だけは私と共にいるから見習いと寝ることはない。昼間はどうだか知らないが、昼間にわざわざ見習いと関係を持つとは思えなかった。
鶴丸は昼に眠りたくならないのだろうか、と思い尋ねたことがある。俺は人ではないからな、と言っていたが、多分あれは詭弁だ。私のためだろう。そう思えてから、少しずつ、体内のずれた時計を直し始めた。彼はそれでも私の元へやって来て、夜は共に寝た。朝起きても彼はいるから、きっとずっとここにいたのだろうと、思えるようになっていた。そんな調子で本丸の皆にバレないはずがないのだが、この時の私はそんな考えもできぬほど、頭が回っていなかった。
「すみません、体調を崩していて」
完全に体内時計が元に戻ったのは1ヶ月後くらいだった。復活してから、私は再び見習いの面倒を見るようになった。見習いは深く聞いてこなかった。刀剣たちもそうだ。気を遣われているな、と思ったが、その好意に甘えることにした。
鶴丸は私が昼間に寝ている間にもちゃんと顔を出して日課をこなしていたらしい。それを改めて聞くと、彼は本当に人ではないんだなと思えた。鶴丸までいなかったら疑われると踏んだのだろうか。それにしたって鶴丸が夜毎自分の部屋を空けているのを誰かが知っていたっておかしくないのにな、とそこで漸く思った。知っていて、黙っていてくれているのかもしれない。見習いが帰ったら、確認しようと思った。
見習いが帰る日の夕食は豪華にして、送別会?のようなものをしようと言った。もちろん、見習いにはその旨を確認してある。
「不甲斐ない審神者ですみません。あまり参考にはならなかったかもしれませんが」
「いえいえ!とても助けになりました!こちらこそお世話になりました」
見習いとは結果的に良好な関係だった。彼女は私の刀剣と寝るような真似はしなかった、はずだ。
二日前には見習いの送別会の話をみんなに伝えた。特に厨房を任されることが多い刀には嬉しい話だったようだ。私は普段、あまり食べないから、たくさん作ってくれ、との指示が珍しかったのかもしれない。燭台切は見習いに好物を聞いていたが、それだけでなく私の食の好みも確認しに来た。私があまりに偏食であると知っているからだ。
「せっかくなら、主にも楽しんで欲しいからね」
私もできるならそうしたいと思った。
今日は早く寝ようと思ったのに、明日で見習いとも最後だと思うとやけに目が冴えてしまって、なかなか寝付けなかった。遠足が楽しみで眠れない、なんてことはなかったので、これは楽しみなのではなく、不安からだろうと分かってしまった。鶴丸にも早く寝た方が良いと言われて、分かってはいるのだが、何故かそわそわして眠れなかった。それでも彼は辛抱強く私を寝かしつけた。
朝起きると、いつもより寒い心地がした。
鶴丸がいなかった。
さあ、と血の気が引いて、急いで布団を剥いだが、当然誰もいなかった。昨日ずっと不安な心地がしたのはこれのせいか。悲しくはなかった。「ああ、やっぱりな」という気持ちだけ。
そのまま、ぼうっとしていると、襖が開く。鶴丸だ。彼は私を見て「もう起きていたのか」と言った。
彼は今までにもこうして、私が寝ている間に抜け出していたんだろうなと思った。確定ではない。勿論。だが、こうして彼が抜け出しても私は気付くことができないことが分かっただけで脱力した。
もう、なんだかどうでも良かった。
「まだ、起きるには早いからな」
鶴丸はそのまま布団に戻ってこようとした。
「、出ていって」
布団を強く握り締めて、布団を見つめたまま言った。彼はぴた、と動きを止めて、それから私を見た。彼が息を呑むのが分かった。
「出て行って」
もう一度、今度ははっきりと発音した。それでも彼は動こうとしなかったので、視線を彼にやって、もう一度だけ言った。
「出て行ってと、言ったの」
「…理由を聞いても?」
「もう信用に値しなくなったから」
「きみ……それは、」
「いいから出て行ってッ!」
私が滅多に出さない大声を出したからか、彼は怯んだようだった。
「……ああ、分かった。だが、後で誤解を解かせてくれないか」
「……見習いが、出て行ってからなら」
見習いは良い人だった。流石にそこは見間違えない、はずだ。見習いを巻き込むような真似はしたくない。それに、……それに、万が一、鶴丸が見習いを想っていたとしても、またその逆でも、見習いがいなくなってからならばどうにもならない。私はここまできても、怖かったのだ。
彼は私の返事に一応納得して、部屋を後にした。いつも部屋には二人でいたから、やけに広く、寂しく感じる。それが嫌だった。彼の言う通り、まだ起きるには早い。布団に包まり眠りにつこうとするが、うまく寝付けない。結局、皆が起き出すまでの間、仕事をすることで気を紛らわせるしかなかった。
起きて顔を出すと、「主、寝不足?大丈夫?」といくつかの刀から声をかけられた。「見習いの送別会が心配だったのか、上手く寝付けなくて」と言えば、皆それ以上は聞かなかった。
送別会は昼から行った。今日は最終日で、夕方には彼女は帰る必要があるからだ。昼から飲めるということで、酒好きの刀は喜んで酒を飲んでいたが、私は酒に強くないので遠慮していた。見習いは成人していて、飲めるようだったので酒を勧めてみた。
「遠慮しないで大丈夫ですよ。私が飲めないだけなので」
「いえ、そんな……」
初めは遠慮していたが、会が進むにつれ無礼講の雰囲気というか、皆んなが酔い出したので、その躊躇もなくなったようだった。彼女は頬を赤く染め、楽しそうに笑っていた。
「私の研修先が此処で良かったです」
ふわふわと、嬉しそうに笑う。
「そう言ってもらえて何よりです」
本当にそう思った。その言葉通り、この本丸が良い本丸であったから、良かったのだと、そうだと信じたかった。
別れを惜しんだものの、誰も見習いに着いて行きたいとか、もっと此処にいてくれとは言わなかった。当たり前だ。それが当たり前のはずなのだ。だから、見習いと関係を持った刀だって、いないはずだ。今回はたまたま私が見つけることができなかったわけではないはずだ。私は何度も何度も、何度も何度も、そう自分に言い聞かせた。
彼女を見送りながら、自分に暗示をかけるようにそう唱えた。
彼女が帰れば、そこはすっかり日常だ。少し浮き足立っているものの、明日に酔いも覚めればきっといつも通りだろう。
鶴丸はその晩、すぐに私の元へ話をしにきた。みんなの前では、そこまで私に過度に接触しないので、日中に寂しいと思うことはなかったが、夜は別だ。彼がいないと、何となく落ち着かない。この短い間にすっかり変わってしまった。
「入っていいかい」
「…どうぞ」
「今朝の話の続きだが、」
いきなり本題から入るんだ、と少し意外に思った。
「まず、朝方に起き出してすまなかった。寒かっただろうし、起こしてしまったな」
「…はい」
「信じてもらえないかもしれないが、きみが眠っている間に布団から出たのは、あれが初めてだ」
「……」
この主張には全く納得できないが、一旦最後まで聞くことにした。
「…人の気配がしたんだ、夜更けにな。侵入者ならとっくに気付いていただろうが、そうではなかったから、反応が遅れた。刀でない、人の気配。君は此処にいる、となれば残るは見習いだ」
私は相槌も打たず、黙って話を聞いた。
「見習いが最終日の夜中に人知れず起き出していて……俺は彼女をある程度は信用していたが、疑わずにはいられないだろう。だから様子を見に行ったのさ」
鶴丸は、私の方を見ていたけれど、私は鶴丸を見られなかった。
「話を聞けば、彼女は、目が冴えてしまって、眠気が来るまで少し歩いていたのだと言う。声をかける前の様子からして、その言葉に嘘はなかった。だがあんまり歩き回ると他の刀や、……きみが起きてしまうと思ってな」
彼はそこで少し頬をかいた。
「君は最近ようやく眠れるようになったから、なるべく起こしたくなかったんだ」
彼は視線を下に落として、それからまた、私の方を向いた。
「彼女と少し話すことにした。彼女の気持ちが落ち着くまで。…明日が最終日なことに実感が湧かないと言っていたよ。いつもは疲れて寝るが、昨日は業務も少なくて余計に起きやすかったのかもしれない」
私は相変わらず、彼を見なかった。
「彼女は君に感謝していた。ひとしきり話したら、彼女はそろそろ眠れそうだと言って、……それだけだ。彼女は部屋に戻り、俺はきみの部屋に戻った」
「……そう」
彼の話は筋が通っているし、何も間違えていないように聞こえる。だが、なかったことを証明するのは、あったことを証明するよりも遥かに大変だ。言うならば、悪魔の証明である。彼と、見習いが何もなかったなんて、誰も証明できやしないのだ。そして、証明できないものを、信じる気には、私は到底なれなかった。
きっと彼は嘘をついていない。私の願望も込みで、そう思っている。でも駄目だ。どうしたって私は、不安に感じてしまう。今日はそうだったのかもしれない。だが、昨日以前は?私が起きなかっただけではないのか?と。
「…話は分かった。嘘はついてないように聞こえる。……でも私は、疑ってしまう。『何もなかったことを証明して』なんて、無茶を言ってしまう」
「それは、…正直に、できない。証人もいない。だが、これまでの俺の行動が、信じる要素になってくれないだろうか。俺が悪かった。最後の最後で、きみの信頼を裏切るような、不安にさせて、疑われるような真似をしてしまった。俺に非がある。そのことを重々と承知した上で、どうか、……俺を見限らないではくれないか」
一度、見習いと関係を持った刀剣であれば、その後の行いをどう改めても私に捨てられる、と鶴丸が思っていてもおかしくない。実際、事実だけを見ればそうだ。だから、私に一度疑われてしまえば、それは私に捨てられることだと、彼は思っているのかもしれない。だが、鶴丸は、彼は、見習いと関係を持っていない。流石に、私だって分かっている。あの時はカッとなって、一周回って呆然として、彼を追い出したが、冷静に考えればすぐに分かる。彼は潔白だと。彼を信じ切れない、私の弱さだ。
「…分かってる。私が、…信じられないのが、いけないの」
「それは違う!…きみは傷付きすぎたんだ。そりゃ信じることも難しくなるさ。俺が我儘を言ってるんだ。……無理を言ったな、すまない」
「ううん。無理じゃない。……信じる。鶴丸を」
「きみ、……」
「一旦、信じてみることにする。それで鶴丸がこの先ずっと私の側にいてくれたら、『信じて良かったんだな』と思うことにする」
そうしてみる、ことにする、と言うのは中々に良い案だった。仮にこれで私が裏切られていたとしても後悔はないし、それなら二度と刀を信じなければ良いだけの話だった。
「…ああ、分かった。この身を持って、きみに忠誠を誓おう」
鶴丸は私を責めるようなことは言わなかった。いっそのこと、責めてくれたほうが楽だったのに、そうはしてくれなかった。
見習いが去ってからも、彼は変わらなかった。本丸の皆んなに関係を言いふらすようなこともしなかった。もうとっくに皆には露見しているのかもしれないが、どの刀も聞いてこなかった。一応、見習いが帰ってからそれとなく探ってみるのだが、鶴丸はいつも通りであって、主は鶴丸を信用しているだろう、というような回答しか返ってこなかった。流石に鶴丸が私の面倒を見ることが多くなっていたから、この本丸の中で鶴丸が私の信用を一番に得たことくらいは理解しているらしかった。鶴丸が寧ろ口止めしているのかもしれない。それは一度認めて仕舞えば私たちが別れたときに、私が気まずくなるだろうという配慮だと言うことはすぐに分かった。私たちはそもそも、私の軽口のようなもので付き合うことになったのだから。そして、今、鶴丸が私を一途に愛してくれていたのか、そしてこれからもそうなのかと、私が疑っている状況なのだから、ますます言えはしない。酷い扱いだ。けれど鶴丸は文句の一つも寄越さない。実は私に対する執着が見えなさすぎて、彼の気持ちを疑ったことは数え切れない。彼は他の刀に対して悋気を抱くことがなかった。それは私が常に刀剣との距離感を見誤らないことも一つだが、彼に余裕があるように見える。彼の、神ゆえか、年月ゆえか、余裕のある態度は私を焦らせた。
鶴丸はこの本丸に私という審神者を主として定着させるため、まずは自分が審神者の信頼を得るように動いているのではないか、という仮説はあまりに現実味を帯びていて、いつも私の頭の片隅に置かれていたし、そういった旨の質問もしたことがある。見習いは受け入れない、と言い、鶴丸が私の部屋へ夜這いしにやって来た、翌朝だ。
「…皆んな、私に残って欲しいと言ってた?」
「当然だろう。だが、俺は皆とは少し種類が違うだろうな」
鶴丸は、あの晩以降、私を抱くことはしなかった。それもまた、私を妙に焦らせた。鶴丸は信用できるはずだ。それなのに、いつも、……そうだ、認めよう。私は鶴丸が好きになっていた。だが、肝心の鶴丸からの好意が見えず、不安なのだ。彼は誠実な言動をする。けれども、それだけだ。私に対してとても誠実で、真摯なだけ。それは愛という欲望からは遠くかけ離れて見えた。彼のかつて語った愛とは、本当に愛であったのだろうか?主に対する忠誠ではないのか?
夜も見習いが帰ってから変わらず、私の部屋にやって来ていた。ただ共に眠るだけ。文字通り共寝である。
「…鶴丸。聞きたいことがあって」
「なんだい」
「鶴丸は…前にも聞いたけど、本当に私が好きなの?恋愛的な意味で?女として?主としてではなく?」
「そうだ、主としてではなく」
「一個人として好ましいという意味でもなく?」
「違うな。平たく言えば、愛している」
「……私にはとても、そうは見えないの。大切にされているとは思う。けれど、それだけ。鶴丸の欲が見えない」
「…きみは俺の欲望が知りたいのかい」
「そう、…そうなのかな、うん、まあ、そうかも」
「煮え切らないなあ」
「私、鶴丸が好き」
「……なんだって?」
「あなたが好きなの」
鶴丸は久しぶりに驚いた顔をした。
「それは…驚いたな」
「嬉しくない?」
「嬉しいさ、だが、それは…本当にそうなのか?」
「…どういうこと?」
「誰でも、きみに優しくて、忠義を誓う刀なら、何でも好きになっていただろう。それは本当に、"おれ"が好きなのか?」
「…意地悪なことを言うね。そんなの存在しない世界だ。私は側にいてくれた、鶴丸が好きなの。でもそれだけじゃなくて、私を想って行動してくれるところも、好き」
好きだと伝わらないことはこんなにももどかしい。
「それだって他の刀もできたかもしれない。でも実際のところはそんな刀はどこにもいないじゃない」
「…ああ、そうだな。俺だってそうだ。何よりもきみにこの気持ちを疑われちゃ、堪ったもんじゃない」
鶴丸は私に近づくと、ゆっくり布団に押し倒した。今夜は月が明るく、彼は逆光だった。彼の白い髪と、黄金の瞳は、月光に照らされて、きらきら光っている。
「欲が欠けているようにでも見えたかい。それはきみの方だろう。残念だが、きみの鶴はそんな綺麗じゃない。いつもこうしたいと思っていた。一度この快楽を知ってからは、なおさら」
彼の瞳からいつの間にか目が離せない。大した力も込められていないはずの腕も、身動きが取れなかった。金縛りにあったら、こんな感覚だろうか。口でさえも開かない。
黙ったままの私をどう思ったか、彼は「だんまりか?」と返事を促す。私は、彼の欲望を再び、目にしたかった。彼の愛とやらを、信じたかった。だが腕は抑えられているし、上手く言葉にもならなかったので、仕方なく足を彼の体に絡ませた。
「!っ」
甘えるように脚を擦り合わせれば、私の言いたいところがきちんと伝わったらしい。
「…良いんだな?」
「うん。……私だって、欲望塗れの汚い人間なんだから、鶴丸も、私への欲を見せてよ」
鶴丸の黄金の瞳に私が映っているのが見える。自分がどんな顔をしていたかは分からない。だがきっと、彼を欲してやまない女の顔だ。だって、目の前の彼が、私を欲してやまぬ、男の顔をしているのだから。
ああ、そうか。
私はようやく、彼を信じることができそうだった。
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