番
初期の頃の案が残っていたので供養しました。
オメガバースパロ。
謎時空です。
恵が禪院の当主になっていますが、特に誰も死んでいない未来設定です。ちなみに当主は直ぐに真希になります。
以上、よろしければどうぞ。
禪院家はなかなか鬼畜な家であった。
齢十五の少年少女を番わせて、家系を繁栄させようというくらいには。
この世には男性、女性以外に、α、β、Ωという三つの性があった。
不幸なことに彼女はΩとして生を受け、彼はαとして生まれたのだ。彼らが番うことはもうずっと前から決まっていた。彼は父親に十億でこの家に売られていた。彼がαであることが分かるや否や、禪院の年頃のΩを番わせる計画がなされた。全ては相伝の子をもうけるため。
相伝の術式を持った男がαであり、同じ年頃のΩが禪院にいたことが幸い__この場合、不幸と言った方が適切であろうが__だったのだ。
五条により一度は阻まれたものの、禪院家は薬を盛ることで二人を番わせることには成功した。全くの事故であった。互いに望まぬ関係だった。彼女は一人のαに縛られ依存する人生など真っ平だったが、その反面、禪院家に逆らえないこともよく分かっていた。家族が人質だったのだ。だから、状況を把握するや否や、禪院家の言いなりとなることを決めた。勤めを果たせば、家族が助かると踏んだのだ。男はそうもいかなかった。彼を縛るものは彼女の他になかったからである。五条の後ろ盾があるというのは随分なハンデであった。
彼女は彼に縋るしかなかった。もう結んでしまった関係を破棄されるわけにはいかない。最終的に咬んだのは貴方だろうと、貴方に捨てられれば私は処分されるだろうと、情に訴えるしかなかった。彼にとって、禪院家の当主になれるだとか、権力には興味がなさそうだったから、交渉の余地もなかった。相伝持ちなら強さだって十分だ。自由なら五条の当主が保証してくれる。家族は血のつながらない姉が一人。昏睡状態であるが、彼女に治す術などない。彼女は懇願した。彼女が死ねば、彼女の一家もまるっと処分されておかしくない。彼女が一番忌避していた、αに縋る状況になってでも、それは避けなければならなかった。
彼は家族を想う彼女に同情してか、番の解消はしないと言った。
禪院家が彼女に出した命令は、彼との子をつくること。それも可能な限り、たくさん。十五人産めば解放してやると、全く現実的でない数字だった。彼らはまだ十五だった。これから毎年一人ずつ産んだって、三十までかかる。だが、やるしかない。Ωは妊娠、出産に特化しているから、不可能ではない。彼女は既に腹を括っていた。対して、彼はそうではなかった。しかし、彼は彼女の提案を飲んだ。恐らくは、同情と責任以外の何物でもなかった。薬を盛られていたとはいえ、番の関係は彼の行動の起因するところでもあったと彼は正しく理解していて、その責任を果たすべきだと考えていたのだろう。彼は約束を違えず毎年、時期になると彼女を抱いた。
発情期に番同士が行為に及べば確実に着床するから、彼らは年に一度ほど、会うだけで良かった。
彼は自分が種馬のように感じるこの瞬間が好きではなかった。彼女からもそう思われていると、そう考えていた。
彼女は彼からの精を受ける瞬間に、とても安堵したような顔をする。それは番との関係によるものであり、また、自分の役割を遂行できることに対するものでもあった。
度重なる妊娠、出産は確実に彼女の身体を蝕んだが、彼女はなんとか耐えていた。出産後はじめての発情期に合わせて彼との逢瀬を果たし、そこで妊娠すれば発情期は止む。実に効率的であった。
出産した子供たちは禪院家に帰属し、正確にはまだ禪院でない彼は子供に会うことはなかった。彼女はある程度会うことが可能だったが、なかなか全ての世話は行えなかったため、女中が主な世話係であった。いずれの子も正しく彼女を母と認識しており、父親のことは知らなかった。未来の禪院家の当主とだけ。
彼女が一人で耐えられたのは三人目までだった。
彼は五条の当主から、応じる必要はないと繰り返し言われていた。だが彼は辞めなかった。それは不誠実であると思っていたからだ。彼はいつも一度出せば妊娠すると分かっていたので、早く済ませて部屋を出た。その方が彼女にとっても良いだろうと。そうではなかった。妊娠してすぐ発情期がなくなるわけではないからだ。一度の発情期は一週間ほどで、その間に妊娠すれば次の周期は来なくなるが、そのはじめの一週間が途中で終わることはない。彼女はいつも残りの期間、自らを慰めて過ごしていた。それにとうとう耐えられなくなったのだ。
気をやる前に「行かないで」と初めて彼に伝えられた。彼は戸惑いつつ、朝まで待ってやることにした。彼女は目覚めても彼がいることに喜び、まだ身体が熱いと言った。彼女のフェロモンに誘発されて、彼もまたラットを迎えていた。彼女が続けて「発情期が終わるまでいて」と言えば、彼はその通りに調整してくれた。突然な話であったが、彼はそうした。彼女が愛しかった。それは番だからなのか、彼女自身にそう感じているのか、分からなかった。分からないから、気味が悪かった。だがとうとう彼女を見捨てることができずに、一週間部屋に閉じこもった。彼女の発情期が終わると、彼は彼女の身を清めてやって、語ることなく部屋を後にした。
それから数年、彼は彼女の発情期が終わるまで、きちんと相手をしてくれるようになった。
目標数である十五の半分を超えた、八人目を産んだとき、彼の知人だという人に彼女は声をかけられたことがある。
「恵を縛るのやめろよ」
そんな言葉だったと思う。彼女はそれに承諾出来なかった。彼女が家族を救うにはこれを止めるわけにはいかなかった。
この言葉をかけられたことを一体どこから知ったのか、彼は「気にするな」と言った。
彼は、彼に番がいることが周囲にバレたのだと言った。しかも十五から。α同士であれば、フェロモンからこの人は番がいると分かるはずだが、私と彼はあまりにも時間を共にせず、フェロモンを付け合わないので気付くのが遅れたらしい。うっかり露見してから、幼い年代で番っているから幼馴染、もしくは昔馴染みの恋人かと思えば、禪院家の策略の政略的な番であったのだから驚きだろう。彼の知人たちは何も間違った感情を抱いていない。
だが彼はもう彼女を愛していた。きっかけなんてどうだってよくなっていた。
「俺がお前を愛してるんだ」
それは言い聞かせているように聞こえた。少なくとも彼女には。彼女は、彼は本当は自分を好きでないのだろうと思った。他に想い人がいるのかもしれない。けれど約束した以上、番を解消するわけにはいかない。そのくらい義理堅い男だということは分かっていた。彼女は彼のその情に漬け込んだ。彼からすれば、情ではなく愛だったのだけれど、彼女には一向に伝わっていなかった。
彼はその年からより丁寧に、より激しく、彼女と交わったが、彼女はその彼との情事に溺れることはあっても、彼自身に溺れることはなかった。彼は彼女が妊娠してからも会うことを望んだが、五条の当主や周囲の人間に諌められ、禪院家からも咎められたことで、彼女には変わらない頻度でしか会うことが叶わなかった。子供も相変わらず顔を見ることはできない。子供には興味はない。子供を成すことで、彼女が俺に少しでも情が湧いたらいい、というその程度にしか考えていなかった。子供を道具として考えるそれは、まさしく禪院である。
彼女が十もの子供を産めば、いよいよ限界がきていた。番との愛の結晶である子供とは過ごせても、肝心の番とはなかなか会えない。匂いも嗅げない。それが蓄積したストレスとなって彼女を蝕んでいた。そのガタが一気に来たのだ。
彼はそれを知ると、いよいよ周囲の声を振り切って彼女の側を望んだ。彼だって、もうとっくに大人であった。彼を諌めるものは、彼女を除いてもう誰もいなかった。
彼は彼女に付きっきりになって愛を囁いた。甲斐甲斐しく世話を焼いた。彼女は自分の子供たちに会えないことが気掛かりだった。もう子供たちは父親が誰か分かっているし、会ったって良いのだ。実際、会ったことのある子もいる。だが彼がそれを嫌がった。正確には子供が嫌なのではなく、子供がいることで彼女との時間を邪魔されるのを嫌がった。お前たちはもう母親から十分愛してもらっただろうと。
彼の機嫌を損ねることは、彼女にとって、自分の家族の危機であるから、彼女もそれを大きく咎めることはなかった。
母が父とばかり過ごすのを寂しく思う子も多く、こっそり母の部屋を覗いたり、忍び込む子もいたが、こぞって父に威嚇され、あまりに気が立っていると攻撃されることもあった。それに懲りて、すっかり子供たちは父親に近づかなくなった。母が妊娠しているというのも大きい。母が妊娠している時に父が側にいるのは初めてで、父が警戒するのも無理はない。子供にそれを理解しろというのも酷なことであるが。
彼女は、番がいることで随分と精神的に安定したようだった。彼女は出産後すぐ子供を望んだが、彼がそれを認めなかった。体も少し休めるべきだと。彼にはもう一つ、子供がいない状態で、二人きりで過ごしたいという思惑もあったのだが。彼女は不安になった。もし彼がこれ以上子供をもうけてくれなければ?彼は彼女を甘やかすばかりで行為に及ぼうとしない。彼女が誘ってもダメだった。発情期が来ても、避妊剤を飲んで、避妊具も着けた。今までそんなことしたことなどしたことなどなかったのに。彼女はどんどん不安になって、とうとう泣くようになってしまった。
「どうして生でしてくれないの」
「負担をかけたくない」
「中で出して……」
それは彼にとってとてつもない殺し文句だったが、ぐっと堪えていた。彼女のそういう姿がとても唆るということもある。彼は、巣作りで自分の服をいっぱいにかき集める彼女の姿を見るのが好きだった。今までやってこなかったから、上手にできずに泣いてしまう彼女はいじらしい。
半年休めたのちに、禪院の老人がまだ妊娠しないのか、彼女はもう不妊になったのかと確認しに来た。彼女は焦った。彼は癪だがもうそろそろ子供をもうけねばならないと考えていた。彼女のことは自分が当然守るが、彼女が勝手に不妊のレッテルを貼られ処分されるのは避けたい。それに家族のために頑張っているのに、それで家族を殺されたらあまりに彼女が不憫だと思ったからだ。
十二人目を妊娠してからは、また連続で妊娠出産を繰り返した。彼女が彼を煽る方法を覚え、それに味を占めたからだ。彼も彼で、彼女が子供を産みたいがために自分を欲していることは分かっていたが、抑えることができなかった。それくらい暴力的な欲だった。
目標の十五人目を妊娠した際、彼女は彼に向かって「今までありがとう。お陰で助かったわ」と別れの挨拶として言った。彼は当然激昂し、彼女を犯した。
「これからも、ずっと一緒だ」
でも子供はもう要らないな、と重ねて彼は言った。彼女は困惑していた。彼はもう私に縛られないで良いのに、と。彼女は、この数年の彼の甘さに浸かって、すっかり抜け出せなくなっていた。端的に言えば、彼を愛してしまっていた。だからこそ当惑していた。
「まだ、番でいてくれるの?」
「当たり前だ」
彼は彼女の額に優しくキスを落とすと、彼女の胎の上にそっと手を当てた。既に妊娠しているから、これ以上は身を結ばないのだが、そこには先ほどまで出された彼の欲がたっぷり詰まっている。彼はそれを撫ぜると、まだいけそうか?と聞いた。彼女はゆっくりとした動作で頷くと、彼に「愛してる」と返事をした。彼は再び実ることない種を中に吐き続けた。ぐりぐり、と押し付け擦り込むようにして、何度も。彼女は恍惚とした表情でそれを見た。彼は今なら俺は種馬で良い、と思った。彼女に種付けられるなら、もう何でも良いと。この女が自分のものであり、自分が彼女のものであるなら。彼は最後の一滴まで余すことなく流し込むと、漸く彼女の中から出ていった。彼は体勢を変えると、また腰を動かし始めていた。発情期以外に体を交えることの「良さ」を知ってしまっていた。
最後の十五人目を産んだ時、彼女は役目から解放された。縛りはなくなり、禪院から解放された。禪院の当主が真希になったのも、この頃だったが、これには彼が一枚噛んでいた。彼女が家に縛られなくなった途端、彼と彼女が住むための家に場所を移した。残念なことに__彼にとっては限りなく幸運なことに__彼らの子供は契約上、禪院に帰属するため子供たちを連れてくることは叶わなかったが、彼女を禪院から引き離すことはできた。
彼女は子供たちを案じたものの、彼の手腕により直ぐに考えることが少なくなった。別に完全に引き離したわけではない。時折、彼女と子供たちは会わせているし、彼は子供を認知していた。それだけで十分だろうと。両親からの愛は必要ないと、彼は経験則から考えていた。助け合う兄弟がいれば十分だ。
彼はこれ以上彼女に無理な出産をさせないために、避妊を心掛けた。だが避妊具をつけることは本能が拒否していたので、薬を飲むに留まった。発情期が来なくとも、繋がっていることが増えたため、発情期が来た時の盛り上がりは一入だった。彼は変わらず一週間、彼女の元を離れることはなかった。呪術師として生きていると不利なことも多いが、強ければある程度融通が聞くことが唯一の利点だった。ずっと彼女を組み敷いては愛を囁き、種付けた。
ふぅ、と息を吐いて呼吸を整えたと思えばすぐに体位を変えて挿入する。あっ、と声を漏らす彼女の反応を楽しむように焦らしたり、反対に達しても動きを止めずにイカせ続けたりもした。一体この年で何を、と思わないでもないが、仕方なかった。彼らには、番として共にした時間があまりに少なかったから、今までの時間を埋めるようにして彼らは繋がった。
そんな彼らの様子を可笑しいと思うのが大抵の人間であり、番関係を持つ一部の人間だけが彼らに同情した。
禪院の当主である真希の方が、よっぽど彼らの子を気にかけていた。まるで逆だ。今までは禪院の人間が、人を人とも扱わぬ行いであったのに。子供らは両親の暮らす家への出入りを禁じられていた。そもそも、場所すら知らされていなかった。だから、両親に会えるのは彼らが禪院家に戻ってきた時だけであり、一人一人で考えればその時間はごく僅かであった。母は、まだ良い。母は少なくともこの家にいる間、子供らを第一に考えてくれていた。それが面白くない男が一人、父だ。父は禪院にいる間にもいよいよ母を抱くようになった。与えられた部屋で母を抱き潰し、翌朝の行動時間を減らす。そして寝室へ行く時間を早める。朝方まで交わっていることもあった。夫婦で睦み合っている際に、子供らが両親の部屋を訪ねたことがあった。彼らがノックして声をかけても返事がなく、恐る恐る横に襖を開けると、布団で密着した両親たちがいた。流石に繋がっている最中ではなかったが、すっかり寝入っている母に腕枕をして頭を撫ぜながら、父はこちらを見ていた。囁くような声量で、しかし確かに子供らに聞こえる声でこう囁く。
「名前が起きる。黙って出て行け」
母を起こしてしまうことは忍びなく、彼らは怯えながら慌ててその場を後にした。
そのことは直ぐに兄弟間で共有され、上の兄弟たち、特に一番上の息子の堪忍袋が切れた。両親に訴えてやろうと上の数人で彼らの部屋を訪ねれば、彼らは懲りずにまぐわっていた。彼らが襖越しに声をかけると返事をしたのは母だった。
「ごめ、んなさい。今行くから」
「行かない。お前たち、後にしろ」
母は悲痛な声で「違う!違うじゃない」と叫ぶのだが、父がそれを全て呑み込んでしまうのだ。誰もその場を動けなかった。声が静まった頃、もう一度、長男がノックした。返事はなく、なるべく静かに、少しだけ襖を開けた。父と目が合う。その父の目は、自分の娘息子に向けて良い視線ではなかった。子供たちは本能的に「殺される」と感じた。伊達に訓練を積んでいない。だが、尚、動くことができなかった。動けば、自分の首が飛ぶと思った。母がどうしているかはわからない。静かだから、また寝てしまったのかもしれない。ただ今は、父の殺意に当てられて、他の情報が何も入ってこなかった。
「後にしろと、出て行けと言っただろう」
それは母を誰にも渡さないという、父の意志であった。それに抗う術を、誰も持っていなかった。