承太郎様と執事


◇ほとんど設定の活かされていないお話。


「…つ、疲れた…!」

思わず漏れた言葉と同時、ベッドへと倒れこむ。
何日かぶりのホテルのベッドは心地よく、わたしを程よい反発でもって受け止めてくれる。

空条家の執事として情けないとか、スーツが皺になるなぁとか。
そんなことが頭を過るけれど、度重なる戦闘と延々歩き続けた数日間の疲労が、わたしの身体に重く重くのし掛かっていてどうにもすぐにこのふかふかから起き上がることができそうにない。

「うぅ…シャワーも浴びたいし、みなさんの怪我も心配だし…やることいっぱいなのに…」

頑張れわたし!立つんだわたし!
朝起きられない時のように自分自身を叱咤する。

奥様を救いたい。その一心で同行させて頂いたこの旅。
わたしは、ジョセフ様や承太郎様の反対を押し切ってなんとか同行させて頂いているのだ。
幽波紋の力では承太郎様たちに劣ってしまう。
ならばできるだけ足手まといにならず、みなさんのお役に立たなければならないではないか。

コンコンッ

「はい!」

ぐぬぬぬ…、と少しずつ腕に力を込めているところに、その音は響いた。

ノックの音に弾かれるようにして、わたしはベッドから急いで身体を起こす。
案外あっさり起きられた。

「承太郎様…?」

念のため覗き込んだドアの小さな魚眼レンズの向こうには、わたしが仕える主の姿。
わたしは慌ててロックを解除し、ドアを開ける。

「よぉ、悪ィな、突然来ちまってよ」

「い、いえ!どうかなさいましたか?」

まさか新手の刺客が?しかし承太郎様の様子を見る限りそういう雰囲気ではないような。

首を傾げながら、わたしは承太郎様を部屋の中へお通しする。

「なまえ、服を脱ぎな」

パタン

ドアの閉まる音とほぼ同時。承太郎様がこちらを向き、言った。

…ん?

「聞こえなかったのか。服を脱げと言ったんだぜ」

聞き間違いじゃなかった。

「あ、あの承太郎さま、一体なにをお、仰って…?!」

慌てふためくわたしを横目に、我が主は片手に持っていた箱をサイドテーブルに置き、わたしが先ほどまで突っ伏していたベッドへと改造された学生服を脱ぎ捨てた。

「テメェ、傷ほったらかしてやがるだろう」

目深く被った帽子の影から、綺麗な鋭い瞳が見えた。
半ば睨んでおられる。

不機嫌そうなその瞳と声。
ごく最近になって見せるようになったそれらだけれど、しかしこれは…小さい頃から変わらない、彼の優しい気遣い。

わざわざ、救急箱を持ってきてくださったのだ。
そして手当をしてくださる…ということなのだろう。

「ありがとうございます。承太郎さ、」

ありがとうございます。承太郎様。
ご心配には及びません。シャワーを浴びたら薬を塗っておきますので、どうぞお休みください。

わたしがまだ執事としてではなく…“友達”として接していた、あの頃と変わらないその優しさに胸が熱くなるのを感じながら、主に安心して頂くため口を開く。

しかし、言葉は半分も…むしろワンフレーズも言い終わらないうちに途切れてしまった。

何故なら、わたしの世界が反転してしまったから。

あれ?

強く引っ張られる感覚のあと、気づいたら天井が見えた。
それから背中には程よい反発。
一瞬見えた、スタープラチナ。

「じょうたろう、さま…?」

「おれは気が長い方じゃあねぇ。自分で脱ぐ気がねぇんなら、おれが脱がせるまでだぜ…なまえ」

…っ!!?

「ぬっ、脱ぎます!自分で脱ぎますから…っ!」

…結局、わたしは主の前で自ら服を脱ぎ、手当までして頂くこととなった。

隠しながらとはいえ晒すこととなった肌が恥ずかしさで赤くなって、それが更に恥ずかしいわたしは…当然、優しく消毒を施す彼の顔の赤さなど知る由もないのだ。



end




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