ディオとジョナサンを仲良くさせたい


「ディオは本当に本の虫ね。見る度読書をしている気がするわ」

幼い、しかししっかりとした口調で無遠慮にぼくの名を呼ぶ声に、集中していた意識はブッツリと切断された。

…むしろ、集中しすぎていたのだ。

今日、あの老夫婦が訪ねてくることはジョースター郷から聞かされていたし、ともすればこの子供…なまえがくっついてくることも分かりきっていたことだというのに。
時間を忘れるほどに集中してしまっていた。
やはり本を開くのは自室にすべきだった。何故今日に限って庭先なんかで読み始めてしまったのか。

自分の失敗に舌打ちをしたくなるのを抑えるため小さく息を吐き、声の方へ視線を向ける。

「…キミか」

「ごきげんよう。少し久しぶりかしら」

「どうだったかな。色々と忙しくてね。いちいち覚えちゃいないさ」

「そう」

ぼくの言葉なんかまるで気にしていない風に、ただ微笑んでみせるその反応が気にくわない。

実際の年齢を聞いたことはないが、このなまえというやつはぼくやジョジョよりも年下だろう。
ジョジョとくだらない遊びをしているところもよく見る。

しかし、だ。
あの目が。言動が。その身に纏う雰囲気が。
なにもかも似つかわしくないと感じる。

まるで、子供の皮を被った…“何か”。

「私も本は好きだけれど、ディオもたまには一緒に外で遊んでみない?」

「キミやジョジョと一緒に、か?悪いがぼくはこの本を読みたいんだ」

「…相変わらず子供らしくないわね」

「…なんだって?」

「いえ、なにも」

ぽつりと呟かれた言葉は、離れたところから聞こえるあの阿呆犬の鳴き声で聞き取ることができなかった。
なまえは特に慌てた様子ではなかったが、わざとらしく『失言だった』と言わんばかりに口元へ手をやっているあたり、きっとぼくにとって不快な言葉だったのだろう。

「ねぇ、ディオ。本はたくさんの知識を与えてくれるものだけど、経験は主観がないと成り立たないのよ」

「おい!」

驚くほど自然に、小さな手によってぼくの手から読みかけの本が取り上げられた。
座っていたぼくはほんの僅かだがなまえを睨み上げることになるが、なまえは相変わらずいまいちどんな感情を内包しているのか分からない笑顔で数歩後ろへ退くだけだった。

思わず勢いよく立ち上がってしまったが、流石にジョースター家の『客人』に乱暴はできない。

あくまで、スマートにいかなければ。
そう自分に言い聞かせる。

「…まったく、困ったレディだな。ほら、向こうでジョジョが呼んでいるじゃあないか。ぼくなんかに構ってないで行ってやったらどうだい」

「そうね。ジョナサンは心配性だから。…そういえば、あなたも私のことを心配してくれていたわよね」

「心配…?」

「ほら、この間。『ジョジョは意地悪なやつだ』って教えてくれたでしょう」

「…ああ、」

覚えていたのか。うっかりそう零しそうになった。

「さっきの話に戻るけれど…私は、まだジョナサンに意地悪をされた経験がないの。だから私は今もずっとジョナサンを信じているわ」

「つまり、なまえは相変わらずぼくの忠告を聞き入れてはいないというわけだ。まったく、ぼくのことはちっとも信用してくれないだなんて、悲しいじゃあないか」

「いいえ、忠告は忠告として受け取っているわ。だからこそ、忠告をしてくれたディオ、あなたをこうして誘っているのよ」

取り上げた本をあっさりとぼくの方へ差し出して、「一緒に行きましょう」と目を細めるこの子供は、いったいどこまで考えているのか。

この本を受け取ってしまえば、その誘いに乗る流れが出来上がる。
逆に本を受け取らなければ…ぼくは忠告をしておきながら年下の子供を見守ることすら放棄した人間というレッテルを負うことになる。

「なまえ!」

「ジョナサン」

数秒本へ目を向けているうちに、ぼくとなまえが一緒にいるところが見えたのだろう。
血相変えてジョジョのやつが走ってきて、なまえを心配そうに一瞥した後、すぐさまぼくの方へ目を向けてきた。

ぼくとなまえが一緒にいたってだけでそんな顔を見られるなんてな。まったく腹立たしいほど滑稽だ。

「ごめんなさい、待たせてしまって。ディオも意地悪してごめんなさいね」

「え、なまえがディオに意地悪を…?」

「ええ。ほら、この本を彼から取り上げてしまったの。一緒に遊んでみたかったから」

なまえの言っていることに何一つ嘘はない。
だから口を挟む間もなく、ぼくはなまえから本を受け取ってしまった。

「そう、なんだ。…なまえもこう言っていることだし、ディオもよかったらどうかな。三人で」

ふざけるな。
ジョジョ一人だったら確実にそう吐き捨てるものを。

…いや、そもそもジョジョだってぼくとの距離を縮めようだなんて気はもうないはずなんだ。

なまえの手前、ぼくにも声を掛けざるを得ないだけのこと。

もう、断れる状況でもないというわけだ。

「分かったよ」

ぼくは観念して一言、まんまとなまえの策略に乗ることを肯定した。

その言葉に、ジョジョは驚いた顔を。なまえはさも満足そうに。

「三人仲良く、ね」

満面の笑みを向けた。


end




- 32/76 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ