(※リメイク前のヒヤシンスの番外編です。設定やみょうじの性格などが若干違うかもしれません。)




「…やば」

思わず口に出してしまった言葉。それを聞き逃さなかった隣の席の御幸一也は私の手に持っているものを見て言った。

「え。なんでエロ本持ってきてんの?」
「……」

今日も遅刻ぎりぎりに教室に入り、席について鞄の中から教科書を出したつもりだったが、私が手に持っているのは、推しの写真集だった。

……。

あれだ。朝、急いで準備している時に弟がお姉ちゃんが元気になるもの入れといたからね〜と言ってたやつだ。まさか、写真集だったとは。これを見れば元気になるけど、先生達に見つかったらやばそう。しかし、弟はなんていい子で可愛いんだろう。私のためにわざわざ入れてくれるなんて…!くっ!!

だけど、御幸一也よ。ひとつ言わせてくれ。

「これはエロ本じゃねえええええ!!」
「…え」
「これは写真集!わかった?これは写真集、はい」
「……」

写真集と認識してもらうため、復唱するよう御幸くんの方に手を揃えて差すが、顔を引き攣らせて「ええ…」と言いたくないのを隠す気はさらさらない声を出す。それを無視してもう一度手で差し、さっきより大きな声で言う。

「はい!」
「…これは写真集」
「そう。推しの写真集、はい」
「推しの写真集」

諦めたような顔をしながら復唱してくれた御幸くん。自分から言っておいてなんだが、復唱してくれるとは思わなかった。

「まさか、言ってくれるとは思わなかった。意外と良い人なのね…?」
「はは、自分で言ったんじゃねえか」
「確かに!」
「……」

そうだけどね〜と軽く笑うみょうじに御幸は思った。個性の強い1年ピッチャー2人を足して割った感じだと。それと、倉持からみょうじのことを一言で表すと、ウゼェ奴と言われたことも思い出した。確かに、これは向こうのペースに流されるというか、うざいというか…。
そんな事を考えていると、みょうじが御幸の机に写真集を置いた。

「言わせちゃってさ、なんか申し訳ないし…見る?」
「え」
「ちなみに私はここのページが1番好きなんだけど、御幸くんはどれがタイプ!?」
「いや、俺は「どうでしょう?!」……」

正直、少しも興味はなかったが、勢いに負けて見ざるを得なかった。また何かを言って言われるのが嫌だし、あんま見たくないんだけど。といいつつも、可愛いアイドル。俺も男だから見るのは別に億劫ではない。パラパラ、ページをめくり一通り見終わった後、1番良かったページを開いて見せた。

「これかな」
「あー!これねぇ。普段可愛いのに、この色気のギャップがいいよねえ」

俺が良かったと思ったのは水着のところ。だが水着の面積はほぼ無く、その少しの布も手で隠しているため、よく見ないと全裸に手で体を隠しているようにしか見えない。

「ま、男はこれ選ぶはな。エロいし」
「!」

エロい、そう言った時。みょうじが勢いよくこっちを見たのが分かった。え、なに…?エロは禁句なの?

「そんな目でこの子を見るな」

目をカッと見開く顔は怖い。どうすればいいんだよ、俺は。扱いが難しい。一応、キャッチャーなんで、こういうのは得意だと思ってたけど。まあ、野球だけか。なんせ俺、友達いねーしな。
倉持助けてくれ、面倒くせぇから。と心の中で助けを求め遠い目をしていたら、みょうじがゆっくりと口を開いた。

「いや、待って。女の私からすると露出が多いのは複雑な気持ちだけど、男からすると良いもの。ちゃんとその子の色気を感じてくれてるってことになる!!」
「……」
「ごめん御幸くん!ありがとう御幸くん!」
「はは」

みょうじの情緒が分かんねぇ。そんな事を思われているとは知らないみょうじはお礼を言い、写真集を鞄にしまおうとした時、遅い救世主がやって来た。

「お前、なんつーもん持ってきてんだよ」

見つかったら没収されんぞ、と俺と同じく顔を引き攣らせる倉持。それを他所にみょうじは顔を明るくして俺に見せたように倉持にも写真集を見せた。

「で!どれがいい?倉持は」
「はあ?どれでも「いいはなしだよ!ヤンキー」……」
「あー…。これ」
「!」

倉持が良いと言ったページはさっきみょうじが好きと言っていた浴衣を着て線香花火をやっているページだった。…マジかよ。

「これねこれね!私も好きなページなの!!まさか、倉持と被るなんて……かなりショックだわ」
「なんでだよ!!」

ちなみに御幸くんはこれだよー。この推しも色気たっぷりで好き。なんて見せると、倉持は「あー」と言って俺の方を向き、ご愁傷様と言っているような顔をされた。まるで、これを選んだために理不尽に怒られてご愁傷様と言われているような。
それからみょうじが思い出したように声を出して、トイレ行くの忘れてた!と言って急いで教室を出た。

「本当は?」
「……これ」
「はっはっは!だよな〜」
「うぜぇ」

教室から出て行ったのを確認してから倉持にどのページがいいのか聞いたら、俺とは違う水着の写真。

「何でみょうじが好きなページ分かった?」
「あ?分かんねえよ、そんなの。たまたまだろ。水着じゃねぇところを選んだだけだ」

あいつ水着のとこ選んだら煩そうだしなと言って、いつもの独特の笑い方をする倉持。いや、水着を選んだら煩くなることを分かるのが変なんだって。みょうじがアイドル好きなの知ったの俺と同じ最近だし。本人も高校から女のアイドル好きって言ってたし。

「なんなのお前ら。幼なじみとかなんかなの?」
「違ぇよ。あんな幼なじみがいたら、面倒臭ぇだろ」

いや、だから。その顔は面倒臭いって言ってる顔じゃねえよ。

「つーかみょうじに用があって来たんだけど、あいつ戻ってこねぇな」

最初から何か手に持ってるなとは思っていたが、それを渡すために来たのか。

「ま、ここに置いとけばわかるか」
「何それ」
「誕プレ」
「は?」
「中3ん時、バタバタしてて渡せなかったからよ」
「なに、お前らプレゼント交換してんの?」

付き合ってねえみたいだし、友達でも女子同士はやるが男女はやらなくね?

「交換っつうか、俺の誕生日近くなるとみょうじが好きな食べ物作ってくれんだよ。だから」
「いや、いやいやいや待って。待って」
「……」

俺がおかしいのか…?食べ物って、どういうことだ。家に行ってるっつうこと?中学は弁当持って行かねえし。変なことで頭をフル回転させていると、その原因のもうひとりが戻ってきた。

「??…これ、倉持?」
「ああ。渡してなかっただろ」
「あー!そういえば!!丁度、欲しかったんだよねぇ。ハンドクリーム」

ふたりのやりとりを横から眺めていたが、ラッピングされている袋を開けてもいないのに、中身が分かっているみょうじの言葉に突っ込まずにはいられなかった。

「え、中身なんでわかんの?」
「ん?ああ、毎年ハンドクリームくれるんだよねー!……うわ!この匂い好きなやつ!ありがとう!!」
「おー」

なんなんだよ、こいつら。あーもういいや。突っ込むの、やめよ。面倒臭い。
もう、何も聞かない突っ込まないどうでもいいやと、考えることを放棄した瞬間、また爆弾発言が落ちた。

「そういえばさ、まだまだ先なんだけど。クリスマスの朝ってウチに来れないよね」
「あー行けねえな、多分。去年はみょうじがサンタやったのか?」
「いや、おばあちゃんがやったんだけどさ、サンタは女の人じゃない!目つきの悪い男の人だよ!って言ってたの。可愛くない?私の弟」
「…朝練前に行けるか聞いてみるわ」
「おお!いいの?!無理だったらいいから」

ちょっと待て待て待て。今の話を聞く限り、みょうじには弟がいて、その弟はまだサンタを信じてる年齢。で、話の流れ的に…

「倉持がサンタやってんの?」
「まあな。こいつの弟、可愛いんだよ。姉に似なくて」
「そうそう。私の弟可愛いの。御幸くんも今度会う?メロメロになるよ〜」

俺の方を揃って顔を向けるふたりに、片手で髪をぐしゃりと掻き、思いっきり笑う。そしたら、目の前の奴らは息を合わせ仲良く目を丸くさせた。

「なんなのお前ら。結婚してんの?」
「「は?!してねぇよ!!」」
「ははっ!息ぴったり」

あーこれから学校生活も楽しくなりそうだ。