(※本編でふたりが付き合う前に書いたものなので、色々と違いがあります。その点、ご了承下さい)
どういう訳か信じられないことに、あの宮治と付き合うことになり、2ヶ月が経とうとしていた。恥ずかしいことにこんなに人を好きになったのは初めてだ。前世も含めて。
転生する前はよく友人とハイキューの世界にいったら誰と付き合うか、なんて話で盛り上がったこともあった。その答えは、及川徹一択。高校別だと稲荷崎は角名倫太郎である。しかし、実際に転生するとなんと、あの宮治と付き合うことになっている。というか、あの宮治が私のことを好きなのが驚きを通り越して恐怖すら感じる。宮兄弟はないと思ってた。好きになるのも、好かれるのも。あ、好かれるのは全員ないと思ってたか。
そして、現在。友人の付き添いで稲荷崎体育館にてバレー部の練習試合を観ている。付き合うことになって治くんのバレーを観るのは初めて。私達が付き合っていることを知っている友人は何度か誘ってくれたが、色々理由をつけて断った。だって、恥ずかしい。恥ずかしいと思うことが恥ずかしい。今の気持ちで観たら、なんか色々とやばい。
「わ!大耳先輩、またや!またブロック止めた!!見た?!なまえちゃん見た?!」
「うん。見た」
コートの中にいる大耳先輩と私を交互に見て、喜ぶ友人は天使の生まれ変わりかなにかだろう。今日もこの子の目には大耳先輩しか映っていない。しかし、大きな声援を送る訳でもなく、いつも小さくその場で嬉しそうに眺めるに留めている。
応援とかは他の人もしてるし、サーブに下がってきた時に声をかけるくらいはいいと思う。打つ瞬間はやめたほうがいいけど。でも、この子が好きなように応援するのが一番だし、そんな友人を見ているのは私も嬉しい気持ちになるからいいけど、声をかけてる子がいると羨ましそうに見てるからなぁ。
あ。大耳先輩のサーブだ。コートの外に向かってくる先輩と私達の距離は近くなる。
「声かけないの?」
「え!?」
今日は土曜日。周りには、生徒以外にも保護者の人かOGかファンか分からないけど、いつも観にきているおじさん方が「練ー!ナイッサー!!」などと声をかけている。
「無理や!むりむり!そんなんしたら、死んでまう」
「え、死ぬの…?」
「なまえちゃんやって、さっきから治くんのこと一回も見てへんやん!」
「……」
「タイムとった時とか、こっちチラチラ見とったで!」
それは…。なんとなく気づいてた。がっしり見てなくても薄く視界には入れてた訳で。治くんの視線を何となく感じてた。そう言われて何も返せないでいると「でも…」と大きな目をキョロキョロさせて上目遣いで私を見る友人。その顔、やめて。可愛すぎる。
「まだちょっと勇気出へんから、なまえちゃん代わりに言うてくれへん!?」
「え」
言う。言おうではないか。可愛いこの子のお願い。聞くしかない。目立つのは避けたいけど皆、応援してるし、誰も私のことなんか気にしないだろう。自意識過剰。すーっと息を吸って大耳先輩に声援を送った。どうやら大耳先輩に声は届いたみたいで、少し驚いた顔で上を見上げて私を見た。そのまま流れるように友人へ目を向けた後、ゆっくりとボールに移して小さく微笑んだ。…え?なにあれ。イケメン…ていうか、あの反応はもしかして…。隣に目を向けると、柵に手を置いてしゃがみ込んでいる友人。ダメージは大きいらしい。
言って良かった。まず、声が届いて良かったわ。なんて思ったけどもう一つ。私が声援を送った時に感じた視線。前衛にいた治くんが凄い勢いで振り向き、じぃーと見つめてくるその目と目があってすぐ晒してしまった。だって、怖かった、殺気立ってたような感じで。でも、一つ言わせて欲しい。試合に集中しなよ、と。いくらサーブ間だとしても、だ。
元々、午後からバイトがあった私達は午前中最後の試合が終わるとそのままバイト先へ向かおうとしていた。が、友人はシフトの時間を勘違いしていたみたいで、間に合わないと言って急いで走って行った。
私は始まるまで時間がある。だからといって治くんに声をかけにいこうとはしない。のんびり歩いたら丁度良い時間になるだろうと、のろのろ足を動かしていた。その時、後ろから誰かに手首を握られ、引っ張られた。少しバランスを崩すも転びはせず、手を引く人物が誰か確認した。…いや、確認しなくてもわかる。
その男…自分の彼氏は、無言のまま私の手を引き、人気の無い体育館の裏に連れ込んだ。
「……」
これは、怒ってらっしゃる…?後ろは壁。目の前には宮治。こちらをじぃっと見られては逃げ場はなく、なんとなく雰囲気が良くないのは感じ取れる。それにしても、顔が良い。話したことがなかった頃のように目を逸らした。うん、謝ろう。私が付き合ってることは隠したいと言ったのに何も言わず観に来たからだ。…多分、もう一つの理由の方が大きいと思ったけど、宮治が自分に嫉妬?あり得ないという気持ちになって考えるのを止めた。
「急に観にきてごめ「そういうんやない」…あ。はい」
「……」
「……」
「……」
「…え、…と」
目を逸らしてから、ずっと地面ばかり見て治くんの顔が見れない。前世も合わせて長く生きてるけど、恋愛経験は殆どないからね!私。ていうか、初めてだから。本気で好きな人と付き合えたのが。だから、もうね経験ゼロ!好きだからこそ、混乱して何も言えない。正解がわからない。
「みょうじさん、来てるて気づいてテンションめっちゃ上がって…」
「……」
「…。みょうじさんの彼氏は俺やのに」
他の男ばっか見んといて…。最後の方は聞こえない程、弱々しく吐き捨てる治くんの声に顔を勢いよく上げた。
「あ…。ごめん」
「!」
今日初めてしっかりと見た彼氏の顔は、目を逸らし気まずそうに表情を強張らせていた。その顔を見て、自分がしたことに気づく。もし私がされたら凄く傷つく。そっと右手を治くんの頬に触れ、口から謝罪の言葉が出た。
「言い訳になるけど、治くんかっこよくて見れなかったの。前からかっこいいのは知ってたけど、付き合ってから見るのが恥ずかしいくらいかっこよくて。ん?…あ!かっこいいよりも好きすぎて見れないんだ。うん、好きすぎる…か、ら…」
治くんを傷つかせてしまったかもしれない。そう思って何も考えないで話す私に、治くんの顔がほんのり赤くなっていった。そこで初めて自分の言ってることに気づき、つられて顔が赤くなっていくのがわかった。
ゆっくり頬から手を離そうとしたら治くんに掴まれ、彼の顔がどんどん近づいてきた。これはキスされる、なんて思いながら近づいてくる顔を見て、うっわイケメン。と呑気に思う。付き合って2ヶ月。キスまではした。一回だけ、だけど。それも無意識だったらしく、した後に凄く焦って謝られたのを覚えてる。双子は色々と早そうだと思ったけど、現実はそうでもないらしい。侑くんは知らないけど。
目を瞑ってキスをした後、今回は焦ってなかったから無意識じゃないんだと、なんとも言えない気持ちになった。なんていうのか、愛おしいというものなのか。それが隠せず、変なふうに顔が崩れた。
今、絶対変な顔してる。早く顔を戻そうとした瞬間、今度は押し付けるように口を塞がれた。
「っ!」
いつもは早く離れるのに、なかなか離れない。
「、おさ…ッ!」
後ろに頭を引いて、治くんの名前を呼ぼうと少し口を開いた時、そこから舌が入り込んできた。また後ろに逃げようと治くんの手が後頭部をがっしり抑えて逃してくれない。
「ん…、ふ…ぁ」
角度を変えて舌を絡ませてくる。それが好きな人だから余計に腰が砕けそうになり、力強く掴まれてない方の手で押し返した。
「……」
「……」
「…今のはみょうじさんが悪いで!」
治くんの顔には、やってしまったと書いてあって。目を泳がしている。まるで北さんに怒られているようなそんな顔。そして、目をカッと開き私が悪いと叫んだ。惚れた弱みというのか、何を言っても愛おしく思えてしまう。
「ふっ…そっかぁ。私が悪いのかあ」
「続きする」
「は!?え、?だ、だめだめだめ!ていうか、部活!部活でしょう!?」
「昼休憩やもん」
「やもんじゃなくて!お昼食べてないでしょ?食べないと」
「みょうじさん食うからええ」
「どうして!?」
知らない。こんな宮治を私は知らない。何故、ご飯を優先しない…?
「と、とりあえず。私は今からバイトだから行くね。午後も頑張ってね?」
「……」
またね、と言って治くんの横を抜け早歩きをする。バイトが間に合わなさそう。
……。
「続きは今度、ね?」
「っ!!」
少し離れたところから振り返って、ぎこちなく笑った。だって、恥ずかしいし、誘ってるみたいじゃん。誘ってることに変わりはないんだけど。
治くんがその場にしゃがみ込んだのが見えた気がしたが、振り返らず歩き出した。だから、お昼食べないとって言ったのに。
「〜…あかん。なんやねん、あれ」
ヤンキー座りでしゃがみ込み、下を俯く治。嫉妬と、みょうじの可愛さに制御がつかずしてしまった行動で、内心嫌われてたと思いヒヤヒヤしていた。
「こっちがどんだけ我慢しとると思てんねん!?」
結局、付き合ってもみょうじに振り回される宮治だった。