盛大にやらかしてしまった。
体育の授業。朝は雨が降っていて、今は嘘のように晴れている。そのせいか所々グラウンドの土が滑る箇所があった。ほとんどが乾いていたからそこで球技を行なっていたが、絶対に滑るなんて思ったのがフラグ立ったのか、授業終了まで残り数分の時、ズルリと顔面から転んでしまった。
体操服は泥で汚くなり、中にキャミソールを着ていたから下着は若干…若干濡れたかなくらいにとどまった。
少し怪我をしたのと体操服を早めに洗った方がいいということで、外で軽く泥を落として着替えの制服を取ってから保健室に向かった。手当てをしてもらった後、水で流せない部分を濡れたタオルで拭いてスカートを履き、次に体育で汗をかくかもしれないと持ってきた替えのキャミソールに手をかけた時、保健室の引き戸が開く音が聞こえた。
先生かな…?洗剤、職員室やった!と急いで取りに行った女の先生。30近いその先生とは、話すと落ち着く。多分、前世の年齢が同じくらいだからだろう。
仕事を増やして申し訳ない。ベッドの周りに吊るされてあるカーテンを開けて、同性だからと何も気にせず出た。
「先生、わざわざ……あ」
「!?!?!?」
そこに居たのは先生ではなく、宮治。こぼれ落ちるんじゃないかってくらい目を見開いている。
この時、私は自分がスカートにブラという事を忘れていた。忘れていたから、宮治の顔と体に少し擦り傷などがあるのに気づき、もしかして喧嘩?と近づいた。体育は1組とも合同で行う。侑くんと同じ球技をやってたしな、それで揉めた?などと悠長に考え事をする。
「今、先生いないんだけ「ま、まず!…ふ、服を着ろや!…何でや!?…はぁあ?!なんっで!自分、なんッ格好…!?」
顔を逸らし、部室でジャージを借りた時と同じ…それ以上の反応を見せる治くんに下着姿だった事を思い出した。
「!!…っ!ご、ごめんなさい!」
両腕で体を隠し早くカーテンの中へと一歩踏み出した時「クッソッッ!!なんっやねん!クソサム」と侑くんの声が。その瞬間、更に血の気が引いた。何故か、治くんの顔もだんだん青くなっていき、私以上に焦りだした。
「っ!…はよ!!はよ、しろ!!」
こっちに背を向け、侑くんが来たとしても見えないように体で私を隠してくれた。ほんっと、申し訳ない。まるで、リアルサバイバルゲームをしているかのように心臓はバクバクいっていて、今までで一番というくらい早く足を動かそうとした。
ここで忘れてはいけない。私が運動音痴だということを。頭ではわかっていても体が動くわけではない。
「う、わ…!」
「は!?」
出した足は保健室に置かれているソファにぶつかり、バランスを崩す。後ろへ頭から倒れていくのがスローモーションでわかったのと同時に扉が開く音がした。あ、終わった。いや、もう終わってるか…。
どこかに掴まるなんてことは出来ずに、宙に浮いた伸ばした手を振り返った治くんが取ってくれた。が、この時、私の格好に動揺していた治くんもまた上手にバランスが取れず、そのまま…そのまま私の胸に顔が埋まった。
ぼすっとソファーに2人で倒れ込む。治くんの右手は私の腕を掴み、もう片方の手で頭をぶつけないように支えてくれている。そして、大事なお顔は胸の中。数秒、物音ひとつ聞こえず、静寂に包まれる。それを破ったのはぱちぱち目を瞬かせながら、この状況を一部始終見ていたであろう宮侑だった。
「なんや!!その羨ましい状況は!?」
治くんと喧嘩していて機嫌が悪いのもあり、眉間に皺を寄せて大きな声で叫ぶ侑くん。その後直ぐに、治くんが勢いよく私から離れ、口をパクパクさせる。顔は真っ赤。…うわ、本当にごめんなさい。自分自身、色んなことが起こり過ぎて逆に冷静になっていた。いや、もう諦めというか、何も考えたくないというか。
離れた彼は侑くんからさっきと同じように背中で私を隠してくれた。
「〜っなに見とんねん!?ツム!!」
「はぁあ!?お前に言われたないわ!ちゅーか、サムだけズルい!俺もおっぱ…っだ!?いった!」
「地獄に落ちろ」
「は!?」
また喧嘩が勃発しそうな中、身を縮こませながらそそくさとカーテンの中に隠れて着替えを済ませた。
そして、カーテンの外ではまだ言い争いをしている声が聞こえるが、こんな貧相な見たくもない格好を見せてしまった申し訳なさで2人の前から早く姿を消したく、外に出た。
「……」
「……」
「……」
「……そん中知っとると着てる方がエロいな」
「はは…」
「いだッ!!何すんねん!?」
2人の前に出た時、侑くんは胸元をガン見。治くんは顔を逸らしてこっちを見ない。素直に感想を言う侑くんに、そういうもんなのか…と。ていうかエロいって言われることに、なんか安心した。目が腐ったわとか言われたら、明日から学校来れなかった、多分。
そんな侑くんを治くんが横から思いっきり蹴っ飛ばした。これは、なんか…イメージ通りだ。
もう行こう。そう決めた時、洗剤を持った先生が戻ってきた。
「なんや、また喧嘩したん?手当てするから、こっち来や〜」
洗濯しとくからな、と私から体操服を取って双子を呼ぶ。そして、とんでもないことを提案した。
「あ!丁度いいわ。みょうじさん、治の方手当てしてやって」
「!!」
「…え?」
道具を色々持ってきて、よろしくお願いな?なんて言われたら断れない。気まずさと申し訳なさで微妙な顔をしてしまったのに気づいた侑くんは、片割れの方を向き鼻で笑った。
「嫌われたな、サム」
小さくこっちには聞こえないように、治くんに耳打ちをしていたが、しっかり聞こえてる。
嫌われたって。治くんがじゃなくて私がの間違いでしょう?被害者はそっちだし。しかし、治くんはその言葉に石化したように固まった。
次にこっちへ来た侑くんは少し屈んで耳元に口を近づけた。
「またなんかされそうになったら、言うんやで?」
「…っ」
耳元で囁くように言われた言葉。宮侑、わかってる。自分のイケメン度をわかってやってる。楽しんでるのも入ってると思うけど。
だけど、声が…声が!エロッ。だって、だって、私好きだもん!あの声優さま…。さっきのハプニングも思い出して、顔が一気に赤くなる。しかし、そんなことはお構いなしに、上機嫌に先生の元へ向かった。
「ここに…」
「……おん」
さっきの倒れたソファに2人で座り、横向きで手当てをする。顔も傷があるから触るわけで。こんな恐ろしいことがあってたまるかって感じになる。
治くんはずっとそっぽを向いていたが、顔をやるとなると真っ正面を向いてもらわなくてはならない。私の方に顔を向けてもらったが、彼の目はやっぱりどこかを向いている。それに、手。血が出るんじゃないかってくらい握りしめてて、筋肉がわかるというか。本当に申し訳ない気持ちで居た堪れなくなる。
全て終わり、横向きになっていた体を前に座り直した治くんに、恐る恐る顔を覗き込むようにして言った。
「…あの、本当に、ごめんね…?」
「!?…っ!な、…!」
やっと目が合ってきちんと謝ることが出来た。それともうひとつ。これは、恥ずかしいのと気まずさ、あとは私が言ったところでどうでもいいという気持ちから声が小さくなった。
「私、嫌ってないからね?」
「!?」
じゃあね。ごめんね。ともう一度言ってから、先生に挨拶をして保健室を出た。
「っほんま…、勘弁してくれ…!」
みょうじが出て行った後、ガクッと上体を倒して膝に頭をつける治。みょうじは自分で気づいていなかったが「嫌いじゃない」そう言った時の表情は普段見せないものだった。動揺しまくっていて顔はほんのり赤く、伺うように目だけを上にあげたから無意識に上目遣いになっていた。