「はいっ!なまえちゃん、終わり!!」
「わーい!ありがとうっ!」
最後に花飾りを下に纏めた髪に刺して、良い感じ!可愛い〜と拳を作ってガッツポーズをしてくれる友達。
文化祭の今日。私達のクラスは和カフェをすることになった。教室は和の空間にアレンジし、お茶や和菓子を提供する。そして、全員浴衣を着る。これが高校最後の文化祭での出し物だ。
「よしっ!彼氏に見せてこい!」
「うん!!ありがとう!!」
そう言って友達に背中を押され、女子が着替えるために用意された教室を出る。
「ふふ、なんて言うかなぁ亮介」
可愛いとか言ってくれたり!したりしてっ!両頬を包み込むように手を添えて走る姿はまるで不審者。
朝早くにクラスの準備を終え、浴衣に着替えてこれで完璧っ!後は本番を待つだけ!と意気込む私に美容師を目指している友達がヘアアレンジをしてくれた。周りを見渡すと全員可愛い髪型をしていたけど、不器用な私は何度か家で練習をしても全然上手くいかなくて諦めモードになっているのを見兼ねて声をかけてくれたんだ。
感謝しかない…!!ありがとう…!!メイクはね、自分でやった。普段色付きリップくらいしか塗らないけど、今日はちょっと張り切っていつもよりバッチリメイク。
用意を終えた男子達がいる教室の扉を開ける。開けて直ぐ視界に入るのは窓に寄りかかる伊佐敷とその直ぐ横に立っている大好きな彼氏。
「っ!!浴衣…!?」
亮介の浴衣姿…!!そうか。クラス全員が浴衣を着るんだからもちろん亮介も着ているわけで…。ま、待って。心の準備をしていなかった。してなかった…!
「ぐ…はっ、、」
彼氏の元へおぼつかない足取りでふらふら近寄り、胸を押さえてその場に倒れ込んだ。
「何でっ!そんなっ、カッコいいなんて聞いてない…!」
叫ぶように発して、胸に当てていた両手を床に下ろし、四つん這いになる。そして、悔しがるように右手で床を殴った。
「ずるい、ずる…ぅわっ!」
「立って?」
「あ、ハイ。ごめんなさい」
私の二の腕を内側から掴み立たせる亮介は黒い笑みを浮かべていて、思わず片言で返事をしてしまう。え…?お、怒ってる?カッコいいって大声で叫んでしまったから!?そのせいで、周りにいるクラスメイト達の注目を浴びてしまったからか、分からないけど反射的に謝りの言葉が口からスッと出た。
「ねえねえ、亮介っ!!!」
「……」
「……どう?どう??」
両手を広げて全身を見せるようにその場でくるりと回る。可愛いって言ってくれるかな…?そんな期待をして目を輝かせてしまうが、亮介はにこりとも笑わず無表情。
「…あ、やっぱ「いいんじゃない?」!!ほ、ほんと!?」
「うん」
「いい?いい感じ??」
「そうだね」
やっぱり似合ってなかったのかも…なんて落ち込む前に亮介はいいんじゃない?と言ってくれた。可愛い、ではなかったけど、その言葉で私の心は踊り狂ってしまうくらい嬉しくなる。というか、今まで可愛いって言われたことがないから、そんな簡単には聞けないか。これはもしや、結婚式のウェディング姿を見て初めて聞けるのでは?!逆に、それはそれで素敵!!きゃあ!最高!!
亮介との結婚を想像して顔が緩む。そして、文化祭が開催し、妄想と仕事の忙しさから時間はあっという間に過ぎ、午後の自由時間となる。
「うう〜美味しいぃ」
「良かったじゃん」
「幸せ〜。亮介もどうぞ!」
「…どうも」
食べかけのクレープを亮介の口へと近づける。ぱくりと食べる彼氏に可愛いなんて思いながらも普段なら間接キスだ恥ずかしいっ!と慌てるけれど、文化祭効果なのか自然に出来ている気がする。浴衣デートが初めてだから、高いテンションが抑えられないのかもしれない。
「ふふふ」
「…なに?」
「んー、幸せだなぁって思って」
来年は文化祭ないけど、浴衣着てお祭りデートしようね。ニヤける顔でそう言うと、何故かチョップをされた。
「えっ、嫌なの!?嫌なのぉぉぉお!嘘でしょ!?嘘だと言って!!っは、!?この格好が変だった…?私似合ってな……ぃだっ」
「うるさい」
亮介の腕を掴み揺さぶり叫ぶと二度目のチョップをいただく。似合ってないから、隣にいたくないのかと…。でも、そうだったら亮介は言ってくれる…は、ず…。いや、言ってくれない?どうしよう、もしかしたら…。初めて見せる浴衣姿、メイクもバッチリなのに何の反応を見せない彼氏に段々不安になってくる。だから、つい口から溢れてしまった。
「私、可愛い?」
不安げに眉を下げてしまうと、亮介は珍しくも口をポカンと開ける。そして、口を結んだ後、三度目のチョップ。
「生意気」
真顔で言われてしまい、その通りだっ!私はなんてことを!!恥ずかしくて穴があったら入りたい。と動揺から顔を赤くして早口で放つ。
「今の忘れてね!ごめんなさいっ!」
「……か「あ!」…なに?」
「え!あ、いや。先にどうぞっ!」
「俺はいいよ」
亮介の言葉を遮りたくないし聞き逃したくないが、今回はちょとだけ緊急なことだったから譲らないで話を続けた。
「…帯、解けちゃった」
「は?」
「私の帯、最初から形になってなくて自分で結ぶタイプなんだけど上手く出来てなかったのか解けちゃったぁ」
解けた帯を掴み、うわあ、直さないとだぁ。とへらへら笑うと、凄い勢いで手を引かれ誰もいない校舎裏に手を引かれた。
「俺、こっちで待ってるから」
「う、うん!ありがとう!」
物陰に隠れ頑張って直す。その間、亮介は誰か来ないように見張り背を向けて私を隠してくれるが、直ぐその背中に声をかけてしまった。
「りょ、亮介」
「は、なに…してんの」
「これ…出来なくなっちゃった」
「っ、」
出来なくなったというのは帯が結べないということで。少しはだけたため、中の紐も直そうと解いたら今度はそっちも上手くいかなくて、両手で浴衣を押さえるだけになる。手を離したら中が見えるぞ、これは。
これまた亮介は珍しく、というか始めて見るくらい焦りスタスタ早歩きでこちらに近寄ってきた。
「ねえ、馬鹿なの」
「う…」
「何やってんの。何でほいほいそんな格好で出てくんの。馬鹿なの?俺は何もしないとでも思った?朝もあんな格好して周りの男達が見てたの気づかなかったの?危機感はないの?」
男子の中では小柄な方の亮介だけど、私からすると全然小柄ではなくて。上から覆い被さる黒いオーラが恐ろしい。
「ご、ごめんなさい。…あ、朝は何もしてない気がする、です」
「……」
朝って何した?格好って、きちんと浴衣は着てたし。考えられるとしたら床に伏せた時?四つん這いに…あ、これか。あれが良くなかったのか…。
改めて謝ると息を吐いた亮介が「貸して」と手を差し出して紐を受け取り、手際良く結んでくれた。次に帯を巻くため後ろから抱きしめられる体勢に笑みが溢れる。
「ふふふ」
「なに」
「幸せだなぁって思って」
亮介に着付けしてもらえるなんて思ってなかった、そう言って口元を両手で隠すと後ろから「なまえが出来ないからだろ。ていうか、俺怒ってんだけど」と荒い口調で返される。帯が完成し、その部分を手で触ると見ないでも分かる綺麗さに改めて器用だなぁと感心する。
「ありが…!?」
ぴょんと跳ねて後ろを振り返ったら、意外にも亮介との距離が近くて上体を逸らす。そのまま一歩下がるため足を地面から離そうとした瞬間、腰に手を回されてそれは叶わなかった。
「あ、あの、亮介…?」
「ん?」
「ち、近い」
「だから?」
「……」
だから離れて。そんなことは言えなくて、ただグッと下唇を噛む。恥ずかしいはずなのに視線は逸らさず亮介の顔をじっと見つめる。いや、逸らさないというか、逸らさないって言った方が正しい。
そして、大好きな顔が視界いっぱいに埋め尽くされて近づいてくるのが分かった。た、たぶん…いや違う。絶対キスされる…そう思ってギュッと瞼を閉じた。
けれど、待てど何も起きず恐る恐るゆっくり目を開ける。
「!?!?」
目を開けた先にはドアップの亮介の顔が。そして、薄ら口元に弧を描き、口を開いた。
「ばぁーか」
そう言って固まる私の唇に軽く触れるだけのキスをして、続けて「可愛いよ」と言う亮介が照れているように見えるのは気のせいだろうか。