宮兄弟。

双子の人気は最初から凄かった。バレーにおいても、恋愛においても。

今日もまた告白を受けている。相手は1年、小柄で可愛い感じの女子生徒。通りすがりに目に入ったその光景は、傍から見ても本気で一生懸命なのが伝わってくる。その告白を受けているのは治で。双子は同じくらい人気だけど、治の方がこういう子からの告白が多い。まあ、片割れから人格ポンコツなんて言われるくらいだからな、侑は。

告白される頻度が多いからか、こういう現場を何度か見たことがある。その度、返事はノーだけど、礼儀としてちゃんと答えてる。だけど、ある時から礼儀とはまた別に少し申し訳なさそうな、好きになってくれてありがとうと言っているようなそんな顔をするようになった。


多分それは、治に好きな人が出来たからだと思う。その人物を知ったのは2年になってから。隠してるつもりだろうけど、わかりやすい。

その人物、みょうじなまえさんはよく1組に顔を出す。それは仲の良い友人がいるからだろう。最初はその友人のことが好きなんだと思った。学校一可愛いって言われてるし、モテるし、双子が好きな体型だし。だけど、治がいつも目で追ってるのはその子じゃない。

俺から見たみょうじなまえという人間は、どこか大人びてる印象だ。ふとした瞬間の雰囲気もそうだけど、たまに耳に入る会話でも人生2回目?と疑うくらいの事を言う。治の好きな人だとわかってから、気にして見るようになったため、まだどんな人かそこまでわからない。
だけどたまに、みょうじさんのことが気になってる、もしくはタイプ、好きと言っている人を何度か聞いたことがあった。告白した人はほとんどいなく、噂ではする前に破局するなんてことも耳に入ってきた。カードが硬いとか、脈なしと思い知らされた、とか。もしかしたら、そういうのに鋭い人なのかもしれない。



昼休み。みょうじさん達が侑のクラスでお昼をとる情報を入手した治は2組に向かうため、食べ物を持って教室を出た。

「角名ー、はよ。腹減ってんねん」
「…さっきもなんか食ってたじゃん」

早く行きたいのはみょうじさんがいるからでしょ。ていうか、その前髪どうにかしてから行けば?暑苦しいって呟いた治に女子達が貸してくれたゴムで縛った前髪。触角みたいになってんの。面白いからいいけど、見られていいの?それ。

教室に入り、治の前髪を見た侑はうわーと顔が引きつる。こいつ気づいてへんな、言わんでおこっていうのが顔に書いてある。銀は気を遣って何も言わない。
席に座った時、近くを通った女子集団が治を見て笑いながら「可愛いー!」「どうしたん?」などと声をかけながら通り過ぎた。そこで初めて気づいた治は「あ。」と自分の前髪を触る。それからまた直ぐに、みょうじさんが横を通った。

治を見て一瞬固まり、

「はは、可愛いね」

と笑った。まるで小さい子供に向けて発するように。その後、何事もなかったように過ぎ去っていくみょうじさん。

前言撤回。鋭くなくない?これは治から好かれていることは気づいていなさそう。まあ、侑とか…皆気づいてないみたいだし、好かれてる本人だからというのもあるから、分からなくもないけど。でも、無意識、無自覚でこういうことをしちゃうタイプの人間はタチが悪い。
現に、言われた本人は表情を変えず真顔、微動だに動かない。前髪を触れて固まったままだ。それが面白くてスマホを向けた。

「…角名、今撮ったやろ」
「……」

うわ、バレた。普段気づいても言われないくせに、今回は画像を消すように促されれる。

「あ。一緒にみょうじさんも写ってる。これは消さないと」
「は?…ちょ、それ…俺に送ってくれへん?」
「…うん」

ちょろ…。



それから暫くして、飲み物を買いに自動販売機に来た。もう少しで昼休みが終わるということもあり、急いでいたため小銭を2台並んでいる自販機の間に落としてしまった。それほど奥には転がらなかったものの、俺の腕では入らない。50円。近くに棒のようなものもないし、時間もない。申し訳ないけど、諦めるしかない。それか、後から来よう。

「お金、入っちゃったの?」

突然、後ろから声をかけられて驚いた。それも、みょうじさん。話したことはほとんどない。

「…ああ、うん」
「ここ?…あ、あった」
「え…ちょ、っと」

みょうじさんが膝をついて隙間に手を入れたから焦った。俺が焦ったのに気づいたのか、「大丈夫」とだけ言って起き上がろうとしない。やっぱり、女子だからか、俺が入らなかったところまですんなり手を伸ばして入れることが出来ていた。
一回、こっちにお尻を突き出すようにしゃがんだみょうじさんは、自分でそのことに気づき自販機と並行になるように座って横から手を入れた。いや、後ろから見るのもちょっとあれだけど、横からもさほど変わらないんじゃ。体勢は同じなんだし…。


そして、50円玉を無事取り終えてこっちに差し出した。

「ありがとう。…ごめん、手」
「?…ああ、大丈夫。洗えば落ちるから」
「……。なんか、嬉しそうだね」

何に対して嬉しいのか分からないが、汚れた手を払いながら、にこにこ笑って嬉しそうにするその顔は初めて見る。

「え。あ、あー…。なんか、カッコ良い、なんでも出来るイメージの角名くんが取れなくて私が取れたのが、つい嬉しくなっちゃって」
「……」

ただお金取っただけなんだけどね。男女の違いで取れただけだし。とさっきの発言を後悔したようで、顔を冷やすように手の甲を頬に当てている。


みょうじさんと関わった時の治は、いつも振り回されてるそんなイメージ。

こういうことか。自分が関わって初めてわかった。他にも色々されてると思うけど、好きな人からこういう言動をされたら、堪ったもんじゃない。同情するよ、治。でも、なんていうか…

「ふ、みょうじさんって可愛いね」
「!?」

もう一度、お礼を言ってその場を去った。普段、あまり表情を変えない角名が自分に向けて微笑むその顔の威力は絶大で。常に、治を振り回すみょうじだが、角名に関しては振り回される方だった。

「…(イケメンの暴力)」

角名倫太郎はハイキューの中で上位に好きな人である。故に、お金を落とし困っていたのを最初は見過ごしたが、自分の中にある全ての勇気を振り絞って話しかけたのだ。内心、心臓はバクバクだった。




2年1組にて。

「なんや楽しそうやな。食いもんでも貰たん?」
「治と一緒にしないでよ。……ただ、みょうじさんって良い人だなって思っただけ」
「は?」

おい、角名!どういうことや!凄い剣幕で問い詰める治に、角名はこいつ隠す気ねーだろと思うのであった。