「好きです。付き合ってください!」

人気のない校舎裏で一つ下の学年の子から告白を受けた。去年から委員会が同じ子で、人見知りの私にしては気軽なく話が出来た男子。今時、メールとかで告白しないで、真っ直ぐな言葉をくれるこの子に、嬉しさ、申し訳なさの気持ちと何でこんな私のことを好きになったんだろうと疑問を持った。こんなに素敵な子が。
しかし、告白の返事は決まっている。

「ごめんなさい」



私には一年の頃から片想いしている相手がいる。一年、三年と同じクラスの人。

「……」
「…わ!?…黒尾、くん…?」
「あーごめん。聞くつもりはなかったんだけど…」

後ろを振り返り、角を曲がったところで黒尾くんに遭遇。動揺を隠せないでいたら「悪い…」と頭を掻いてその場からいなくなっていった。

今の…聞かれてた!?あ、でも、付き合った訳じゃないし、断った理由が好きな人がいるからって言ったわけじゃないし、そもそも理由を聞かれなかったし。ていうか、私みたいなのが告白を断れる程の女じゃなくて。お前みたいな女が告白されたくらいで調子に乗るなよ、とか思われてたらどうしよう…!?って、そんなこと黒尾くんが思うわけないでしょう!?


私の片想いの相手、それは黒尾鉄朗である。




高校入学当初。同じクラスに同中の子は少なく、元々友達が少ない私にはその子達すら初めましてくらいの仲だ。人見知りな故、クラスに馴染むのにも時間がかかった。地味で話も豊富な方じゃないし、ネガティブ、可愛さなんてなくて、スタイルも良い訳じゃない。相手に気を遣いながら話すから上手く言葉も出てこない。

そんな私を席が隣という理由で、なにかと声を掛けてくれたのが黒尾くんで。友達も多いし、皆と仲良くなるのも早くて、気がきくし、優しい。クラスメイトの輪にさりげなく入れてもらったり、なにか仕事をしてれば手伝ってくれた。これで落ちない女子はいないと思う。

そして、私はすっかり黒尾くんに落ちてしまった。最初は陰ながら好きでいようと思ったけど、人間の欲というのは恐ろしく、いつしか隣に立ちたいななんて、烏滸がましいことを考えるようになった。
二年になり、クラスが離れ顔を合わせなくなったから、好きな気持ちが落ち着くかと思いきや、そんなことはなく、毎日黒尾くんを探している自分に気づき引いた。
後悔するなら告白しよう。そう心に決めて、告白するならまず、自分を磨かないとと考え、ダイエットをした。それから髪型を変えてみたり、美容、メイク、色んなことを勉強して試して自分を変えていった。そしたら、意外と楽しくなり探究心がどんどん湧いて出て、こういう話から友達も出来た。あとは、告白もされるようになって。数年前の自分では考えられないことが起こるようになった。


重い女だと思われるけど、黒尾くんを好きになったお陰で今、凄く楽しくて、勝手に感謝をして、更に好きな気持ちが倍増していった。
だから、今年同じクラスになれたから、告白をするんだと意気込んだけど、いざ準備が出来るとあと一歩が踏み出せない。もうすぐ冬休み。言い訳をして半分以上が経っている。



本当に腹を括らないと…。時間もないし。悶々と考えながら廊下を歩く。すると視界の端に何かが映り込んだ。

「!?」

少し肩を上げて驚くが、ただ、廊下に貼られている掲示物が剥がれただけだった。大きめなポスターの四角に画鋲が刺さっていたのが1つとれてめくれている。誰かが踏んだら危ないと、周辺を見渡すが、それらしきものは見当たらない。蹴っ飛ばして遠くに行っちゃったのかな。そこから少し歩いて探してみると見つけることができた。

良かった。あった…!

それを拾い上げ、元の場所に戻ったのはいいが、届かない。剥がれたところは1番上で、背伸びしたらギリ届くけど、差し込む力はない。何か、台を持ってこないと…。伸ばした手を引き下げようとした時、影が覆い被さり、頭の上から声がした。

「これ、つければいーの?」
「え!…あ。うん」

振り向くと、そこにいたのは黒尾くんで。私を後ろから覆うようにしてポスターを押さえながら、画鋲で留めてくれた。こ、これは…ちょっと、かなり恥ずかしい。だって後ろから壁ドン?的な感じだもん。心臓が持たないし、なにより距離が近い。声も近い。

つけ終わり、お礼を言った私に返事をした後、ゆっくり離れた黒尾くんは首裏に手を添えて視線を逸らし、歯切れが悪そうに聞いてきた。

「あ、のさ」
「?」
「…みょうじさんって、彼氏とかできた?」
「…え?出来てない!出来てないよ!!」

突然のびっくり発言に焦る。好きな人に彼氏がいるなんて思われたら、誰でも必死に訂正するだろう。

「…マジ?」
「うん」
「マジかぁー」

ただの噂かよぉ、と息を吐きながら、力なくその場にしゃがみ込む姿を見て、噂?と聞き返してしまった。

「ああ、うん。ごめんね、みょうじさんに彼氏いるって聞いて」
「あ…そう、なんだ」

えええ…。私、男の人とふたりで出かけたこともないし、仲良い人もいないからそんな噂が立つとは思わなかった。

「なんか雰囲気も前と変わったから、てっきりそうかと思って」

雰囲気が変わった。黒尾くんに少しでも可愛く見られたくて頑張ったから、気づいてくれて嬉しい。あと、雰囲気が変わったっていう言葉も嬉しい。可愛くなったねって言われることはあっても、そんな風に言われることはなかったから。私なんかに可愛くなったって言ってくれることも、恐れ多いことなんだけども。

でも、雰囲気が変わったということは、黒尾くんの中では可愛いには入ってないのか、と面倒くさい思考になる。どういう人がいいのかな、メイクとか変えた方がいいかなと頭の中でぐるぐる回る。でも、ひとつ。

「私なんかに彼氏できないから!」
「……」

取り敢えず、誤解をされたくない一心で悪い癖が出てしまった。考えなしに言葉を発して後悔する。こんなこと言われても困るだろうし、彼氏になってもらいたい相手に言うものじゃない。
起き上がった黒尾くんは顔つきが変わり、真っ直ぐと目がこっちを捉える。

「い、今のは「なんかじゃねえよ」…」
「みょうじさんは、なんかじゃない」
「……」
「……」
「ぁ…あ、りがとう…ございます」

じっと見られて無言が続いて、どうすればいいか分からなくなり、訳も分からずお礼を言ってしまった。

「今だって、画鋲を誰かが踏んだら危ねえから、探してたんだろ?」
「え、何で知って…、え!?そんな前から見てたの!?」
「いや、画鋲を持って戻ってきたところからだけど」

それでも結構、見られてた…!ポスター貼るのにジャンプしたり、背伸びしたり、変な格好でつけようとしてたのも見られてたってこと!?絶対、変な人だと思われた。

「でも、何で踏んだらって…」

探し終わって戻ってきたところからなら、探してたなんて分からない。新しいのを貰いに行ったかもしれないし。それに、何で踏んだら危ないって、思ってること分かるの?!

「それは…、一年の頃から見てたから」
「え?」
「そういう子だろうって何となく分かる。何も考えなくてもそういうこと出来る優しい子って」
「そ、そんなこと…」

ど、ういうこと?自惚れしそうになる。そうさせないため違う意味を探るが、それをかき消すかのように黒尾くんは、だぁぁぁあ!と大きな声を出した。

「気づいてないだろうけど、俺がなにかと手伝いにいったり気にかけるのはみょうじさんだからだし」
「え…」
「そもそも近づく口実をいつも探してる」
「……」
「なのに、急に彼氏できたとか聞いて焦るんですけど!?」
「え!あ、ごめん」

勢いがあって反射的に謝る。えっと…情報の処理が追いつかない。だから変なことを口走ってしまった。

「わ、私も!黒尾くんに彼女ができたら焦ります!」
「……は?」

初めて見る黒尾くんの間抜け面に、自分の言ったことに気付いてハッとする。今、凄く大胆な事を言ったのでは…?動揺から瞬きが多くなってしまうが、そんなことを気にせずに目の前にいる人物はこちらに一歩近づいた。壁と好きな人に挟まれるこの状況。ドキドキというより心臓がドドッと速くなる、の表現がしっくりくる。

「それどういう意味?」
「…、」
「俺、良い意味でとっていいの?」
「…え、っと」

言うんでしょ。腹を括ったんでしょ。黒尾くんの隣に並びたくて…彼女になりたくて、努力したんでしょ。ここで言わなきゃ、いつ言うの!

手を握りしめて勢いよく、黒尾くんを見るため顔を上げた。

「俺、みょうじさんのこと好きだよ」
「え、」
「一年の時からずっと」

みょうじさんはどうですか。と恥ずかしそうに、照れたように横を向いた時見えた耳が真っ赤で、自分の顔に熱がこもった。

「…黒尾くんのこと、好きです」

今度は、嬉しすぎると手の甲を口に当てる彼に胸の辺りがぎゅーってなったのと、今日は初めての顔をたくさん知れたって思って、また心が引き締められた。