今日もまた、お揃いのスポーツバッグを肩に掛け、制服姿の男達が5.6人、コンビニ特有の音と共に入って来た。

今日は外で待ってるんだ。やり込んでいるゲームがあるのかな。なんてコンビニに面してある外のベンチに腰掛ける金髪の男子を眺めながら考える。
何故、やり込んでいるゲームがあると想像出来るのかというと、この人達…音駒バレー部の皆さんはここのコンビニの常連さんだからだ。音駒高校と分かったのは制服、それと土日も来たりするからジャージに堂々とNEKOMAと書いてあったから。バレー部ということと全員の名前は、会話から知った。



「お願いします」

毎回「お願いします」と「ありがとうございました」を言ってくれるこのお客さんは、黒髪の髪型がかなり独特な高身長イケメン。万人受けのイケメンかは分からないけど、私の中ではイケメンの部類。タイプの顔だ。店員にも悪い態度は見せたことはなく、お礼もされなかったことがない。というか、音駒バレー部の皆さんは全員いい人、だと思う。接客してると、何となくわかる。

しかも、この人。必ず、カフェオレを買う。この顔で甘いの好きなの?私も好き、カフェオレ。しかし、タイプだから、常連さんだからといって「好きなんですか?私もです」と話しかける勇気は持ち合わせていない。でも、運がいいことに私がレジをやる時は、いつもタイミングよくこの人の接客を出来る。私のバイトのやりがいはこれだ。



今はレジを2つ解放しているので、私は3人を受け持った。クロオさんとヤマモトさん、後はハーフっぽいリエーフさん。皆、個性的だ。ヤマモトさんは接客すると挙動不審になる。女子が苦手なのかもしれない。それとも慣れてないのか。でも、音駒って共学だよね?大丈夫なのかな。もう1人のリエーフさんは、身長が高い。クロオさんよりも。だけど、ちょっと抜けてるというか、お馬鹿だ。


ほら、リエーフさんお財布忘れて出てっちゃったよ。私も気づくのが遅くて、声に出した時にはもう外へ一歩出てた。気づくのが遅い以外にも、緊張で声をかけるのに躊躇した。他のバイトの子に頼もうかな。いつも、ベンチで食べてから帰るみたいだし、急がなくてもいい。ああ、でも、もしかしたらクロオさんとお話出来るかもしれない。流れで、連絡先とか知れたり…いや、ないか。やめよう、そんな都合の良い妄想はやめよう。

でもやっぱり仕事だから、自分の中にあるなけなしの勇気を振り絞って、お財布片手に外に出た。

出た瞬間、一番最初に振り向いたのはクロオさん。うわ、目が合った。それに続いて、金髪の…ケンマさんがこっちを向く。そして、どうした?と皆の視線を集めた。

「あの…お客様!お財布を、忘れて…」

段々、声が小さくなる。これは仕事。私情を挟んではいけないと思っても動揺しまくってしまう。

「!」
「あああ!!忘れてたっ」

ベンチからガタッと勢い良く立ち上がったのと、大きな声で叫んだリエーフさんに肩を揺らして驚いた。

「おまっ!ててて店員さんが、驚いてんだろーがっ!」
「あ!すいません!」
「い、いえ!…あっ!」
「うわっ!」

すいません、とお辞儀するように軽く上体を下げたリエーフさん。そのせいで持っていた食べ半端のおいなりさんが箱からひとつこぼれ落ちそうになったが、自身の反射神経を生かしお箸で掴んだ後、直ぐに箱に戻す。

「おおお!ナイスキャッチ!!今の!今の見ましたか!?」

くるっと皆の方へ向き嬉しそうに言う彼だが、周りは慣れているのか空気が冷え切っている。しかし、慣れていないのと緊張が緩んだのか、私は可笑しくて吐き出してしまった。

「あははっ!!ナイスキャッチ」
「!でしょう!?」

今度は私の方を見てぱぁあと効果音がつくような笑顔を見せた。リエーフさん以外は、私を見てきょとんとする。それで冷静になり、やってしまった、とお辞儀をして足早に去った。






「ど、どどどどうしよう」
「いいんじゃない?ほら、明るい子って思われて」
「いや、めっちゃ口開けて笑ったんだよ!?女の"お"の字もなかったよ!」

翌日。学校にて、コンビニでの出来事を友達に話した。

「女の子っぽく、清楚な感じでいくって決めたのに…」
「えー、なまえには清楚は難しいんじゃない?」
「難しくてもやる!」
「そう?もしかしたら、なまえみたいな子がタイプの可能性もあるかもじゃん?」
「……ゴリラと呼ばれる、私が?」
「まあ、ゴリラだけどさ。この学校の中では、でしょ?男ん中にいたらそうではないじゃん」

ゴリラと呼ばれる理由、それは握力が50あるからだ。運動部でもないのに。運動部でも出てる人はいなかったような…。別に、握力強いのは役に立つから嫌じゃないし、ゴリラと呼ばれるのも別に嫌がってはない。頻繁に言われるわけではなくて、そういうのも周りがちゃんとわかって言ってる。
そのせいもあり、力仕事で何か出来ないことがあったら頼られることも多い。男ではなく、私がやるのはこの学校には女子しかいない。女子校だから。

「てかさ、タイプかどうかも分かんない清楚系目指すんじゃなくてさ、連絡先を聞くのを頑張りなよー」
「ご、ごもっとも…」

音駒のクロオさん。共学だし、ああいう感じだから絶対に彼女がいると思ったらいないらしい。これは友達が入手してくれた情報。でも、それがいつまでいないか分からないから、攻めるなら今!って感じなんだけど、目の前にするとテンパって頭が真っ白になってしまう。
それと、怖い。店員といえど、赤の他人だし気持ち悪がられたり、最悪もうコンビニ来てくれなかったり。それは、店長達に申し訳なさすぎる。それに、女子校でほとんど男子と喋らないわけで…どんな風に今まで話していたか忘れてしまっている。
色々言い訳をつけてしまっているけど、私は臆病なのだ。こんな自分が本当に嫌になる。

あとは、少し拗らせちゃってるんだと思う。好きになったのがバイトを始めて数ヶ月。1年の時から初めたから少なくとも2年は片想い中だ。

好きになった理由は、他愛もないことだった。バイト中、「やっぱり力あるのいいな〜親に感謝〜これは遺伝もあるよな〜」なんて商品を詰めた箱が乗っている台車を押していたら、車輪に足をぶつけ転びそうになった。台車を押していたから前に倒れるわけで、心臓がヒュンッと冷えるのがわかった。どうやって商品を守るか頭をよぎった時に、クロオさんが横から台車と箱を支えてくれた。それにより私も前に倒れずに済んだのだ。

それが物凄くかっこよくて。結構な勢いで前に倒れたのに支えてくれた時、ビクともしなくて。中学でもあまり女扱いされてこなかった、高校でも女子しかいないからそもそも女扱いというのもなかったから、凄く胸に刺さって落ちた。少女漫画みたいな恋なんてない、と言っていた自分を殴ってやりたい気分になった。

それから、その人のことが気になって。来る度、心臓が破裂しそうだった。最初は先輩かな?3年生だったらどうしようって思っていたが、自分が2年になってクロオさんが制服姿でコンビニに来てくれた時は陰でガッツポーズを決めてしまった。名前と学校、部活を知っても学年は分からなくて、また3年に進級した時、彼がいて同じ学年かぁと今度は陰で崩れ落ちた。それからだ、友達に気になる人がいると言ったのは。

しかし、今年で最後。約2年。ずっと片想いしてきたんだ、今度こそ話しかけてみよう。






その頃、音駒高校ー3年5組。

「あー…リエーフ、まじで…まじで、ずりぃよ」
「後輩に嫉妬かあ?見苦しいぞ〜」
「つーか、なんだよ!?あの可愛さは!!あんな風に笑うんですね!!初めて知りました!!」

机に項垂れた後、バンっと叩き顔を起こす黒尾と、それを見てゲラゲラ楽しそうに笑う夜久。

「だからよぉ、カフェオレあげればいーだろ?」
「いきなりあげたら困んだろ」
「……」
「それに、気持ち悪がられたら俺は立ち直れない」
「そっちが本音だろ」
「……」

黒尾が毎回、カフェオレを買う理由。それはなまえが好きな飲み物と知っているからだ。たまたま耳に入った会話で入手した情報。カフェオレを買い、自然な流れで仲良くなろうとしていた黒尾だが、意外とその一歩が踏み出せないでいる。ちなみに、なまえはタイミング良く接客出来てると思っているが、それは違う。この男がなまえに当たるように狙っているのだ。
それと黒尾の方は、名字とカフェオレが好きということしかなまえのことはわからない。制服姿も見たことがないため、学校も学年も…高校生かもわからないのだ。このことを知ってる夜久と研磨は、黒尾と同じ高3とみているが。

黒尾もまた、1年の時からなまえのことが好きである。

入学してから割とすぐにあのコンビニには行っていた。夏前くらいから見たことないバイトの子が入ってて。女子には持てないだろうと思うようなものでも軽々しく持ち上げ、人に頼ろうとしない。多分、頼らなくても出来てしまうからだと思う。いつの間にか目で追っていた。だから転びそうになった時、直ぐに支えることが出来たんだ。その時、あの子がきょとんとして、照れたように顔を俯きお礼をしたその姿を見て好きだと自覚した。

「お前、誰とでも直ぐ仲良くなれんのにな」

夜久はそれを活かせよ、なんて眉を下げてニタニタ笑った。

「…頑張りマス」






それから月日は流れ、代表決定戦も終わり春高出場が決まった音駒高校。
が、なまえと黒尾は仲良くなる、どころかまだ話せていない。そして、今日は11月17日。黒尾の誕生日。


…どうしよう。今度こそ話しかけようと心に決めてから、数ヶ月経ってしまった。うわああ、無理。いざ目の前にすると無理…!何回もチャンスはあったはずなのに…!!

「155円になります」
「……」

いつものように音駒バレー部の皆さんはコンビニに来店。今日はケンマさんも中に入り、温かいココアとレジの傍に置いてあるチロルチョコをひとつ手に取った。
お会計を済ませた後、後ろに並んでいるクロオさんにそのチロルチョコを突きつける。

「誕生日おめでとう」
「お、おう…?」

そのまま、スタスタと歩き出すケンマさん。

…え?…誕生日?って今日何日!?

「お願いします」

テンパる私を他所に今日もまたカフェオレを買うクロオさん。他にお客さんもいないし、少しでも近くに居たいから、気づかれない程度にバーコードをゆっくり読み込む。何か、何か…言うんだ!私。

「…お、誕生日…おめでとう、ございます」
「…ありがとうございます」

相手の目を見て伝えた。けど、もっと、もっとあったでしょう!?いきなり、おめでとうございますなんて。そこは「今日、誕生日なんですね。おめでとうございます」にこっ的な感じでしょう?!めっちゃ、ぎこちない言い方!恥ずかしすぎる…。
この後、会話を広げられる能力はなく、何も話さずお別れした。



「…研磨、マジでありがとう」

外に出た黒尾は「誕生日最高」と両手で顔を覆う。それに、研磨は冷たい視線を送った。

「…クロの無駄に高いコミュ力、何でここで活かせないの」

そう言ってため息を吐いた。研磨はもう少し会話が続くと思ったのだろう。

「やっくんと同じこと言わないで下さい…」

苦笑するしかない黒尾に、コンビニから出てきた夜久もまた黒尾の顔を見て苦笑するしかなかった。同情するように。



誕生日の出来事があり、前よりは気軽に話せるんじゃないかと思った双方だが、そんなことは1ミリもなかった。ただ買って帰る、ただ接客をする。それだけで終わり、年が明けた。

年が明けたら、春高が始まる。なまえは中継でゴミ捨て場の決戦を観た。それで、より一層好きな気持ちが増したと同時に、黒尾が遠い存在に見えた。春高が終わっても、自由登校になっても、卒業しても、来る頻度は少なくなったが黒尾は懲りずにコンビニに通っていた。

なまえはこの際当たって砕けろ精神で、次こそは本気で声をかけると覚悟を決めていて、黒尾もまた大学に進学したらここには来れないし、同じ学年だったらコンビニで働くのを辞めるかもしれないと思い、腹を括って話しかけようとした。

しかし、先延ばしにしてたツケが回ったのかタイミングが悉く悪く、話しかける事は出来ず、お互いの覚悟は水の泡になってしまった。









「ほら、なまえ!まずはここで、年上男子を捕まえよう!!」
「大学に何しにきてんの…」
「9割は楽しむため…?」
「…そっか。そうね。そうだね。…うん、楽しみまくろうじゃないかぁぁぁ!!」

今日は大学の入学式。私がクロオさんのことを好きだと知っている友達とたまたま同じ進路だった。
コンビニは辞めて、大学からは違うところでバイトをしようと決めていた。そうなると関わりがなくなり自然と失恋したことになる。結局、話しかけることが出来ないまま、終わってしまった。楽しむとは言ったけど、まだ後悔が残ったままだ。


式が始まる会場に行き、自由に座っていいとのことで、友達と隣同士で座った。

人は半数くらい集まっていて。暫くしてから、私の隣にひとり座った人がいた。横目で見ると身長が高い男の人だと分かったが、女子校出身であると隣に男がいるだけで慣れていなく緊張してしまう。

無事に入学式が終わって、席を立とうとした瞬間、目に入った隣の人に一瞬心臓が止まった。

「……クロオ、さん」

初めて口にしたその名前。呼ばれたクロオさんは私の方を見て、きょとんとする。

「…え」

まるで、誰だ?と顔に書いてあった。瞬間、自分の顔が赤くなるのがわかり、クロオさんに頭を下げてから友達に「トイレ行ってくる!」と叫んでその場から逃げた。


恥ずかしすぎる。勢いで名前を呼んでしまった。しかも誰だかわかってなかったし。絶対、気持ち悪がられた。そもそも、コンビニ店員のことなんて気にする訳がないのに。ていうか、何でここにいるの…?って、同じ大学だからか。最悪。これじゃあ、忘れられないじゃん。
色んな感情が込み上げてきて涙が出てきそうなのを必死に堪える。早歩きで、取り敢えず人がいない所に隠れた時、少し焦ったような大きな声で呼び止められた。

「あの!」

声の主はクロオさんで、頭の中では色んな疑問が飛び交う。なんで追ってきたの?私だってわかったの?でも、なんでわざわざ?
今振り向いたら、泣きそうなのがバレる。そう思って振り返らず、立ち止まるだけ。

「髪…切ったんですね」
「!」

スーツで髪切ってて雰囲気が違かったから気づかなかった。コンビニの店員さんですよね?と気まずそうな声色で話すクロオさん。少しでも女の子らしくと思って伸ばした髪。それももう意味がないと思って3日前にバッサリ切った。

もう訳がわからなくて感情がぐちゃぐちゃになっていたから、何も判断が出来ず、ぽろぽろ涙を零しているのにも関わらず彼の方へ振り向く。

「!は、え…?な、泣いて?え。あ、どうし…」

普段、余裕ありありの黒尾からは想像つかない程焦っていた。内心、泣くほど嫌だったのか、怖がらせた?などど冷汗をかく。
そんな黒尾を見たなまえは泣き虫だと思われた、と焦った。この時のなまえの判断能力は0だ。

「泣いてないです!泣いて、ない!!」
「…ハイ」

もう最悪。大学初日。張り切ってメイクをしたのに、それが台無しだよ。ていうか、何でこんなに涙出てくるの…。クロオさん、困ってるじゃん。ああ、もういいや。もう、いい。どうでも。

「これは…嬉しくて流れてくるやつです」
「……」
「ずっと、あなたのこと気になってた、ので!!!」

もう投げやり。喧嘩腰に背の高いクロオさんを見上げ、言い放った。いいの、気持ち悪がられても。いい、大学初日で告白した女と噂されても。気持ちを伝える以外、どうでも良くなった。

目をぱちぱちさせるクロオさんに、私はもう悔いはない。この後友達とカラオケ行く。そう決めて歩き出した。

「…待って、待て待て待て。は?…え、はぁあ?」

状況が理解出来ず混乱してる姿に、申し訳なくなる。自分が言いたいことだけ言ってしまっているから。これも自分勝手だけど、ここから早く逃げたい。だけど、そんなことはさせてくれなくて、ゆっくりとクロオさんは口を開いた。

「俺も、ずっと気になってました」
「え、」

口元に手を当てて視線を逸らす彼に一時停止。今、なんて言った…?

「う…うそだ」
「嘘じゃないデス」

だから、まずはお友達になってくれませんか。眉を下げて薄ら笑うクロオさんに腰が抜けた。

「!?」
「腰が…抜けた…」
「は?!」
「だって、高1の時から好きだったからぁ…」
「…!」

涙を拭くように目を擦っている私の前にしゃがみ込んで今度は照れたように口を開けて笑った。

「はは!…かーわい」
「な!?」

黒尾はこの発言を後に後悔することとなる。

この人、もしかしてチャラ男!?!?


さっきの一言でなまえからチャラ男と勘違いされ、付き合うまで結構な時間がかかったとか。