「ここはどこ…?」
知らない土地、見たことない家が連なっている住宅地。その家に囲まれて私はひとりポツンと立っていた。
「??…ここは、どこだ??」
夏休み。孤爪くんからのお誘いを受けて仮のマネージャーとして合宿に参加したのが先日。
今日は親戚の結婚式にお呼ばれして東京から兵庫までやって来たのだ。観光も兼ねて式の数日前からこちらに宿泊している。そして、昨日素敵な結婚式が終わり、今日の夕方には東京に戻るため最後にお散歩を〜と親戚宅の周辺をちょろちょろしていたのがいけなかった。
見たことない新しい景色に足は進み、やっと止まった時には知らない場所。どうしよう。どれくらい歩いたのかすら分からない。だけど、落ち着いて!私にはスマホという救世主がいるんだ。画面に指を滑らせ目的の人物を見つけ発信ボタンを押す。
プルルルと電話のコールが鳴り続き、もしかしてこれは出れない感じかな?と諦めた時。音が鳴り止み「もしもし」と安心する声が直に耳に入ってきて、心が緩んだ。緩んだから、大音量で発してしまった。
「ここがどこだか分からない!」
「……」
「孤爪くんっ!!」
名前を叫ぶと呼ばれた人物は黙った後、小さくため息を溢してからいつもより低い声で言い放つ。
「馬鹿なの?」
この言葉を境に、つらつら止まることなく孤爪くんの口から「連絡するのは俺じゃなくてお母さんでしょ」「馬鹿なの?」「取り敢えずそこから動かないで早く連絡して」「知らない人についていかないでよ」など、途中二度目の馬鹿を言われて電話を切られた。
孤爪くんには兵庫に行くというのは言っていたから知っている。だから全て言わなくても状況を把握してくれたのだろう。焦って彼に電話してしまったがお昼時間であろうと、部活中に連絡をしてしまったのはちょっと反省。
「お母さんに電話だ!」
今度こそこの現状を打開し、ありがとうの連絡を孤爪くんにする!しかし、そう意気込んで母に電話したものの繋がらなかった。
え、え?……え?
2回、3回…5回、と一向に出る気配がない。それから父親、親戚など知っている全ての人にかけても繋がらない。あれ??
「……なに」
そして、最後に繋がったのは先程馬鹿のお言葉を私に言った孤爪くん。
「皆に繋がらなかった!!」
「は?」
「連絡先知ってる全員に電話しても繋がらない!!」
全員って言ってもそんな多い人のは知らないんだけど。こんなに繋がらないってことはもしかして何かあったとか…?え、どうしよう。急に不安になってきた。
「ねえ、孤爪くん。繋がらないって変だよね」
「……」
「なにか、あった…と「それは考えすぎ」あ…そ、そうだよね!」
「取り敢えず、今どこにいる?現在地分かるマップ送って」
「うん、わかった!」
スマホ画面をスクショして送信する。目的地も伝えると、電話越しに孤爪くんが案内してくれる。
「コンビニ見えた!ここ、斜め右だ「左…」…はいっ!」
危ない危ない。近くにある建物を伝えながらマップを見て移動するが私は方向音痴で。度々、違う道を行こうとするのを親友(仮)が正しい方を示してくれる。孤爪くんいてくれて良かった…もう好きっ!!!ありがとう!!不安だったもん!!!
「孤爪くん大好きっ!」
「いいから次は真っ直ぐね。近くに学校があるでしょ。そこ曲がらないでね」
「う、うん!」
曲がろうとしてた。何で孤爪くんは気づくんだろう。
「校門の前通り過ぎた?」
「もう少し!!」
「おーい研磨ー、そろそろ時間に「えあっ!?く、くくくくく黒尾先輩!?」え、みょうじちゃん?」
突然聞こえた大好きなえろえろボイスに体を固まらせてその名を呼ぶ。困惑した声色で発する先輩に「こんにちは!みょうじです!」て言うと、今兵庫なんじゃ?そう聞いてくる。電話の向こうで孤爪くんが簡潔に事の経緯を話したら黒尾先輩はとても心配してくれた。
「知らない人にはついていかないこと」
「はいっ!」
「怪しい人にもついていかないこと」
「はいっ!」
「良い人にもついていかないこと」
「はいっ…?」
「会った人に求婚しないこと」
「は、い…???」
うし。じゃあ案内すんぞと言う先輩に孤爪くんは「案内してんの俺なんだけど…」とため息混じりに零し、その後、クロお願いという言葉が聞こえた。
そして、耳に直接入る黒尾先輩の声に肩が跳ねて緊張が走った時。プツリ。音が消えた。
「……え?」
画面を見るも真っ暗。スマホを振ったり画面をタッチしたり、ボタンを長押しするも何の反応もみせない。
「充電切れた……」
う、そ…でしょ…?こんな事があっていいの!?いいの!?いいんだよ!いや、よくない!!ど、どうしよう!これはどうしよう。真っ暗な画面を眺め、絶望で地面にしゃがみ込む。
「うん!悩んでも仕方ない!!誰かに聞こう!!」
そうしよう!丁度、目の前に学校があるし。さっきから体育館の中から微かに声が聞こえるのだ。きっとスポーツをやっている人達だから、黒尾先輩の言っていた怪しい人ではない気がする。一応、もう一回だけスマホをいじって動かないことを確認していたら、こちらのイントネーションで尋ねてきてくれた人がいた。
「体育館に用ですか?」
突然話しかけられたことにより、勢いよく顔を上げるとそこには落ち着いた雰囲気を纏いこちらをジッと見つめる男の人が。
「い、いえ!!あ、いや、いいえ!」
「…」
全てを見透かされるその目に動揺し、曖昧な答えを返してしまう。折角、声をかけてくれたのに…!だって、存在が、なんかっ!なんていうかっ、初対面なのに神々しいっていうか、悪いことを見透かされそうでっ!!謝らずにはいられない。
「すみません!アイスふたつ食べましたっ!」
「…?」
「私の家では一日にアイスはひとつって決まりなんです!」
「そらあかんな」
「スミマセンッ!!!」
角度は90度。きっちり頭を下げる私にその人は体育館に案内するかと聞いてくれたが、迷子ということとスマホの充電がなくなって帰れないことを伝えると、私の目指している場所はここから然程遠くないようで軽く口で教えてくれた。
「ここからやと突き当たりを右に曲がれば大通りに出れる。ほんで暫く道のりに進むと自分が言うとったスーパーがある。そこまで行ったら分かるか?」
「は、はいっ!!ありがとうございますっ!」
今度は膝に額がつくくらい腰を折り曲げると、「ほな気をつけるんやで」のお言葉が降ってくる。もう一度お礼を言ってその人に見送られながらその場を後にした。
「…あれ?……あれれれれ???」
そして数分。突き当たりを右に曲がる、を忘れないで突き進んだ結果、突き当たる場所に辿り着かず目の前には先程いた学校の門。
「もしかして、一周してきちゃった?」
多分、いや本気で学校の周りを歩いただけだった。えええ、どうしよう。焦りと不安、そして夏の猛暑でドッと体に疲れが現れる。ずっと歩いて汗もかいているため喉が渇いた。お財布を持っていないから飲み物を買うお金がない。
「あ、れ…??とびとび…ツッキー?」
ふと目に入ったのは真っ黒ジャージの烏野1年4人組。数メートル先、体育館の渡り廊下で話し合っているのがここからなんとなく見える。
会え、た…。やっと知り合いに会えたという安心と暑さで回らない頭により何も考えず叫びながらそちらに向かった。
「みんなぁぁあー!!!!!」
猛ダッシュ。普通の人のジョギングレベルの猛ダッシュをかまし、烏野1年集団に近づいた。段々くっきりわかる顔と身長…それにより頭の中に疑問が飛び交う。
え、同じ顔がふたつ…?
とびとび達じゃない。人違い?そう思った時には既に相手は私に気づいていて、距離も縮まっていた。
その4人と目があった時、人違いだと確信した。さっき上がった気分が、疲れが一瞬にしてマイナスに下がる。心に反して止まらない足。右足が左の足へと絡まり思い切りズッコけた。一度、前転をして。
ゴンッッ
そして鉄柱に頭を打つける。鈍い音が響き、近くで驚きの声が上がった。
「うわ」
「お、」
「あ…」
「だ、大丈夫ですか…?」
短髪の男の人がこちらを心配そうに覗き込んでくる。ゆっくり顔を上げ4人をじっくり見た後、思わず呟いてしまった。
「ここは…どこ?」
回らない頭。疲れた体。目的地に辿り着けないという絶望から、脳内は混乱状態。
「ここはどこ?私は、だれ…?」
その場に座り込んだまま4人を見て弱々しい声色で発すると、金髪イケメンさんの目が段々大きくなる。そして、周りに響き渡るくらい大きな声を出す。
「記憶喪失や!!!!!」
頭打って記憶飛んだんや! 待ち!これ救急車呼んだ方がええんちゃう?!どないしよ!?など、周りの3人に手を忙しく動かしながら訴える。
「いや、違うでしょ」
「なんや角名!これはどう見ても記憶喪失やろ。自分のこと分からんくなっとんで!」
なあ!サム!!と、自分の同じ顔のイケメンさんに問いかける。
「確かに…嘘は言うてるように見えん」
「せやろ!」
顎に手を添えてこっちを見る銀髪さんは「自分の名前言えるか?」と聞いてくる。同じ顔のふたり…双子さんだろう。その双子以外の黒髪の人と先程声をかけてくれた短髪の彼は苦笑い。いや、黒髪の人の表情は、無だ。
自分の名前、言える。そもそも記憶喪失ではないし、双子の方のお陰でなんとか正気を取り戻すことが出来た。ど、どうしよう…。凄い心配してくれてる。これはもう謝るしかない。私はみょうじなまえですって言おう!
「自分の名「何してんねん。早よ、試合の準備せえ」…あ!」
口を開いた時、さっき道を教えてくれた神がやってきた。その方が現れた瞬間、4人は固まる。それに、少し焦ったような表情を見せた。
「自分、さっきの」
「あ、あああああのっ!!また道に迷ってしまいました!教えてくださったのにすみませんっ!!」
立ち上がり勢いよく頭を90度の位置まで下げる。いきなり立ったせいか、頭を下げたせいかは分からないけどそのまま立ちくらみを起こしてしまい、倒れそうになる。
それを近寄ってきた先程の神が肩に手を添え、ゆっくり下にしゃがませてくれた。落ち着いたところで「こっちで休み」と体を支えてもらいながら日陰に連れていかれて、手に持っていたポカリを渡される。
「…え?」
「また迷ってここに来ると思ってな。買っといてん。気にせんで飲み」
キャップを取って手渡される。言われるまま半分以上一気に飲んでしまったら体が回復した。その後、片膝をつきながら傍にいる神がスマホを取り出し、「家の人に連絡しぃや」そう言って今度は自分のスマホを渡された。
な、なんか…泣き、そう。優しい。優しすぎる…よ。
「あなたは神さまですか?」
「……」
思いのまま口から出た言葉。目の前の神は何も発さず、後ろにいる誰かが「ぶっ!」と吹き出していた。
それからスマホをお借りし電話をかけると、母と繋がることが出来てホッと息を吐く。ここまで迎えにきてくれるみたいで、目を輝かせてそのことを神にお伝えすると、ふんわりと笑ってくれた。
「良かったわ」
今まで表情を変えなかった神。その微笑みは神秘的で心を最上級の浄化で破壊する。だから、黒尾先輩との約束が一瞬ぶっ飛んでしまった。
「結婚してくださいっ!!!!!」
また頭を90度に下げる。すると、上から落ち着いた声が降ってくる。
「そないなこと簡単に言うたらあかんで」
「はいっ!!すみませんっ」
ほな、気をつけるんやで。ともうすぐ出番らしい彼らは体育館の中へと入っていった。
「北さんが神…」
「北さんがプロポーズされとった」
「俺、あんな優しく笑っとる北さん初めて見たわ」
「あー…スマホ持ってきてれば良かった」
侑、治、銀島、角名と各々の感想を述べてから足を動かした。そして、銀島以外の3人はこう思う。
あの子とならもしかしたら北さんを振り回せる、と。