「うっわああああああああ!!来ました来ました来ましたよーー!!」

初!カラオケ!黒尾先輩と孤爪くんの3人で!!部屋に入る前にそう言って後ろにいる2人の方を振り向くと、孤爪くんは「テンション高すぎ…」と呟き、黒尾先輩は「いいじゃねーか。来る機会そんなねぇんだからさ」と楽しそうに話す。

今日は体育館が数時間しか使うことが出来なくて、いつもより早めに終わった。そこからたまたまカラオケの話になり、その流れで3人で来ることになった。孤爪くんとも一緒にカラオケに来るのは初だ。是非、マイクを持って歌う姿を見てみたい…!もちろん、先輩のもだ!

コの字型のソファーに、両サイドに孤爪くんと黒尾先輩、一番奥に私、という順で座る。行きたいと言い出した私が初めに歌うこととなった。

「では!まずこの曲!!いっきますよぉぉぉ〜!!」

マイク片手にアイドルポーズを決め、盛り上がる曲No.1になっているものを選んだ。ちなみに、ポーズを決めたがアイドルの曲ではない。

歌い始め、間奏に入った時ふと視線を感じた。

「ま、まってください…!そ、そそそんな私の方を見ないでください!!照れて、照れて歌えない…!」
「え」
「全然、照れてるようには見えなかったけど…。ノリノリだったじゃん」
「それに!先輩がこっちを見つめているのに、私は…私は!画面を見てないと歌えない!勿体ない。先輩を見て歌えるよう修行し直してきます…!」

先輩は飲み物を飲みながら…それもストローを使ってこっちを真剣に見る。そんなに見られては心臓が持たない。あたふたし出す私を他所に間奏は終わり、歌うところがきた。すぐさま切り替え歌い出した私に、先輩は「ぶっひゃひゃひゃひゃっ!!」と大きく口を開けて笑った。

歌い終わり、次は黒尾先輩の番。マイク越しに聴こえる声。普段とは違う声を出す先輩に倒れそうになる体を必死に起き上がらせ最後まで震えながら聴いた。

「みょうじちゃんの視線が凄いんですケド」
「く、く…はッ…孤爪くん。た、助けて。耳が破壊された…」
「……」

ゾンビのようにソファに這いつくばって親友の元へ助けを求めたが、スルーされる。そんな親友は一曲だけ歌う約束をしてくれたから、早く終わらせるため手際良く選曲し、歌い出した。

「え、孤爪くん。惚れちゃ「やめて」」

孤爪くんのすんなり入る声。歌に感情は入ってなくても音程は完璧で、普段聞いたことない低い声も出していて。新たな発見が出来た。これも、親友への第一歩。そんな孤爪くんはゲームを取り出し、そちらの世界に入っていった。

「では、続いて!!黒尾先輩へ向けて歌います!」

宣言してド直球な隠す気なんて更々ない曲を歌ったら、孤爪くんに「それを照れずに歌えるんだから修行しなくていいんじゃない」というお言葉を頂いた。黒尾先輩もまた「…ソウデスネ」と苦笑い。

その後も2人で交互に歌い、孤爪くんはゲームをしたり中断したりしながら聴いていた。途中、会いたくて震えるの歌詞がある曲を歌いながら、会っても震えていますけどね!と自分で合いの手を入れると、2人もそう思ったのか、吹き出して「みょうじはそこの一部をクロに向けて歌いたかったんでしょ」と親友さながら、エスパーを発揮する孤爪くん。
そして、黒尾先輩とデュエットという初体験、初の共同作業も出来て、もう幸せいっぱいだった。


時間も終わりに近づいてきた時、孤爪くんはトイレに行くため席を立った。残りの時間、楽しむぞ!と意気込んだのはいいけれど、久しぶりにカラオケに来たのと、最初からハイペースで歌い続けて体力がない。マネージャーをやり始めたと言えど、体力は運動していない女の子よりも、中学生よりも、いや小学生の子にだって持久走で競ったら負けるくらいの人間だ。

そして、お腹から声を出し続けた私はもう…。

パタッとソファに力無く倒れた。

「は?…みょうじちゃん?」

いきなり倒れた私に先輩は凄い勢いで振り向き、目を見開く。ああ…先輩が歌っているのに…聴き逃したくない。しかも、昨日少し夜更かしをしてしまって、横になると眠気が凄い。でも、それよりも…

「……さ、酸欠…で、す」

お腹から声を出したから、酸欠。

「…酸欠…?…はぁぁ、もう、ほんとビビったわ」

大丈夫?飲みもんは?とマイクを置いて、心配する先輩。うえ、優男。イケメン、かっこいい。上から覗く先輩の安定のエロさ。しかし、その後「酸欠ってさぁ…」と言っていつものようにゲラゲラと笑い出した。

私の様子を見て大丈夫だと分かった先輩はソファに座り直した。けど、申し訳ない。先輩の歌の邪魔をしてしまった。だから、マイクを渡そうと一度起き上がった。

「…え」
「!」

急に起き上がったせいか、立ちくらみを起こしてそのまま前に倒れかけた。それに直ぐ気づいた先輩は私の肩を掴んでくれたが、一瞬だったためバランスを崩しまたソファに座り、そのまま私の頭は大好きな人の膝の上に乗る形になった。うわ。なにこれ…幸せ。先輩の筋肉。膝枕、最高。眠いし、このまま寝てしまおうか。酸欠、立ちくらみ、眠気がマックスだった私には判断能力はなく、そのまま目を閉じた。


「みょうじちゃん…?大丈夫か?」

微動だにしないみょうじを黒尾は少し心配になる。髪をかき分け、自分の方に向いている顔を確認すると寝ているということがわかった。

「…。…は、はぁぁぁぁあ?なんなの、この子マジで!!なんっ…寝て!?は?危機感!危機感はねぇんですか!?」

一瞬のうちにすやすや自分の膝の上で寝る好きな子に対し、どうすることも出来ずただ両手を広げ、起こさない程度の音量で叫ぶしかない黒尾。

数秒、無言になった後、自分の下にいるみょうじに目を移して優しく髪をとかすように触れた。その髪はゆっくり手からするりと落ちる。それを何度も繰り返す黒尾は表情からでは何も読み取れない、そんな顔。
深くは眠っていないみょうじは髪を触られているのが気持ち良かったのか、黒尾の腹に顔を近づけ猫のようにすり寄せた。半分寝ているせいも十分あるが、この時のみょうじは正しい判断が出来ていない。それを受け、顔を強張せる黒尾だが、タイミングが良いのか、悪いのか研磨が戻って来た。


「………どういうこと?」
「研磨…、助けてくれ…」
「……」

幼なじみの色々我慢している姿に同情の目を向け、何となくこの状況を理解した研磨はニヤリと愉しげに笑い、こう言った。

「ご愁傷様」