キャラメル気分



今日は鉄朗くんのお家にお泊まりday。そして、宅飲みというやつをする日でもある。

「本当に俺だけ飲む、で楽しいの?」
「うん!」

私はまだ未成年。まだお酒を飲めない歳。でも、宅飲みをしてみたい。そう思ったのは、友達が彼氏と宅飲みをする〜と言っていたからだ。それに家でお酒を飲んでいる鉄朗くんを見てみたいとも思った。

鉄朗くんは缶のお酒を、私はりんごジュースを手に取り乾杯をする。

「ふふ、ふふふふふ」
「どうしたどうした」
「まさかね、高校の時の私はこうやって鉄朗くんのお家で乾杯をすると思ってなかったから!」
「俺もまさか未成年のなまえに宅飲みしたいって言われると思わなかったな」

ゴクゴク喉を鳴らし、いい飲みっぷりを発揮する姿に惚れ惚れする。喉仏がなんといやらしい!

「次は一緒に飲もうな」
「うん!みんなとも飲みたいな!リエーフとか意外と強そう」
「リエーフは酔ってんのか酔ってねぇーのか分かりづらそう」
「あははは!」

食べたり飲んだり、話したり。テレビをつけて笑ったり、何気ないゆっくりとしたこの時間が凄く幸せ。
福永くんに教えてもらった極旨おつまみは鉄朗くんに大絶賛で、作って良かったと福永くんにお礼のメッセージをひとつ送る。

それから暫くして鉄朗くんの口数が少なくなった。途中で孤爪くんの配信動画に切り替えたテレビから親友の声が響くだけになる。そして、鉄朗くんの目はとろんとしてきた。もしかして、酔ってる……?外で飲んでる時より酔いが早くない?私が未成年だからまだ一緒に飲みに行ったりはしないけど、お互い知らずに行った合コンの時とか、前に鉄朗くんが友達と飲んでいるところに行った時も今以上に飲んでいた気がするし、大学のお友達も鉄朗くんのことを酒強いと言っていた。

家で飲んでいるから気が緩んだのだろうか。水を持って来ようと立ち上がった瞬間、大きな声で名前を呼ばれた。

「なまえ!」
「はい!?」

こんな声を張るなんて珍しい。部活の時みたいで、つい敬語で返事をしてしまった。

「どこいくの?」
「冷蔵庫に……?」
「なんで」
「……えっ、と、水を取るのに」
「だめ」
「だめ!?」

テーブルに伏せながら顔だけをこちらに向けて、とろんとした目で見つめる鉄朗くんがあまりにも可愛くてグッと下唇を噛む。対して酔っている彼は拗ねた子供のような口元になっていた。

「水いらないの?」
「うん。なまえがいる」
「ゔっ!?」

可愛いお顔には似合わない長くて鍛えられた腕をこちらに力なく伸ばし、ちょいちょいとゆっくり手招きされる。でも、水飲んだ方がいいのではないだろうか。一度近くに寄り、小さな子供を説得するように屈んで鉄朗くんと目の高さを合わせて口を開く。

「ちょっとだけ待っててもらえ……!?」
「つかまえた」
「っ、」

捕まえられた!?てか、耳!!耳元で話さないで!!いきなり腕を掴まれ、引っ張られたかと思いきやすぽっと鉄朗くんの胸の中に閉じ込められた。後ろから肩に顎を乗せられ、直に声が届く。

「なんで今日はそんなに酔ってるの!?」
「んーー……なまえちゃんしかいないからかな」
「ちゃん呼び!?」
「なまえちゃん」
「……っはい」

酔ってる鉄朗くん大変!罪!!逮捕されてしまうレベルの色気。そのまま歩いていたら捕まってしまう。本当に外ではこうじゃないの?大丈夫なの?こんないつも余裕があって、でもたまに少年心を吐き出すような人が、こんな甘々でデレデレなのを他の人が見たら、ギャップ萌えで好きになっちゃうよ!?!?

「外でそれしちゃダメだからね!!」

般若面になりながら後ろを振り向けない代わりに視線だけを必死に向けようとする。

「しない。みょうじちゃんにだけだもん」
「……っっモン!?」

しかも苗字呼び!どれだけ酔っているんだ!このきゅるきゅるの可愛いお方は!脳内は高校時代にタイムスリップでもしてしまったのだろうかぁあ!?

高校時代の黒尾先輩が後ろから抱きしめてくる。……ぐっ、考えるな。考えたらそこで脳内火山噴火だ!平然を保つべく、違うことを考えようとする。こういう時は頭の中で計算式を並べるのがメジャーだ。……ぐっ、出てこない。なんの計算も出てこない。なら、ここは今の時刻を考えるんだ。今は二十二時。今の時刻二十二時三分、二十二時五分……。

「今は二十二時六分……」
「二十二時?」
「あれ?今、十一時だ」
「いま、十一時」
「……」

ああぁぁぁ〜〜〜ァァァァァァ〜〜!!!!!

かっっっっっっっっわ!?いいっっっっ!!まずい、まずいまずい。これはかわいい!なんで同じことを繰り返すの!?かわいいです!!……押し倒したくなる可愛さだ。
もぞもぞと動き、後ろから抱きしめられている状態から向き合うような体勢まで持っていく。お酒を飲んでいるテーブルは低いもので私達は今、下に直で座っている状態。膝立てになれたらこっちのもの。前から鉄朗くんの両肩を掴んで押した。

「ぐっ、ぐぅ……」
「……押し倒そうとしてんの?」
「そうなの。でも、鉄朗くんの腹筋が凄すぎて倒れてくれない」
「ぼく、筋肉マンなので」
「ふぅううううう!」

鉄朗くんが何かを言った。でも、今それが頭に入ってくるほどの余裕は無い。押し倒すのに必死。さっきの可愛さはどこにいったのか。力も強いし、笑い方も楽しそうにゲラゲラだ。

「ふううう…………わっ」

急に力を緩めてくれたのか、すんなり鉄朗くんは床に組み敷かれる。それからいつもよりほんのり赤くなった頬と垂れた目で見つめられ、こう言われた。

「押し倒されちゃった」

押し倒しちゃいましたッッ!下にある黒尾くんの顔は新鮮で、色々と危ないと目をギュッと瞑れば、頬に手を添えられる。そして、親指の腹でゆっくり撫でるよう触られて。押し倒しているのはこっちなのに、優勢なのは向こうの方。

頬にある手を今度は私の後頭部に回し、自分の元に引きつける。ゆっくり触れた唇同士は何度か同じことを繰り返したあと、お互いの舌が絡み合う。

「……っん、はぁ…………おさけ、の味する」

離れてすぐ出たのは、ムードもなにもないも言葉だった。「あ……」と呟いた鉄朗くんは、大丈夫?気分悪くない?と聞いてくる。
普通のかっこいい鉄朗くんに戻ってる。さっきまでの甘えたはなくなっちゃったのかな。今度は私が子供のように拗ねた表情を見せれば、「酔いちょっとだけ冷めてきたわ。まだぼやっとするけど。酔っててほしーの?」なんて苦笑しながら言われた。

「はい!それに、そんなすぐ酔いは冷めません!」
「えぇ……まあ、冷めきってはねーけど」

また下から伸びてきた腕によって引き寄せられ、今度は鉄朗くんの体の上に乗る形で倒れた。

「なまえ、いい匂いすんね」
「鉄朗くんはエロの匂いがします」
「どんな匂いよ」
「発情するような匂い!」
「女の子がそういうこと言っちゃいけません」
「はーい」

高校の時ほどじゃないけど、鍛え続けている胸板の上に頬を預けて会話をする。突然耳に届いた親友の「うわ、さいあく」という言葉にガバッと顔を上げた。

「びっくりした……!孤爪くんがいるのかと思った」

配信動画を付けっぱなしだったことを今思い出す。鉄朗くんの上に乗りながら、画面をマジマジと見つめていれば下から両頬を優しく包まれた。

「こっち」

そして、画面から鉄朗くんの方へ顔を向けさせられた。それから長い腕がテーブルに乗ったリモコンを取り、テレビを消す。

「続きしようか」

そう言う鉄朗くんの目からはもう酔いなんてなくて。私が酔ってしまいそうな気分になりながら、こくりと首を縦に振った。