ラブレターとキスの日



「ねえねえ、孤爪くん。大変だよ!」
「………何?」
「今日はキスの日でラブレターの日なんだって!!」
「そう」
「黒尾先輩にラブレターを渡してみようと思ってるの!流石にキ、キスは出来ないからね…!」


きゃぁぁぁぁ!もうキスって言うだけで恥ずかしい!!!そう言って両手で頬を包み、首が取れるんじゃないかってくらい勢い良く左右に振る。興味が無さそうに冷たい目を向ける孤爪くんは「それより…」と言葉を発したところで教卓から低い声で名前を呼ばれた。



「ううう…せっかく黒尾先輩にラブレターを書こうと思ったのにぃぃぃ」


授業中、後ろを向いて孤爪くんにラブレターのあれこれを話そうと意気込んだ時に先生からお叱りを受け、放課後ひとり居残って反省文。作文用紙を二枚。こんなに反省の言葉を書けないよ。一層の事、"ごめん"と"なさい"を大きく書いて提出しちゃおうかな。


「それはダメだ!怒られる」


頭を抱え項垂れ、黒尾先輩へのラブレターだったらと悔しがりながら必死に文字を綴る。





「お、やってるやってる」
「く、黒尾先輩…!?!?」


扉から聞こえた大好きな声に顔を上げた。部活は?何故ここに!?こんな姿を見られては情けないと焦り出す私を他所に、黒尾先輩は前席の椅子に横向きで腰を掛ける。


「順調に進んで……えっと…?お嬢さん…なんですかこれ」
「……あ。…わぁぁぁぁぁあ!!!!すみませんすみません!ちょっと今日はラブレターの日なんで!」


用紙を隠すように体で覆い言い訳をする。反省文。その為にもらった作文用紙には黒尾先輩への想いがぎっしり書かれていた。何でだっ!反省文は一文字も書けないのに、先輩への想いは止まることなく、裏面まで書いているではないか。


「へぇ…これ俺に?」
「そ、そそそそんなんじゃなくなくないです!!」
「え、どっち?」


腕の下になっているそのラブレター(反省文)を取ろうと引っ張る黒尾先輩。必死に抵抗するが、「見して?」と耳元で囁かれるものだから簡単に抑える力が緩んでしまった。くっ…ここでエロ尾先輩を出すとは…!?
諦めて抵抗をやめ、目を泳がす事しか出来ない私に読み終わった先輩は「あのさ…」と口を開いた後、こちらに視線を向けた。


「俺、今日はキスの日って聞いたんだけど」
「……え?」


そう言われゆっくり黒尾先輩の顔が近づいてくる。え、え…!?待った…!!心で叫んでも声には出ず、唇と目をぎゅっと閉じるしかなかった。


「いだっ!!」

待っても待っても期待することは何も起きなくて、目を開けようとした時額に軽い痛みが生じ、デコピンをされたことがわかった。


「そうやって簡単に目を閉じなーい」


乱暴に頭を撫でた先輩は席を立ち、「新しい用紙貰ってくっから、これは頂戴ね」と言って教室を出て行った。


「今日はデコピンDAY!?!?!?!?」