ハグの日



「黒尾先輩っ!!」
「ん?」
「今日は何の日でしょう!?」

廊下を歩く先輩の後ろ姿を見つけ駆け寄った。首だけを捻り「ん?」と言って、後ろを振り向くお顔はまさしくエロ。眉を下げて苦笑するお姿は、今日も元気なことで、とでも言っているようで。それでも、何の日か考えてくれる先輩が私は大好きだ。

「分かりませんか!?」
「あー…うん。ちょい待って、思い出すか……わかりません」
「分かりませんか…!」
「ウン」

分からないで欲しいな、分からなかったらいいな。そんな思いが表に出てしまい、それに気づいた黒尾先輩は私が求めた答えをくれた。ぐっ、優しい…。そして、申し訳ない…がっ!!これは最高のチャンス。自身の両手を上にあげて万歳をした。

「先輩もやってくれませんか!?!?」
「え、こう?」
「そうです!!そうです!!」

きゃぁぁあ!ありがとうございますっ!!そう叫んでから両手を上げる大好きな人の胸に飛び込んだ。

「うおっ、…え?みょうじちゃん…?」

タックル並みの勢いで抱きついてしまい、一瞬後ろへ軽く上体を仰け反りながらも手は上げたまま体で私を支えてくれる。
抱きしめれるのなんてもしかしたら最後かもしれない。その思いから胸に顔を埋め、ぎゅーっと力を込めて抱きしめる。そして、ゆっくり上にある手が降りてくると同時に先輩の方へ視線を上げ口元を緩めた。

「ふふふっ、今日はハグの日なんですっ!」
「……」

黒目だけを上にあげて言うと、視界の端に先輩の手がさっきより下の位置で浮いているのが映り込む。固まっているこの瞬間にサッと体から離れ、謝罪をした。

「し、失礼しました!自分勝手にごめんなさい!!!!」

ありがとうございますっ!と続けてその場から駆け足で去った。


「…は?…なにあれ」

宙に浮いた右手でそのまま自身の顔を覆い、マジかよ…と息と共に吐き出した。