親友以上にはなれない



※なんでも許せる方のみ(もし研磨がみょうじに片想いしていたら)


「孤爪くん孤爪くんっ!!黒尾先輩がいる…!!」

両手を口元に持っていき「かっこいい…今日も輝いてる…う、」なんて言い、自分の幼馴染に見惚れる友人を横目で見る。

「わっ!?目、合った…!え、ええええ!!」
「……」
「ちょっと行ってくるっ!」
「うん」

昼休み。中庭で俺がゲームをし、それをみょうじが覗き込んで見るというスタイルが日課となっている。
どうやら目が合ったクロに手招きされたらしく、驚きながらも独特のフォームで走る友人の背中を眺め、幼馴染の元に辿り着いたのを確認してから手に持っているゲーム機に視線を戻した。

1試合終わる頃には戻って来るだろうと思っていたが、その予想は外れ未だ戻ってこない。ふと顔を上げてふたりを見ると、そこには仲睦まじく話す自分の幼馴染と友人がいた。みょうじはいつも表情が豊かだけど、クロにだけ見せる顔がある。それを俺は一度も向れられたことがない。

クロもみょうじも好きだから、そんなふたりが良い感じになればいいと思った。けど、いい感じになればなる程心が抉られているような感覚になる。もっと早く自分の気持ちに気付いていたら良かったのかもしれない。


「…気付いたとしてもどうにもならない、か」

惚れやすい友人が一年以上も一緒にいる相手を好きにならない時点で答えは決まっている。自分で考え導き出した答えに嫌気が差し、ため息を吐いた。


「孤爪くんがため息を吐いてる!?どうした!?」

クロに頭を下げてから大声でこっちに向かって放たれる。小さなため息を離れているこの距離から聞き逃さない友人にギョッとしながらも、好きな人との会話を中断して心配そうにこっちに駆けてくる姿に嬉しくなってしまう。そんな思考になるのが嫌で眉間に皺を作ると「ため息ついたら幸せ逃げちゃうよ!任せて、吸うから!!」そう言われ、更に皺が増える。誰のせいだと…

「やめて。吸わなくていいから」
「はいっ!」

威勢の良い返事をしたかと思えば、ベンチに座り左右の足を交互にプラプラさせてどこか落ちつかない様子でいるみょうじに問いかける。

「どうしたの」
「えっ、いや…!別に…」

明らかに何かを隠しているその素振りに少しの苛立ちを覚え、微かに検討がついていることを聞いてみた。

「その、後ろに隠してあるの…なに?」
「!?」

目を見開くみょうじが背に隠すのは白い箱。お昼に食べるものかと思えばずっと肌身離さず持っているから疑問に思っていた。友人は俺の問いに観念したように息を吐いた後、真剣な面持ちでこっちを見る。

「バレてしまったものは仕方ない」

そう言って箱の中身を見せられる。

「……」

見せられて直ぐ理解した。今日は俺の誕生日だということに。中身はアップルパイ。誕生日だからみょうじが作ってきてくれたらしい。

「ハッピーバースデー!!孤爪くんっ!」
「…ありがとう」

ひとりで誕生ソングを歌いそれに合わせて手叩きをする姿に先程まで脳内を占めていた嫌な感情が薄れていく。なんていうか、こういう姿を見ると悩んでいることが馬鹿らしくなってくる、みたいな。

アップルパイを一口食べるとキラキラした目でこちらを見られ、その目に応えるように「美味しい」と呟いたら更に顔を明るくさせて笑う。つられて、ふっ、と声に出して笑みを溢すと「孤爪くんの笑顔…!!」なんて、今度は飛び跳ねて喜び始めた。

そして直ぐにベンチに座り直し、先程と同様足をプラプラさせて俺が食べ終わるのを待つ。待っている間、偶々教室へ戻るクロを見かけたのか、数階上の廊下を歩く好きな人をジッと見上げ、向こうもそれに気付いて手を上げた。ふたりにはバレない程度に視線を向けると、クロが親指と人差し指で丸を作り首を傾げ、みょうじはそのジェスチャーに頷く。多分、俺にアップルパイを渡すのに「成功した?」「しました!」のやりとりをしているんだと想像がついた。
みょうじが縦に首を振るのを見てから、同級生らしき人に呼ばれて話し込むクロの後ろ姿を友人は頬を緩めながら見つめる。


ああ、まただ。

この抉られる感じ。ふたりのこと、好きで、幸せになってほしいのに。ふたりは何も悪くないのに。悪いのは全部、俺のこの気持ちなのに。

叶うことのないこの感情がグルグルと奥底で黒く渦巻く。一層のこと早くふたりがくっつけばいいと思う。溢れないように、表に出さないように、ずっとそうしてきたのに、今この瞬間だけ体が勝手に動いてしまった。

「えっ、」

好きな人を見ているため後頭部をこちらに向けているみょうじの肩を無理矢理引いて俺の方に顔を向けさせる。いきなりのことで驚いた友人は目を丸くしきょとんとする。

「……」
「孤爪くん…?」

この至近距離でも平然としている態度に脈がないことなんて安易に分かる。相手がクロだったらきっと頬を赤くして勢い良くここから身を引くだろう。

誰も悪くない。でもこの感情が消えることがない苛立ちから友人の口目掛けて思い切りアップルパイを押し付けた。

「うぐっ…!?!?なにゅうるの」
「はぁ…」

必死に押さえつけられたものを食べながら、言えてない「なにするの?」を言うみょうじにため息が出た。本当に何してんだろ。

「もう、昼休み終わるから行こ」

これ以上やらかさないためにも早く人がいるところに行こう。普段人を避けてる自分がする考えではないとまたため息を吐いた。






そして、放課後練の後。自主練はしないから着替えるために部室へ行くと、色んな方向からパンッというクラッカー音が響く。驚き、周りを見渡したら1年から3年まで全部員達がニヤニヤと愉しそうな笑みを浮かべていた。さっきまで体育館にいた面子もいつの間にか背後にいて、ビクッと肩が跳ねる。

お誕生日おめでとう!と改めて祝福され、各々から色んなものを貰い、最後にみょうじからとある動画がメールで送られてくる。

「研磨さん研磨さん、見てください!早くっ!」
「おい、リエーフ焦らすなって」
「だって俺達もまだ見てないんスよ!気になるじゃないですか!」
「そりゃあ、まあ気になっけど」

リエーフと夜久くんのやりとりから送られてきた動画はバレー部全員で作ったということが想像出来る。実際、動画を流すと誕生日おめでとうのメッセージと共にひとりずつ芸を披露していた。これを纏めたのがみょうじなのだろうか。音楽も付け加えられてて、こんなこと出来たんだ、と少し驚いた。

「驚いたろ〜?研磨」
「…うん、こんなこと出来たんだね」
「いや、そっちじゃなくて」

したり顔でニヤニヤと意地悪く聞いてくるクロに思ったことを口に出したが、意味が違ったらしい。

……ああ、そうか。

「まさかもう一回、プレゼント貰えるとは思わなかった」

きっとアップルパイで終わり、その後にまたサプライズがあると思わなかった。そう思わせる作戦だったのだろう。

「びっくりした」

確かにまた貰えるなんて思っていなかったから素直に口に出すと表情筋が緩々のみょうじが目の前にやって来る。

「へへっ!本当!?びっくりした!?」
「うん」
「ふふ、何てっいったって今日は親友の誕生日なんだから誰よりも気合を入れなくてはねっ!!」

ふんっとドヤ顔で言う友人にそういえば最近親友になったことを思い出す。


なんとなくみょうじなまえという人間とは高校を卒業して大人になっても、親友として一緒にいるだろうと思った。

そして、いつかみょうじに「結婚おめでとう」を言う日が必ずくるんだ。それはきっと幼馴染に言う日と同じになる。同じじゃなきゃ許せない。

みょうじの親友として。