親友として



(※『親友以上にはなれない』の片想いしていない本編どおりの研磨で、話は同じです)



「孤爪くん孤爪くんっ!!黒尾先輩がいる…!!」

両手を口元に持っていき「かっこいい…今日も輝いてる…う、」なんて言い、自分の幼馴染に見惚れる友人を横目で見る。

「わっ!?目、合った…!え、ええええ!!」
「……」
「ちょっと行ってくるっ!」
「ん」

昼休み。中庭で俺がゲームをし、それをみょうじが覗き込んで見るというスタイルが日課となっている。
どうやら目が合ったクロに手招きされたらしく、驚きながらも独特のフォームで走る友人に目もくれずゲーム機を操作する。

1試合終わる頃には戻って来るだろうと思っていたが、その予想は外れ未だ戻ってこない。ふと顔を上げてふたりを見ると、そこには仲睦まじく話す自分の幼馴染と友人がいた。前はふたりきりで話すことなんて出来なかったくせに今はすっかり慣れてきている。どちらかと言えば、クロが振り回されてるような…。最近の幼馴染の振り回され具合が面白くて口元が緩み、それをサイドの髪で隠すように下を俯く。

下を向いた瞬間、ボタンを押していたのか試合が既に始まっていて、慌てて操作するも"GAME OVER"の文字が表示され、ため息を吐いた。


「孤爪くんがため息を吐いてる!?どうした!?」

クロに頭を下げてから大声でこっちに向かって放たれる。小さなため息を離れているこの距離から聞き逃さない友人にギョッとしながらも、好きな人との会話を中断してまで来るようなことじゃないから眉間に皺を作ると「ため息ついたら幸せ逃げちゃうよ!任せて、吸うから!!」そう言われ、更に皺が増える。

「やめて。吸わなくていいから」
「はいっ!」

威勢の良い返事をしたかと思えば、ベンチに座り左右の足を交互にプラプラさせてどこか落ちつかない様子でいるみょうじに問いかける。

「どうしたの」
「えっ、いや…!別に…」

明らかに何かを隠しているその素振りに少しの苛立ちを覚え、微かに検討がついていることを聞いてみた。

「その、後ろに隠してあるの…なに?」
「!?」

目を見開くみょうじが背に隠すのは白い箱。お昼に食べるものかと思えばずっと肌身離さず持っているから疑問に思っていた。友人は俺の問いに観念したように息を吐いた後、真剣な面持ちでこっちを見る。

「バレてしまったものは仕方ない」

そう言って箱の中身を見せられる。

「……」

見せられて直ぐ理解した。今日は俺の誕生日だということに。中身はアップルパイ。誕生日だからみょうじが作ってきてくれたらしい。

「ハッピーバースデー!!孤爪くんっ!」
「…ありがとう」

みょうじが歌う誕生ソングとそれに合わせた手叩きを耳に入れながら目線はアップルパイに注がれる。一口、パクリと食べるとキラキラした目でこちらを見られ、その目に応えるように「美味しい」と呟いたら更に顔を明るくさせて笑う。分かりやすい反応につられて、ふっ、と声に出して笑みを溢してしまったら「孤爪くんの笑顔…!!」なんて、今度は飛び跳ねて喜び始めた。

そして直ぐにベンチに座り直し、先程と同様足をプラプラさせて俺が食べ終わるのを待つ。待っている間、偶々教室へ戻るクロを見かけたのか、数階上の廊下を歩く好きな人をジッと見上げ、向こうもそれに気付いて手を上げた。ふたりにはバレない程度に視線を向けると、クロが親指と人差し指で丸を作り首を傾げ、みょうじはそのジェスチャーに頷く。多分、俺にアップルパイを渡すのに「成功した?」「しました!」のやりとりをしているんだと想像がついた。
みょうじが縦に首を振るのを見てから、同級生らしき人に呼ばれて話し込むクロの後ろ姿を友人は頬を緩めながら見つめる。

こんな表情をするのはクロに対してだけだ。本人は気付いてないだろうけど前に好きだった先輩にはこんな顔をしてなかった気がする。それはクロだって同じ。みょうじに向けるそれは幼い頃から隣にいた俺ですら見たことがない。早くくっつかればいいのに。お互い考えがあるのだろうけど、見てるこっちがモヤモヤするとクロがまたこちらを見たのを確認してから、体を動かした。

「えっ、」

好きな人を見ているため後頭部をこちらに向けているみょうじの肩を無理矢理引いて俺の方に顔を向けさせる。いきなりのことで驚いた友人は目を丸くしきょとんとする。

「……」
「孤爪くん…?」

この至近距離でも平然としている態度に相手がクロだったらきっと頬を赤くして勢い良くここから身を引くだろうと容易に想像出来る。そして、友人の口目掛けて思い切りアップルパイを押し付けた。

「うぐっ…!?!?なにゅうるの」
「はぁ…」

必死に押さえつけられたものを食べながら、言えてない「なにするの?」を言うみょうじにため息が出た。本当に何してんだろ。

「もう、昼休み終わるから行こ」

ちらりと視線を上に向ける。すると、そこにはただ固まっている幼馴染の姿があった。いくら俺とみょうじの間に何もないとしてもあの鼻がつくくらいの距離で見つめ合っていたら気分は良くないだろう。いつまでもみょうじが自分のことを好きでいると思わないで。惚れやすいんだからね。早く自分のものにして。と本人達よりもふたりの関係に焦り、起こした行動に自分らしくない、そう思ってまたため息を吐いた。






そして、放課後練の後。自主練はしないから着替えるために部室へ行くと、色んな方向からパンッというクラッカー音が響く。驚き、周りを見渡したら1年から3年まで全部員達がニヤニヤと愉しそうな笑みを浮かべていた。さっきまで体育館にいた面子もいつの間にか背後にいて、ビクッと肩が跳ねる。

お誕生日おめでとう!と改めて祝福され、各々から色んなものを貰い、最後にみょうじからとある動画がメールで送られてくる。

「研磨さん研磨さん、見てください!早くっ!」
「おい、リエーフ焦らすなって」
「だって俺達もまだ見てないんスよ!気になるじゃないですか!」
「そりゃあ、まあ気になっけど」

リエーフと夜久くんのやりとりから送られてきた動画はバレー部全員で作ったということが想像出来る。実際、動画を流すと誕生日おめでとうのメッセージと共にひとりずつ芸を披露していた。これを纏めたのがみょうじなのだろうか。音楽も付け加えられてて、こんなこと出来たんだ、と少し驚いた。

「驚いたろ〜?研磨」
「…うん、こんなこと出来たんだね」
「いや、そっちじゃなくて」

したり顔でニヤニヤと意地悪く聞いてくるクロに思ったことを口に出したが、意味が違ったらしい。

……ああ、そうか。

「まさかもう一回、プレゼント貰えるとは思わなかった」

きっとアップルパイで終わり、その後にまたサプライズがあると思わなかった。そう思わせる作戦だったのだろう。

「びっくりした」

確かにまた貰えるなんて思っていなかったから素直に口に出すと表情筋が緩々のみょうじが目の前にやって来る。

「へへっ!本当!?びっくりした!?」
「うん」
「ふふ、何てったって今日は親友の誕生日なんだから誰よりも気合を入れなくてはねっ!!」

ふんっとドヤ顔で言う友人にそういえば最近親友になったことを思い出す。


きっとみょうじなまえという人間とは高校を卒業して大人になっても、親友として一緒にいるだろうと思った。

そして、いつかみょうじに「結婚おめでとう」を言う日が必ずくるんだ。それはきっと幼馴染に言う日と同じになる。同じじゃなきゃ許さない。

みょうじの親友として。