3月14日
「…ねえ」「うん?」
今日もゲームに勤しんでいる彼氏を横目にスマホを弄ればふと声がかけられて振り向いた。
「なまえ、14日の予定は?」
「14日?えーっと、待ってねスケジュール見る」
画面を変えてスケジュールアプリを開けば白いハートのスタンプで可愛くメモした小さな予定。とは言っても長い付き合いだけれどホワイトデーのお返しをしっかりもらったことはなかったし今年も「ホワイトデー配信」なんて名目打って会うことなんてなさそうだなぁ。そもそも私も仕事だけれど。
「普通に仕事だよ」
「ふうん」
「研磨は?ホワイトデー配信とかやるの?」
「なにそれ…」
「世のモテない男性諸君に…とか一言添えてそんな日こそゲームをしようとかやるかと思った」
「やらないよ…クロじゃあるまいし炎上しそうなこと言うわけないじゃん」
「え、黒尾先輩炎上常連?」
いや流石にそれはないだろう。昔から妙に頭のキレる先輩だし。いやでも時々本気で研磨のこと怒らせてる時もあるし…
研磨からの質問も忘れて黒尾先輩の炎上について思考を巡らせていれば「あのさ」といつのまにか身体をこちらに向けた研磨が特徴的な猫目でジィと見つめているのに気がづいた。
「あ、ご、ごめん…何?」
「…予定は、入れないでおいて」
「え?」
「仕事の後、空けておいて」
「?ご飯でも食べに行く?」
「まあ…そんなところ」
「珍しい!研磨が外に出るなんて!」
「引きこもりみたいに言わないでくれる。必要があればおれだって外に出るよ」
「日用品すらネットで頼む人が何言ってるんですか」
くすくす笑えば分が悪そうに眉を顰め「…一応言ったからね」とまたすぐ身体をテレビに向けて着古しくたびれたパーカーをゆらりと揺らした。
「あれ?怒った?」
「怒ってない」
「ごめんってばー」
「怒ってないってば。ていうかそろそろ帰らなくていいの?」
「やばいっ!終電!…泊まっちゃおうかな〜」
「明日出勤早いんじゃない」
「うっ…大人しく帰ります…じゃあえっと次会うのは14日…かな?またね研磨」
「うん」
うん、なんて返事をしつつも既にゲームに意識が向き始めている相変わらずの薄情なゲーマー彼氏に苦笑して、コートを着た後とんとんと肩を叩けばわかっていたかのようにくるりと首を少しだけこちらに向けてくれた。
「ん…」
「…気をつけて帰って」
「送ってく、とか言わないところも好きだよ」
「知ってる」
少しだけ重ねた唇ににこりと笑い、玄関先すら送ってくれない相変わらずな彼氏に特に疑問も思わないまま大きな一軒家を後にした。
「…あれ?そういえば研磨から誘われるって久しぶりだなぁ」
珍しいその日を指折り数えて空を見上げれば、今日はやたらと星が明るく幸せな気持ちで駅までの道をゆっくり歩いた。