お誕生日
冴えない頭で眠い目を擦りながら教室に着くと、私に気付いた黒尾が「おはよ」と手をあげる。長身で人当たりがいい、バレー部の主将。少し前に隣の席になってから好きになるまで、そんなに時間はかからなかった。緩みそうな顔を必死に引き締めて席につくと、黒尾は突然思い出したみたいな声をあげる。「誕生日なんだって?オメデト」
「え!なんで知ってんの!?」
「ほら、これ」
相互にフォローし合っているツイッターの私のアカウントページに、ぷかぷかと浮かぶいくつもの風船。これ見てたまたま気付いてくれたんだ、と黒尾を見上げると、その口角がニヤリと上がる。そんな顔も嫌いじゃないのがこの恋の厄介なところだ。
「プレゼントなあ、用意してたんだけど」
「ホント?うれしい!」
「ただ…忘れちゃったんだよね、家に」
「嘘でしょ!?」
「うそうそ。はいこれ」
なんでそんな適当な嘘つくんだ。差し出された小さな紙袋をそっと開くと、ふわふわのハンカチが入っていた。普段使いしやすくて、でもありがちじゃない。かわいい。何より好きな人からのプレゼントだ。ゴリラ柄だったとしても喜んだけど、こんなに可愛い柄のハンカチなんて、教室中を飛び跳ねて喜びたい気分!
「えっ!すごい!可愛い〜!」
「ふは、喜んでもらえてよかった。この前雑貨屋で見つけて、こういうの好きそうだなーって」
「ヤバい、嬉しい!毎日使うよ!」
「いや洗濯しなさいよ」
呆れ顔の黒尾はそう言ってるけど、帰って急いで洗濯すれば翌朝には乾いてるよね?毎日持ってたら気持ち悪いかな?洗濯してないと思われる?でもこんなに嬉しいプレゼント、使わない日があるなんてもったいないよ、せっかく黒尾が真剣に選んで買ってくれて…あれ、そういえば。
「…このまえ、雑貨屋で…?」
「ン?」
「たまたま…じゃないの?誕生日って知ったの」
「あー……ソウデスネ。ホントは覚えてた」
「マメなんだね、黒尾って」
「誰にでもする訳じゃねえよ」
「……それは…特別って思っていいの…?」
「……今日の放課後ヒマ?」
急に真面目な顔して見つめられて、無意識に視線が泳ぐ。どきどきと高鳴る心臓を見ないふりなんてできなかった。すき。こぼれそうな言葉をぐっと堪えて、震えそうになりながら口を開く。
「えと…その…ヒマだけど…」
「じゃあ放課後。ちゃんと言うから、期待してて」
「え、えっ…?」
ぽふぽふと私の頭を何度か撫でてそっぽを向いた黒尾を呆然と見つめる。ああ、黒尾の耳、真っ赤だ。たぶん、私の顔も。私への1番のプレゼントは、どうやら放課後までおあずけらしい。