七転八起番外編
「みょうじちゃん」「は、はい!」
「これなぁーんだ」
「!そ、……それは!」
にやにやと笑う黒尾先輩のお顔は今日も麗しい。いや、かっこいい?イケメン?エロッ……いや全部です!!全部だし今日もそんな黒尾先輩が頭のてっぺんから足の指の先まで全部大好きです!!!
「……みょうじちゃん?」
「へ?」
「なんで百面相してんの?可愛いけど」
「え!?あ、いや……え、かわっ!?ええ!?」
「はいはい落ち着いてー、どーどー、深呼吸してー」
「はっ!ひ、ひ、ふぅ〜〜」
「いや深呼吸してね?」
「あぁっ!すすすすみません!今日もあまりにも黒尾先輩が格好良すぎて幸せで頭が溶けてました!」
「ぶっ……!くく、……うんうんありがと。でも今はそうじゃねえだろ?」
「そ、そうでした……!黒尾先輩、それ!」
「やっと見てくれた」
ある日の昼休み。「廊下の方から黒尾先輩がやってくる気配がするっ!」なんて急に叫んだ私に孤爪くんは「は?」って相変わらずドライな対応だったけど、そんなことも気にせず思わず教室を飛び出せばほら!丁度前に先輩がいて。いきなり目の前に現れた私に黒尾先輩は一瞬驚いた風だったけど、すぐにいつも通りに戻って私の顔の前に掲げたそれ。
苦笑する黒尾先輩の今日もイケイケな手には、私が持つよりも遥かに小さく見えるパックジュース。食堂近くの自販機で買える紙パックには、黄色いフルーツが描かれていた。
「バナナ!」
「そう。昨日みょうじちゃんが飲みたがってたから。買ってきた」
「うほっ!?え、っえ!先輩がですか!?黒尾先輩が、私のためにわざわざ!?ゆ、ゆゆゆ夢!?ドッキリ!?」
「ぶはっ、なにそれ?夢でもドッキリでもねえから」
「ええええじゃあ何事ですか!今日はパーティーですか!?!あ、結婚パーティー!?結婚しますか!!?結婚してください!!!」
「ぶひゃひゃひゃひゃっ!結婚パーティーでバナナジュースは嫌じゃね?」
「た、確かに……!」
って!結婚パーティー否定しない黒尾先輩優しすぎない!?優しすぎるよ!!きゃぁああああ!ついに!ついに結婚!?みょうじなまえ、結婚します!!!
こんな私をにやにや見守る黒尾先輩もかっこよすぎて無理!ねえほんと無理!!どうしよう、こんなにかっこよくてどうするんですか先輩!?ちょっと世界に自慢していいですか、世界よこれがイケイケでエロエロな私の黒尾先輩です!!えっ、あ、ちょっと待って私の?私のって!わ、わわわ私はなんてことを!!それは烏滸がましすぎるごめんなさいっ!!!
「おーい」
「はっ!!」
「あ、戻ってきた」
「ただいまです!」
「っくく……おかえりみょうじちゃん」
ま、またトリップしてた!!!我に返らせてくれた黒尾先輩は相変わらず楽しそうで、その表情はやっぱり眩しい。部活で会えるだけでも嬉しいのに、こうやって不意打ちで来てくれるのは嬉しいを通り越して、これ以上されたら喜びで溶けてしまうっ!
「そろそろ受け取ってもらえないと俺が恥ずかしいんですけどー?」
「ほ、ほほほんとにいいんですか!?でもどうして?」
「んー?みょうじちゃんの喜ぶ顔が見たくて」
「へっ」
「で、どう?喜んだ?」
「っ、」
喜んだというか、やりすぎというか!黒尾先輩の思わぬ言葉に、私はどんどん赤くなっていく。ドキドキと早くなっていく心臓の音。だって、だってね、わざわざ二年の教室まで来てくれて、ジュースまでくれて、それだけで私今日死ぬんじゃ!?!って思うくらいに幸せなのに、そんなことまで言ってもらえるなんて!
黒尾先輩は私に紙パックを手渡すと、ポンッて私の頭に手を置いてそのままぐしゃぐしゃ髪を乱していく。
「す、すっごく嬉しいです!嬉しくて今日の夜は眠れそうにありませんっ!」
「うん、それはちゃんと寝ようか」
「寝ます!」
「くくっ……いい子」
「ひっ!?い、いい、?!くくく黒尾先輩その顔は反則です!笑わないでっ!」
「相変わらず無茶言うねぇ」
「黒尾先輩の御顔が現在進行形で私の寿命を縮めてます!!」
「……それは大変」
ゲラゲラ笑ってるけどそれは大変、どころじゃないんですよ黒尾先輩!もっと危機感持ってください!でも黒尾先輩に殺されるなら本望……いやぁああでもやっぱり黒尾先輩のお嫁さんになるまでは死ねない!生きるっ!!
あ、先輩に貰ったこのバナナジュースは宝物にしよ!家に帰ったら大事に飾る!そして今日は黒尾先輩にバナナジュースを買ってもらった記念日だっ!生きねば!!
嬉しすぎてふんふんって鼻息を荒くしている私と、ヒィヒィ笑いすぎて苦しそうな黒尾先輩。
そんな黒尾先輩も素敵で今度は黙って見守る私だけど、それが逆にツボに入ってしまったのか相変わらず先輩は笑っている。せ、先輩の目尻に涙……!それはちょっとエロくないですか……!?なんて、危うく私がまたトリップしかけた頃、「はーーー、笑った」って漸く黒尾先輩の笑いが落ち着いた。
うぐっ……!先輩、息、荒い!またそうやって黒尾先輩はすぐに私の心を掻き乱す!だけどそんなこと言ってたらまたキリがないよね!黒尾先輩の貴重なお昼休みも終わっちゃうし!!
「じゃあ俺もそろそろ教室戻るわ。また部活でネ」
「あっ、はい!!ありがとうございます!これ、大切にします!」
「いや今飲んで?てかみょうじちゃん、おめでとう」
「え?」
「じゃあな」
「は、はい!また放課後にっ!」
後ろ手に手を振って去っていく黒尾先輩を見つめ、その背中が見えなくなってからフラフラと教室に戻る。だけど席についた瞬間……なんていうかもう、黒尾先輩の前では必死に抑えていた色んなものが溢れ出して止まらなくなって。
「孤爪くんただいま!」
「……おかえり」
「ねえ聞いて!黒尾先輩にこれ貰っちゃった!昨日飲みたいって言ってたの覚えててくれたんだって、黒尾先輩イケメンすぎないっ!?もう私のキュンキュンゲージがいっぱいどころか振り切ってずっと変なんだけど……はあぁぁさっきのあれもう一回したい!あの幸せカムバック!……はっ!そうだ、黒尾先輩と私結婚することになったの!孤爪くんは勿論親友枠で結婚式に呼ぶから絶対来てね!」
「はぁ?」
その後の私は大興奮で昼休み中話続けるから、最初は黙って聞いてくれていた孤爪くんに最後は怒られちゃったっていうのはまた別の話。あぁ、それと……
「みょうじ!ハッピーバースデー!」
「えええっ!?な、なんですかこれは!?」
「みょうじ先輩、今日お誕生日ですよね!サプライズで俺たち色々用意したんですよー!」
「み、みんな……っ!」
今日の部活は素敵なサプライズが待っているっていうのも……このときの私はまだ知らなかった。
「……クロ、自分が一番におめでとうって言いたかったんでしょ」
「えっ?…………なんで知ってんのお前」
「……あんなことしてたらバレバレだから」