眠れない夜

寝返りを打つ動作に合わせベットの軋む音だけが響き渡る。このふたり用のベッドはひとりで使うには広く、心細い。瞼を閉じ何も映らない真っ暗な世界でまたひとつ寝返りを打った。

眠れない。明日は早起きをしなくてはならないというのに眠れない。ベッドの幅の広さを活用し、ゴロゴロ、ゴロゴロ動く。

すると、遠くでガチャリ、と玄関が開く音が聞こえてきた。帰って来た?もっと遅くなると思っていたのに。寝てないと怒られるだろうか。それとも眠れるまで付き添ってくれるだろうか。掛け布団を頭まで被り近くなる足音に期待を寄せた。
しかし、なかなか目当ての人物はやって来ない。ご飯を食べてる?それともお風呂を先に入った?いつも手を洗って直ぐ、寝室に来ることは知っている。はやく、早く来て欲しいな、と掛け布団から目だけを出す。

そして。今度は寝室の扉が開く音が聞こえた瞬間、瞼を閉じた。入ってきた男は静かにベッドに腰を下ろし、そのせいで重さが乗った部分が沈む。

「起きとんのか」

上体を少し捻りゆっくり額に手を添えられて、肩をビクつかせてしまった。バレた。今ので絶対にバレた。いや、元からバレてたか。

「眠れない」
「……」
「なんとかしてよ、ヒーロー」
「クソな依頼だなァおい」
「明日早いのに眠れない」
「あァ?」

片方の眉を上げ、「ったく」とため息と共に吐き捨て、ベッドに横たわろうとする勝己に慌てて腕を伸ばした。

「だめだめだめ!!お風呂入ってきてからにしてよ!今日シーツ洗って綺麗なんだから」
「ってめぇ…」

押されてもびくともしない鍛えられた胸板に、更に力を込めて押しやり外に追い出そうとする。

「あー…眠れない、全然眠れない」
「……」
「寝たいのにぃ」

まるで眠れないと駄々をこねる子供のように。眠れない、眠れないと言い続ける。あ、もしかしたら眠いと言えば、眠くなるだろうか。半分だけ眠たい頭で訳の分からないことを考える。

「ンで眠れねぇんだ」
「お昼寝したからかなぁ…」
「あ"ぁ!?」

珍しく声を荒げた勝己を見て笑みを溢す。その顔がなんだか面白くて面白くて、楽しくなってしまう。

「面白い、ね」
「……」

ああ、段々眠くなってきた。勝己の顔を見て安心したからだろうか。うとうと瞼が重くなるのを感じ、それに合わせてゴツゴツした硬い掌が私の目を覆う。

「早よ寝ろ」

さっきとは違い小声で優しい声色で放たれた言葉を最後にプツンと眠りについた。