気になる汗
無表情でテレビを観ている彼氏を横目に盗み見る。並んで腰掛けているソファは同棲を始める時に購入したもので、使用して一年が経とうとしていた。
ふと自身の膝に乗せていたその手が気になって遠慮なしに掴み取り、掌を穴が開くくらい凝視する。
「ンだよ」
「んー」
ちょっとね〜と曖昧な返事をしながら、両方の親指の腹を使って勝己の掌をふにふにと押す。人よりも硬いそこをまるで感覚を確かめるように同じ動作を何度も繰り返した。
「この距離で個性見てみたい!」
相手の顔は見ないでまだ掌を触り続けて言うと、不機嫌に「イヤだ」と零される。
「えー、じゃあ…汗だけ見たい。ニトロ」
「……」
「爆破しなくてもちょっと汗だけさ。ね?」
願いを叶えてもらうため、目を見つめお願いするが一瞬だけこちらに視線を寄越し、直ぐ様テレビへと移す勝己に、ダメかぁ〜と力無く吐き捨て肩を下ろす。
「あ」
個性を見たいとは別にただ掌を触るのが気持ちよくて無言で触り続けていたら、ジワリと液…というか汗が少しだけ流れてきた。
「!…これを使って爆破させるんだ」
「顔近づけンな」
凄い、凄い!テンションが上がり色んな角度から眺めると、顔が近いと注意される。危ないと言いたいのだろうか。だけど、間違っても爆破なんてしないでしょう?それを伝えたら「ハッ」と鼻で笑われた。
そして、スンスンと今度は匂いを嗅いでみる。それには本気で嫌だったのか、手を自分の元へ引き戻されるが、つられて私も引き寄せられるように顔を持っていった。
「…おい」
「なんかさ、あまり甘くないよね」
「は?」
「ニトロじゃん?勝己の汗。もっと甘い?匂いするのかと思ったら、そうでもない」
「そりゃ、汗だかんな」
個性の影響で一般的な汗の匂いとはまた違うけど、思ってたのとなんか違う。いつもの勝己の匂いだ。ちょっと匂いが濃いだけでいつもと同じ。
何となく、ほんのちょっとの出来心で流れる汗を舐めてみた。
「うわ、しょっぱ…い?」
「爆破すんぞ、てめェ」
微妙な味に舌を出し眉を顰める私にそう言って睨みきかせ、額をグイッと手で押される。ソファの背に後頭部を軽く打つけ、勝己と同じくらいの凶悪面で睨み返すと「怖かねェわ」とまた鼻で笑われた。