もぎもぎ個性事故

個性事故にあった。クラスメイトの。もぎもぎという個性。もぎもぎ、くっついてしまった相手はまさかの爆豪。どうなってそうなったのか、私も良く覚えてない。気づいたら玉が飛んできた。

「ほんとやめて。玉飛ばさないでよ」
「女子がそんなこと言うんじゃないの」
「瀬呂。あいつは女子じゃねえ」

手の甲同士が繋がれてる隣の人物は凶悪面を晒している、きっとそう。だから、横を向けない。

「怖い怖い!怖い!!これ、取って!!今にも爆破されそうだよ!」

運良く掌がこちらに向いてないだけマシだけれど、オーラが怖い。隣を見れない。それなのに、峰田は髪、というか玉を触りながらドヤ顔で「今朝快便だったからお前らくっついたままだぜ」と言われて腹が立つ。

「ねえ、爆豪もなんか言っ」
「コロス……」
「コロスって!?早くこれ取って!!」
「そんなん言ったって無理だぜ?今日は調子が良い」

見下すように顎を上げ目を細め、反省の色を見せないクラスメイトに睨みかける。けれど、そうしてもどうにもならないから肩を落とし息を吐き、やっと隣に視線を向けた。

「ねえ、ずっと思ってたこと言っていい?」
「あぁ?」
「……トイレ行きたい」
「は」
「ねええええ!トイレ行きたい!!漏れる!!漏れちゃう!!」
「あ゛?ンなの我慢しろ!!行けるわけねぇだろ!」
「だって、今朝快便だったんだよ!!」
「快便なら行かなくていいだろ!」
「私じゃなくて峰田が!!今日絶好調なの!!あと何時間このままなの!?しかも大の方じゃないし!小だし!漏らしていいの!?」

ああ、大声出すだけで漏れそう。そう口に出せば瀬呂と同じようなことを通りかかった常闇に言われながら膀胱を抑えるように前屈みになる。するとまたも峰田が「漏らす?……いい!」と目を見開き親指を立てた。いい訳ねーだろ。クソだろ。こいつ絶対楽しんでやがる。でも今はそれどころじゃない。

「すぐ終わるからついてきてっ!!」

我慢のあまり瞳孔開く勢いでカッと目を見開けば、事の重大さに気付いたのか盛大に舌打ちをしてついて来てくれた。


そして、多目的トイレ。

「ねえ、見ないでね…。見ないでね」
「わーってるわ!!!何度も言うな!」
「聞かないでね。耳塞いで」
「どうやってしろっつーんだよ!無理だろ!!」
「爆豪の辞書に無理なんて言葉はないんじゃないの?」

用を足しながら軽い口調で発したら、ねェわ!!と叫ばれる。

「あ、こっち見ないでね」

と、怒りでこちらを見られそうなのを阻止するため、そう告げれば今度は「見ねェよ」と落ち着いた声色で返される。しつこかったかもしれない。意外と反応の良い爆豪が楽しくてついあんな言い方を毎度してしまうけど、あまりしつこいのは良くないな。これ以上はやめておこう。仮にも好きな人だから。嫌われるのは傷付く。

「……あ。今お尻触った?」
「触ってねェ!!!てめ、舐めてんのか!?つか、チャック開けっ放しにしてんじゃねーよ!!」
「なっ!?そういうこと女の子に言っちゃ駄目なんだよ!」

頑張って片手で色々やっていたが、スカートのチャックが全開だったことに今気付き、必死に締めるも上手くいかず。仕方ないと両手で締めた後、離れ際に微かに手の感触がそこに伝わった気がした。それをきちんと相手に伝えたらいつも通り怒られる。これ以上やめておこう。数秒前に考えたことだけど、やっぱり好きな人は揶揄いたい。くっついた手の甲同士を見つめながらそんなことを思い口元が緩む。

「これじゃあ、手も繋げないね」

ふふっと小さく笑って爆豪の方へ見上げた。急に話が変わったことに面食らったのか、放った言葉に驚いたのかは分からないけれど、珍しく間抜け面を晒す爆豪にまた笑みを溢す。しかし、返ってくるものは辛辣なものだった。

「しょんべんして手洗ってねェ奴と繋げるか」
「今、手洗ってんじゃん!」
「ケッ」

何でこんなことしか言えないんだろう。だからモテないんだとそんなモテない男に惚れてる人間が言ってもなんの説得力もない悪態を心の中で吐き捨てる。でも気分は凄く良い。るんるんだ。今度、峰田にお礼でも言っておこう。楽しかった、と。



翌日。訓練で全員疲れがピークの夜。共有スペースにて、自主練を終え体力が削られているであろう爆豪の元へ行き「トイレ行こ〜」と誘うと無意識に立ち上がり数歩ついてくることに笑ってしまえば、爆破され、今日も好きだなーっと思うのだった。