センバツ後に急にモテだす友達
春の甲子園、と呼ばれる大会に出場してからというもの休み時間に常に教室にいた倉持の姿をあまり見なくなった。
「あれ?倉持は?」
「……呼び出し〜。女子の」
「へー、多いね。最近」
今日もまた。今月入ったばかりでもう二回目。倉持が出て行ったであろう教室の扉に目を向けながらそんなことを考えていれば、質問に答えた御幸は「気になる?」と顔をニヤニヤさせて聞いてきた。
「そんなの気になるに決まってんじゃん」
「マジで?」
「マジだよ!甲子園出たらモテるの!?なんで!?私も女子にキャーキャー言われたい」
「……」
ダンッと音を立てて御幸の机に拳を下ろし、項垂れるように顔を伏せる。返事は返ってこない。その代わり、話題にあげられていた人物が戻ってきた。そして、第一声はこれだ。
「お前ら、その顔やめろ」
どうやら私達の顔が気に入らなかったみたい。きっと二人とも同じ顔をしてるからだと思う。ニヤニヤ、揶揄うように、なんて返事をしたか気になる、そんな表情。
でも、御幸も私も特に聞いたりはしなかった。どうなのよ?とは顔に書いてあっても聞かない。なんとなく倉持の表情で付き合ったのか、そうじゃないのか分かるっていうのもあるけど、以前御幸と一緒になんて返事をした?の質問をした時、申し訳なさそうに濁して教えてくれたことがあった。良い返事が出来なかった倉持は相手のことを思って言いたくなかったのだろう。
今回も気まずそうに自分の席に戻っていく倉持の背中を見つめる。ここ最近呼び出しが多いと感じたけれど、元々倉持のことを好きだった人は何人もいたと思う。御幸とセットで友達があまりいないイメージ、ヤンキー顔で怖がられがちではあるけれど、関わると想像とは全然違う人だってこと、ほとんどの人が気づく。
去年の夏大や数ヶ月前に行われた甲子園等で、倉持の野球をする姿を見てかっこいいって思った人はたくさんいて、更に好きが増した人だってきっといる。本当のことは分からないけど、一人が告ったことにより、焦る人もいるだろうから最近増えてるんじゃないかなって勝手に推測してしまう。
倉持を好きになったり、野球する姿を見て好きが増したり、かっこいいって思ったり、誰かが告白すると焦ったり。なんでそんな推測をしてしまうかというと、私もその子達と同じ感情だから。でも、告白をする勇気はない。きっと振られる。そしたら、今のままの友達という関係は続けられないだろうし、倉持にまた気を遣わせちゃう。
「いいの?お前は」
「うん、いいの」
御幸は私の気持ちに気づいてる。いいんだ。このままで。高校卒業までの時間、好きでいさせてくれれば。
倉持の呼び出しも増えたと思ったけど、御幸は更に凄かった。他校の友人から連絡先を聞きたいとお願いされた女子が来ることも。みんな、モテていいな。そんなことを考えていたら、私もその流れに乗ってしまった。
そして、今は人気のない校舎の裏にいる。告白をしてくれたけど良い返事は出来なかった。ああ、これ。結構、苦しいな。自分が片想いしてたら余計に。
そう思いながら下を俯き歩き出す。このまま教室に帰る気分にもなれず、自販機で飲み物を買おうとそこへ向かおうとした時。
「あれ、倉持?どうしたの」
告白を受けた少し離れたところに倉持が立っていた。今の聞かれてないよね?聞かれてたところでだけど。質問に答えるわけもなく無言でこちらを見つめその場に立ち尽くす姿に不思議がる。数秒開けて「いや…、」と歯切れの悪い返事をされて、なんだ?と訝しげに眉を顰めてしまえば視線を逸らされ背をこちらに向けられる。
「……言いたくなかったらいいんだけどよ」
「うん」
「今の、どうなったんだよ」
どうなった?何が。ていうか、めっちゃ声小さくない?ボソボソ話すし。おい野球部、どうした?それより今のってなんだ、今の……。
「ああ、返事?」
「……」
「えっと…。断った、けど?」
そう告げたけど返事は返ってこない。ただ鍛えられた足の横にある握られた拳にギュッと力が入ったのが見えた。聞いてたんだ、と言いながら近寄り、あと少しで顔が覗きこめる距離まで達しそうになった時、倉持がこちらを振り返ったため歩みを止めた。
どこかいつもと違う顔付きで、違う雰囲気を纏い、真剣な眼差しで私を見てくる。普段、お互いふざけてばかりだから。こんな雰囲気になったことなんて一度もなかったから。つい視線を逸らしたくなった。なのに、動けず固まったまま、目を離すことが出来なかったのは今から倉持が放つ言葉に少し期待してしまったのかもしれない。
ゆっくり動き出した口元にゴクリと喉を鳴らした。
「夏休み明け、告るから」
「……え?」
「っだから、それまで……」
そこまで言って口を噤む。下唇を噛んで、バツが悪そうに視線を彷徨わせ、次の言葉を繋ごうとはしなかった。私も何も言えない。動揺してるし、驚きで頭が真っ白になっていたから。お互い何も話さなければ、沈黙が流れる。それを破ったのは、一歩前に出たことにより鳴った向こうの小さな足音。
「それまで、みょうじが良かったら、待っててほしい」
また真剣な眼差しを向けてくる。こんなの告白してるようなもんじゃんか。してるようなもの…っていうか、これは告白なのだろう。でも、こんな告白の仕方があるだろうか。告白の予約をされたみたいだ。どうせなら、今ここで告げてくれたらいいのに、なんて心中で悪態を吐くけれど、待っててほしい理由は大体予想がつく。
「うん、待ってる」
それに、「待つ」以外の返事は私にはない。嬉しくて目元を緩めて言ってしまえば、倉持は目を微かに大きくさせ驚き私と同じような顔をした。