なんでも気づいてくれる

倉持くんは気づいてくれる。

例えば、高いところにあるものが取れなかったり、届かなかったりしたら取ってくれるし、重いものを持っていたら変わってくれる。両手が塞がってドアが開けれなかったら何も言わずに開けてくれるし、ペットボトルのキャップが固く苦戦してる時は「開けるか?」って声を掛けてくれる。失礼だけれど、ヤンキーみたいな見た目には反して誰にでも出来そうな、でも出来ないようなことを息をするようにしてくれる。

でもそれは私にだけではない。同じことを違う女子、普通に困っている男子にだってしてくれる。だから、自分が特別だなんて思ってはいけない。いけないのに、好きになってしまった。野球に夢中な彼はきっと恋愛なんてしている暇はないだろう。野球にしか興味がない御幸くんには劣るかもしれないけど、倉持くんもなかなかの野球一筋なイメージがある。最後の夏が迫ってる今。恋愛なんてしている暇はなさそうだし、仮に想いを伝えたとして迷惑をかけてしまうかもしれない。彼はとても優しいから振る時はきっと相手に申し訳なく感じるだろう。気づかないうちに少しずつ自身の心が傷つくかもしれない。

これ以上好きになってしまわないように。何度もそう願ってるのに、彼は気づいてくれるんだ。

「体調わりぃの?」

今日は朝からダルかった。季節の変わり目だし、花粉症だしで頭がぼーっとしているだけだと思ったけど、授業が進むにつれて体調は悪化していった。机に顎を乗せて無心になっていたところに彼は声をかけてくれた。

「大丈夫…………じゃないかも、しれない…?」

心配させたくなくて「大丈夫」と伝えようとしたけれど、ここで体調が悪いことを言えば優しい彼はどうしてくれるんだろう、保健室に付き添ってくれるだろうか、と倉持くんの優しさに甘え卑怯な手を使ってしまった。でも、やっぱり大事な体に風邪を移してはいけないと我に返りマスクの上に両手を被せ自ら席を立ち、離れようとしたら「何で疑問形なんだよ」なんて怖い顔で言って「ほら、行くぞ」と前を歩き出したから思わず声を上げた。

「ど、どこに?」
「保健室」
「自分で行けるから大丈夫だよ?それに次の授業始まっちゃうし」

風邪か花粉か分からない喉の痛みを耐え、発した言葉は少しだけ掠れている。既に教室の扉付近に辿り着いている倉持くんは数拍置いて口を開いた。

「……俺、保健委員だから」

普段とは想像もつかない程、言い訳をするようにボソッと吐き捨てては、いいから病人は大人しくベッドで寝てろ!と続ける倉持くんに首を傾げる。何で、保健委員なんてそんなすぐバレる嘘をついたのだろうか。今期、倉持くんは委員会に入っていなかったでしょう?でもこれも彼の優しさなんだと思えばすんなり受け入れられる。

数歩前を歩いた彼の背中を見つめながらゆっくり足を動かす。保健室まで永遠に辿り着きたくないな。この背中をずっと眺めていたい。これ以上好きになりたくないのに、彼が優しくしてくれるから、気づいてくれるから。今日も好きの気持ちが積み重なってしまう。何度、気持ちを飲み込んでも、これじゃあ好きが重なりすぎて溢れるかもしれない。そう思った時には既に遅かった。

「倉持くんって優しいよね」

誰にでも優しいところ。凄く素敵だと思う。と繋げる私に倉持くんは振り返る。まずい、と一瞬焦ったけれど、これは告白に入らない、ギリギリセーフだと自分を落ち着かせる。俯き、目だけを上に向けて彼を見たら数回瞬きをして少しだけ驚いた顔をしていた。そして、直ぐ。倉持くんは口を開いた。

「優しくしようとしてんのはみょうじだけだよ」

隙あらば色々狙ってんの、こっちは。と言っていつも離れたところからよく聞こえるヒャハッという独特の笑い声はどこか照れているように感じた。全く、意味が、分からない。

「え、え……?」
「いーから、病人は余計なことに頭使ってねーで早く休め!」

ガラッと思い切り保健室の扉を開けて、凶悪面をして親指の平を上に向け中を指す。体調が悪いせいか、さっきの意味が全然理解出来なくて倉持くんに問おうとするも「先生。こいつ熱あると思うんで頼みます」と遮られる。ぐるぐる思考を巡らせながら室内に入って行く途中。彼の横を通る途中、頭をぐしゃりと撫でられた。

「!?」

振り向いた時には音を立てて扉を締められる。心臓が有り得ない程、早く動き音を鳴らすそこに手を当てながら息を吐く。

「どういう意味……?」

勘違いしそうで怖い。なんでも気づいてくれる彼は私の気持ちに気づいてくれるだろうか。