三度のお菓子より気になります
小学六年生の時、周りでカップルが誕生し始めた。
大人からしてみれば、小学生が付き合ってなにをするんだと鼻で笑う話だろう。けれど、当時の私達はそれはもう彼氏彼女がいる事実が周りより何倍も大人に見え、羨ましかった。付き合う、ということに憧れた。
私もその一人だった。数組のカップルが誕生した頃。まるでアパレルショップでもう一点購入すると30%引きというアナウンスに釣られ、あったら便利くらいの感覚で手に取る商品と似た感覚で彼氏になってくれる男子を探すというなんとも身勝手な考えをしていた。
そんな最低最悪の女に目を付けられてしまったのは、当時私が好きだった孤爪研磨くん。あったら便利、という感覚では決してないけれど、付き合うなら孤爪研磨くんが良かった。何故彼なのか。理由はとてもシンプルで、小学六年生の時に好きだったのが孤爪研磨くんだったから。幼い頃なんて好きな人はコロコロ変わる。そうでない子ももちろんいるけれど、私の周りにいる多くがクラス替えごとに好きな人も変わっていた。
「好きな子何人いるのー?」「三人!」なんて男子の会話を聞いた事もある。紙にランキングを書いている人だっていた。誰が好きか、なんて話はみんな大好きで、私も当然大好物。
クラスが変わるごとに好きな人も変わるという点で、私は当てはまるようで少しだけ当てはまらなかった。小学二年生の時、孤爪研磨くんと初めて同じクラスになった。秋頃に彼が好きな人になり、三年に上がってクラスが別れてからも気持ちは変わらなかったが、もう一学年上にいくと新たに好きな人ができた。関わることがほとんどない五年生では、視界に入れば気になるけど新しくできた同じクラスの好きな人の方がドキドキした。この時、宿泊学習というイベントがあったのだから仕方がない。
そして、六年生になり、その好きな人とはクラスが離れ、孤爪研磨くんと同じクラスになった。そしたらまた孤爪研磨くんのことが好きになった。しかも一瞬で。初めて自分の感情が恐ろしいと感じた瞬間だ。それからは、好きだった人を見ても話しても、何も感じなく、また自分が恐ろしいと思った。これが二度目である。
自分が恐ろしいと思うと共にあることに気付いた。
一度違う人を好きになり、その人に夢中だったけれど、それでも孤爪研磨くんを目にしたら彼のことが気になった。
孤爪研磨くんをまた好きになった瞬間、好きだった人を目にしても恐ろしい程気にならなくなった。
私は、孤爪研磨くんのことが本当に好きなんだということを実感した。
だから、付き合うなら孤爪研磨くんがいい。
私の彼氏は孤爪研磨くんがいい。
「ねえねえ、孤爪」
机の下でゲーム機を器用に操作する孤爪の名前を呼べば、数秒経った後、顔を上げてくれた。こちらを見上げる猫目が「なに?」と言っている。
「好きだから付き合って!」
立ったまま、バンっと音を立てて机に手をつく。音に驚いたのか、私の発言に驚いたのか分からないが、ビクッと肩を跳ね上げた彼は目を大きく開ける。
多分振られるだろうな。でも、そうなっても良かった。まだ好きの感情はそれくらいだったから。無理なら無理でいい。他を探そう、他の人を好きになろう、程度の気持ちだった。なのに、大きく見開かれた猫目をいつもの大きさに戻した孤爪は一度も視線を逸らすことなく、こちらを真っ直ぐ見つめたまま曇りのない声色で返事をした。
「いいよ」
え?いいの?間の抜けな声で聞き返す。すると、今度は目を伏せながら小さくふっと笑った。
「うん」
そう相槌を打つように返事をした孤爪研磨くんは、何事もなかったかのように止めていたゲームを再開した。
私達は、六年生の春に付き合い出した。