独身貴族

21歳で付き合い、24歳で結婚。26〜27歳で出産。その2年後にまた出産。子供は4人。
これが私の人生設計だった。

「私はこのまま独身かもしれない…」


黒尾なまえ、27歳。黒尾鉄朗の姉である。

そして、現在。幼なじみの孤爪研磨の一軒家で缶ビール片手に項垂れている。


「無理。もう、好きな人すらできる気がしない。私の人生設計ではさ、もう双子を産んでる設定なんだよ。この歳で彼氏いないなんてやばくない?!」
「今回の人は、イケそうだったんじゃないの?」
「うん。でも何回会っても何とも思えなくてさ、それが向こうにも伝わってたみたくて、これ以上会っても意味ないって言われた」
「ふーん」
「え、ちょ。研磨サン?なにそのしたり顔。お姉さん悲しんでるの!希望がなくなっていってるの!」


何もしてないわけではない。出会いを求め、色々行動はしているが、ここ数年付き合いたいと思える人がいない。もうこの歳で、ときめき!ドキドキ!っていうのは無しってか!?


こうやって何かある度、研磨の家に来てやけ酒をする。いや、なくても来るか。今回のような話をするとこの幼なじみは楽しそうに、にやりと笑うのだ。人の不幸をなんだと思ってる。


というか、これがいけないのか?幼なじみとはいえ、自分より2つ年下の、弟より下の子に話を聞いてもらうのが…。でも、相談できる友達がみんな結婚とか、出産、育児とかで忙しそうだから気が引ける。それに、昔から聞き上手なんだよな、この子。さらっと言いたくないことでも言っちゃうんだよ。



「あ。そういえばさ、研磨は彼女いないの?いつも私の話ばっかりじゃん?」


研磨も今年で25歳。そういう話を聞いたことがない。もしいたら、幼なじみでも彼女からしたら家に来られるのは迷惑なのでは?と考えた。


「いないよ。それより、できない理由はなまえの理想が高いのが問題なんじゃない」
「え。そ、そんなことないよ」
「言ってみて」
「えー。身長は180以上。年収は私以上。年上で頼り甲斐がある。キリッとした顔つきで、ハーフ!」
「………」

言い切ったとドヤ顔で研磨を見れば、無理でしょ現実見れば、とでも言いたげな顔をされた。


「だから言いたくなかったの!今はそんなこと思ってないよ」
「じゃあ、俺でいいじゃん」
「は?」
「え。聞こえなかったの」
「違う。聞こえてて聞き返しました」

いやいやいや。この子、今なんと?

……。

ああ。もしかしてこれは、研磨なりの励まし。

「ありがとう、研磨」
「それはオッケーてこと?じゃ、今日からよろしくね、なまえ」
「ん?え、本気?」
「うん」

うんってなに!?可愛く言ってるけども!!
これは揶揄っている??でも、目は本気だ。これは幼なじみだからわかる。

「待って待って!!私の理想聞きました?!研磨、年収しかハマってないじゃん!」
「いいじゃん一個あるんだから。それに、今はそんなこと思ってないんでしょ?」
「ついでにこのおもちゃも買って欲しいみたいに言う」
「例え方、クロと同じ」

ため息を吐き、流石姉弟と笑いながら言う。


「そんな言ってないで!!研磨は幼なじみだし、それに私なんかじゃなくてちゃんとした子と付き合いなさい!」
「なまえはちゃんとしてる。幼なじみは付き合っちゃダメなの?」
「…う」

そう言って上目遣いでこっちを見る。昔からこれに弱いと知っててやってやがる。

「そういうところ!研磨は弟にしか見えないからダメなの」
「じゃあ、男って思わせればいいんだ」
「は?な!?」

私の手から缶ビールを取り、その手に合わせ指を絡ませる。所謂、恋人繋ぎみたいな。指の動かし方がなんか色っぽくて、咄嗟に離そうとするが強く握りしめられ離せない。

あれ…?やばい。

これはやばいと手が離れないまま立ち上がろうとしたら、押し倒された。繋いでない方の研磨の腕が頭の上についていて、覆い被されている状態。

「あのぉ…研磨、クン?」
「………」

じーっと猫目に見つめられて、早くなる心臓の音を誤魔化すように叫んだ。

「わ、私はね、ハーフがいいの!!ほらっ!モデルのさ、あのリエーフみたいな!!」
「は?」

あ。まずい。研磨の眉間にシワが寄った。お、怒ってらっしゃる。

「リエーフは馬鹿だし、落ち着いてないし、俺より年下だし、年収だって俺の方がある。キリッとしてないし、頼り甲斐もないよ。馬鹿だから」

馬鹿って2回言った…。てかさっきまで、馬鹿だけど素直でいい奴とか言ってたよね。馬鹿なところも少し褒めてたよね…。

「……リエーフがいいの…」
「い、いやぁ…あの取り敢えず、どい「でも良かった」…え?」
「反応見ると、脈はあるみたいだし」


「直ぐに俺のことしか考えられなくさせる」

その目はクリアできないゲームに向けているような、それでいて愉しそうに、私の手のひらにキスをした。



手のひらにキス: 懇願(自分の女性になって欲しいと心から願う)