体幹トレーニング2

今日こそは絶対に見返してやるっ!!

そう意気込んで朝の7時。リハビリに行く前、ヨガマットの上で体幹トレーニングを始めた。最後の追い上げ。これで毎回「体幹よわよわ」と言う先生を見返してやるんだと気合を入れた。
倫太郎に教わったプランクの姿勢を取りタイマーを30秒にセットする。初めてやった時より体を支えている腕がプルプル震えないことに自分の成長を感じた。

よしっ!このまま、残り15秒。半分だ。この時点で今までより辛くないから最後まで余裕で終わらせることが出来るかもしれない。


「おはよ」

これならいけるっ!と喜びから顔が緩んだ時、上から降ってきたのは寝起きの倫太郎の声。踏ん張りながら返した挨拶に「今からリハビリじゃないの?」と腰を下ろし、顔を覗き込んでくる相手に軽く視線を向けた。

「最後の、追い上げ!…だ、からっ」
「…は?追い上げ?それ、行く前にやったら疲れて本番何も出来ないやつじゃん」
「!!」

た、確かに…。今やってしまったらリハビリ中、力がなくなって何も出来なくなる。言われるまでそんなことにも気づかなかった自分に絶望していると、横から「え、マジ?」と若干引き気味な声色を出される。そんな言い方しなくてもよくない?なんて体幹の疲れからか、眉間に眉を寄せてしまった。

だけど、声には出さない。何故なら必死だから。あと残り7秒をしっかりやる。6、5…とカウントし始めた瞬間、横腹にツンと何かが当たった。当たったんじゃなく、触られた。というか、突かれた。倫太郎の人差し指に。

しかし、これにも反応はしない。何故なら必死だから。いつもなら何か反応を見せる私が動じないことに気分を損ねたのか横からまた腕が伸びてきた。何をされても今の私は動じないよ。あと残り3、2、い…

「っ!?」

1を数えようとした時、プランクの姿勢によりお腹とTシャツの裾との間が生まれた空間に手を滑らせ、直で私のぷよぷよのお腹を触ってきた。それには反応をしない方が難しいことで、体をビクつかせて横に倒れる。そして、倒れた後にピピピッと終了のアラームが鳴った。

「っなに、すんの!?……ってなにその顔!!」

倒れて直ぐ上体を起こして倫太郎の顔を確認すると、いつもの揶揄うような笑みでも馬鹿にした表情でもなく、ただ、無。無表情の倫太郎がそこにいて。それが余計に私を腹立たせ、なに考えてんの本当に!と心の中だけで叫んだ。

「あーあ、終わっちゃったね」
「誰のせいだと…!」
「最後の追い込み出来なかったから今日は一日家にいよ」
「い、な、い!行くのっ!今から!」

俺、今日一日家いる。と言って、座っている自分の足の間に私の体を挟み、そのまま動けないように腕でも封じ込める。額が肩に乗っているから、首元に倫太郎の髪が掠って擽ったい。寝起きだからか。たまに見せる甘えたの倫太郎だ。そのせいでチョロい私はこのまま家にいてもいいかもなんて思ってしまう。だけど、その考えは次の一言で消え去る。

「この間、爆食いしたツケがきてるね」
「は!?」

珍しく甘えてくるのが可愛くて、私も同じく倫太郎の肩に額を乗せると今度は服の上からお腹を触られ…というか軽く摘まれ、嫌味を言われた。

「もう知らない」
「うわっ」

挟まれた足と腕から力尽くで乱暴に抜け出すと向こうはバランスを崩す。油断したな、余裕ぶっているからだと鞄を手に取り、「朝ごはんはそこにあるからっ」とだけ言ってリビングを出た。扉を閉まる前、微かに聞こえた笑い声にムッとしてしまう。朝ごはんがあるって言っただけなのに何故、笑う…?


「…なまえ」

玄関についてから少し離れたところで名前を呼ばれ、靴を履きながら振り向いた先には、右手でリビングの扉の上枠を掴んで少しだけ体を前のめりにさせた倫太郎がいて。首を傾げながら、行ってきますを言う。

「ねぇ」

すると今度はさっきよりも近くで声が届き、なんだろう?と疑問に思いながら振り向くと、唇に温かいものが当たった。

「っ、」

時間も押しているから勢い良く首を後ろに捻り、そして視界いっぱいに映るのは倫太郎の顔。口に軽く当たるのは大好きな人の唇。

「いってらっしゃい」

優しく目元を細めた後、「頑張って」と軽く頭を撫でられ、背中を押された。


ああ、今の私は誰にだって勝てる気がする。絶対、リハビリの先生にだって褒めてもらうんだからっ。


無敵のなまえ!行ってきますっ!!


「無敵って…」クツクツ喉を鳴らして笑っている、まだパジャマ姿の男の発言は無視だ。無意識で口から出ていたことに顔を赤らめながら、無敵だもんね!と声を大にして叫んだ。