トリックオアートリート!

「トリックオアトリートーーー!!」

玄関がガチャリと開いた音がして、すぐさま駆け寄りながら叫ぶ。

「ただい……なに、それ」
「お菓子くれないとイタズラしちゃうよ!」

両手をクロスさせ、イタズラをするべく戦う姿勢を整えるため腰を低くすると、目の前にいるスーツ姿の鉄郎は「ブフォッ」と大きな声で吹き出した。

「ぶひゃひゃひゃひゃっ」
「お菓子ないの!?イタズラしていいの!?」
「ま、待って…、ちょっと待って…。なまえ、何でそんな格好…なのっ」

腹を抱え、耐えられないと膝を床につき崩れ落ちる彼氏にムッと頬が膨らむ。

「だってこれお化けみたいじゃん。鉄朗、いつも私がパックしてると驚くじゃんか!」
「…お、驚くけど、お前……それ、ぶはっ」
「それで、お菓子あるの?ないの?」
「ちょ、それで…来んな、よ」

お化けのように大きめの白いタオルケット被り、その色に合わせて5分程度つけるパックを顔に貼っている。帰ってきたと分かった瞬間、部屋を暗くしてライトを顔に当て、急いでパックをつけて駆けてきたのに驚く様子がないことに拍子抜けしてしまう。いつもは驚くのに。

「…はぁ〜笑った。…はい、これ」
「!お菓子だ〜。くれるの?」
「うん、どうぞ」
「やったー!今日はお菓子パーティーだよ!鉄朗!!」

貰ったものを掲げ、嬉しさから満面の笑みでお礼を言うと、同じく微笑みを返してくれた。

「その前にご飯だよね!それとも「トリックオアトリート」…え?」

それともお風呂を先に入る?の言葉は鉄朗によって遮られる。トリックオアトリート。珍しい。毎年、言わないのに。しかも何気に発音が良いことにちょっとだけイラついてしまった。
お互いその言葉を言って、言われ、お菓子を交換する。本気でやっていない分、何のオチもないやりとりだけど、自分達が楽しいからそれで良いだろう。

「お菓子はたくさんあるよー!」

ハロウィンという理由をつけてお菓子パーティーをすることが私の本来の目的。前もって準備していたお菓子を手に取るためリビングへ行き、テーブルにあるそれに腕を伸ばす。しかし、その伸ばした腕は鉄朗によって掴まれてしまい、目的のものを手にすることは出来なかった。

「お菓子はいらないからイタズラさせて」

その言葉と同時にネクタイを緩ませる仕草に胸がドキリと鳴る。そして、つけていたパックから液がぽたっと垂れた気がした。
何かが始まる空気が流れる中、こちらを見てもう一度吹き出した鉄朗は「風呂入ってくんな」と私の頭に手を乗せた。