お菓子はあげない

「研磨ー」
「……」
「けーんま」
「…なに」
「トリックオアトリート〜」

寒くなってきたこの季節。こたつを出したのは最近のこと。この魔の暖かさから抜け出せず、今日も二人で一日中だらだらと過ごしていた。
しかし、世間はハロウィン。私達が学生の頃はクリスマスのようにあまり騒がれていなかった行事だが、今では毎年大きなイベントとして仮装をし、楽しんでいる者がたくさんいる。

「お菓子、ちょうだーい」

こたつは人のやる気を吸っていくものだ。間延びした言い方に研磨は何も発さず、重い腰をのそりと上げた。

「はい」

台所から何かを漁る音が聞こえ、数秒後コンビニの袋を片手に戻ってくる。はい、の声に置かれたのはプリン。

「これ新発売のやつ!私食べたかったの!ありがとう」
「うん」

ゆっくりこたつに入り直す研磨は寒そうに背を丸め両手を中に入れる。味わいつつ食べ終えると、次にまた「はい」と言って、スイートポテトをくれた。

「これは!?期間限定の…!食べたかったやつだよ!」
「…良かったじゃん」
「うん!」

寒さなど忘れてずっと気になっていたスイーツ達にテンションが上がる。それも食べると次にケーキ、シュークリーム、ゼリーなど、どんどん袋の中から出され、私の胃は限界を迎えようとしていた。

「……こんなに食べれない。でも、ありがとう。美味しかったぁ」

また明日頂くね。まだまだ袋の中に入っているスイーツ達に目を向け、そう言うと同時にこんな量を買う程イタズラをされたくなかったのか、としみじみ思う。しかし、その考えが間違っていたことに数秒沈黙が流れた後の研磨の口から出た言葉に気付かされた。

「…俺、お菓子あげてないけど」
「あ、確かに。スイーツばっかりだったね!」

でも、全部好きなものだから嬉しかった。好きじゃなくても、研磨から貰えるものだったら何でも嬉しい。そう思ったのに私の反応に納得いかないのか、テーブルに顎を乗せてこちらを上目遣いで見てくる。そして、また私達の間には無言の空間が流れ、暫くしてテーブルから顎を離した研磨は今度片方の頬をそこにつけてこちらに視線を送った。

「…俺、スイーツしかあげてないけど、いいの?」
「…え?」
「……お菓子あげてない」
「……」

研磨の発言にまた部屋全体が静寂に包まれる。今日は静かになることが多いな、なんて考えるけれど今はそれどころじゃない。これは、もしかして…。言葉の意味を理解した瞬間、胸の奥がぎゅーっと締め付けられた。

愛おしい、その感情のままテーブルに乗せてある頭を上から包み込むため覆い被さろうとするが、避けられてしまう。しかし、今の私はそんなことで諦めたりはしない。顔を上げ上体を後ろに持っていく研磨を斜め方向から抱きつきにいった。全体重をかければ、耐えきれず畳に倒れる恋人は眉間に眉を寄せて、不機嫌そうに「…痛い」と溢す。こういう時の表情は豊かなところも大好きだ。


相手の顔の横に手をついて、下にいる訝しげになる彼氏に満面の笑みを溢し大声で放った。

「イタズラしていいの!?」

うるさ…。そう小さく零した後、歪んでいた顔がみるみる元に戻り、今度は機嫌が良くなったのか少しだけ口角を上げ私の左頬に手を添えてから、ふっと声に出して笑った。

それは、愉しそうに、まるで新しいゲームを挑む時と同じ表情へと変わり、頬にある手が微かに動き親指が口の端に触れた。

「どんなことしてくれるの?」