花より団子してたら黒猫釣れた
屋台が並ぶ通り。お目当てのものを手に入れながら抜けた先。人が疎らで、けれど祭りを楽しむ人達の賑わいの音は程よく聞こえ、心地よい静かさを纏ったこの場所で一人、焼きそばを頬張っていた。
「ねえねえ!あの二人、付き合った!今!!」
「うそうそ!?まじ!?」
「ちょっと様子見てこよーぜ」
男女数人のグループで祭りに来た。音駒の近くで行われているため何人ものクラスメイトと出くわし、その内の二人が付き合ったらしい。近くにいた友達に、行く?と聞かれたが、私は今食べるので精一杯。冷やかすことも、お祝いしに行くのも難しかった。
「私はちょっと気になる彼にアタックしてくるね!」
「うん、いってらっしゃい」
冷やかしに言った中に友達の好きな人がいる。応援してる、と声をかけてさっき買っておいたたこ焼きの箱を開けた。
縁石に腰を下ろし、中途半端の焼きそばを食べ、合間にたこ焼きを食べる。祭りのご飯は何でこんなに美味しいんだろう。私の好み。楽しそうな友人達を眺め、もぐもぐ口を動かし焼きそばを食べ終えた時、ふいに頭上から声が降ってきた。
「花より団子、ですか」
隣、いい?と両手にビニール袋を持ったクラスメイト、黒尾鉄朗が立っていた。部活終わりなのだろう。ジャージにスポーツバッグを肩にぶら下げている。
「そうね、今日の私は花より団子です」
黒尾が座るスペースを開けるため左に少し避ければ、大きな体がそこに降りてきた。花より団子って、今の私には花が屋台の食べ物だ。でも、黒尾が言ったのはそういう意味ではないだろうから素直に肯定した。
「いっぱいあるね」
「なに、どれか食いてぇの?」
「んー…その焼きそば」
「みょうじ、さっき食ってなかった?」
「焼きそばなんていくらでも食べれる」
「ソーデスカ」
いい音を立てて割り箸を半分にし、口に入れていた中途半端の焼きそばを食べたいと言えば、容器ごと渡される。
「え、一口でいいよ」
「?」
「??一口でいいから、ついでに食べさせて?」
「……お前さぁ」
「だめ?ほら、私両手に花だからさ」
そう言って、両手に持っている唐揚げとケバブを見せると、深く長いため息を吐かれた後「はいはい、わかりました。食わせればいいんだろ、食わせれば」と体を横に捻り、私の口へ大量の焼きそばを運んでくれた。
「けりょおいっぱいこれたね」
「食べながら話さない」
「……いでっ」
全然痛くないチョップを頭に下される。反射で、痛いと言ってしまった私を横目に可笑しそうに黒尾は笑った。さっきと同様、口を大きく動かし焼きそばを味わいながら、祭りを楽しむクラスメイト達を傍観する。それは隣にいる黒尾も同じみたいで。大きな口で大量の麺を豪快に頬張り子供みたいな顔をして、もぐもぐしている。一瞬だけ黒尾の方へ視線を動かしてから、また前を向いた。
この祭り特有の匂い、音、空気。全てが好き。この空間で屋台の食べ物を頬張るのが何よりも好き。まるで、山頂から見下ろす景色を眺めるみたいに目の前の光景を目に映していると、黒尾のいつもと違う掠れ声が鼓膜を揺らした。
「なあ」
「んー?」
黒尾は焼きそばを。私はケバブを味わいながらお互い前を向き会話をする。普段通りまたくだらないやりとりをするのだろうと半分だけ耳を傾けた。
「ほんとに、花、いらねぇの?」
「うーん、どうだろう?」
「……」
「今の私は、これが花…?」
「ふーん」
食べ物を相手の顔を向けて、花と言えば意味深に頷かれる。一体なんなんだ、と首を傾げるも私は花に夢中。黒尾にとっても、食べ物が花ではないのか。
「そういう黒尾も花はこれ派でしょ」
「俺は違います〜」
「あ、バレーか。花。……ん?そもそも団子ってなに?」
色々考えてたら分からなくなってきた。まあ、いいか。私は祭りの屋台が好き。食べ物が好き。それでいい。花も団子もどっちでもいい。最終的に、今年も最高の祭りだ〜なんて考えに至り自己解決した。
「俺は団子より花ですケド」
「ほぇ〜」
「……」
「好きな人いるの?だれだれ」
「みょうじ」
「ふぉ〜…………え?」
黒尾の恋バナをつまみに食べる屋台メシは美味しいぞ!ってるんるんと気分が上がっていたが、それは一瞬にして下がる。
「なんて?」
瞬きすら忘れて隣を見る。黒尾は前を向いたまま。横から見る顔は何を考えてるか分からないけど、寝癖のせいでよく見える耳は微かに赤かった。わかりやすい。まじか、そうなのか。
「付き合いたい、んですけど」
割り箸を持ってる方の手を頬杖をつくように顎に添え、照れを含んだ瞳だけをこちらに向けて放ったクラスメイトに不覚にも息が止まった。だから、考えるより先に声に出してしまったのかもしれない。
「いい、けど」
「え、まじ」
「うん…?」
「……お嬢さん、それノリ的なあれで言ってない?いいの?」
「告ってきたのそっちじゃん」
「ソウデスケドモ」
「……」
「……まじ?」
「うん。……まあ、合わなかったら友達に戻ればいいし」
少しだけ恥ずかしくて嫌味を言ってしまった。いや、だって、動揺してるし。まあ、本心だけどさ。あれ?やばいもしかして黒尾のこと傷つけた?って不安になり一度逸らした視線を戻せば、そんなのお構い無しに向こうは「悪いけど、俺そうさせるつもりねぇから」なんて言って意地悪く笑った。
それにまたも心臓が一瞬だけ止まり、うわ〜っと顔を顰めるが、それも向こうは気付いてなくて「まじで、嬉しい」って緩む口元を手で隠すその姿に思わずキュンとした。だから、ムカついて黒尾の背中を思いきり叩いた。痛てぇッて声を上げるけど、そんなの知らない。全部、黒尾が悪いんだから。