ゆび

「うわ、突き指したわ」
「ダサ」
「あ?」

練習中。双子のそんなやりとりが聞こえた。突き指したのは治くんの方。ダサいと通りすがりに言ったのは侑くんだ。

体育館を半分に区切っている多くめのネットを境に治くんの様子を盗み見れば、一人救急バッグの方へ向かい、自分でテーピングを巻いていた。男バレ、マネいないもんなぁ。


その出来事があったのが昨日の放課後練習。次の日の朝にはすっかり忘れていたが、登校してきた治くんの他の指より太くなった小指を見て思い出した。前の席に下りた大きな背中。数秒後、質問を投げかけた。

「指、大丈夫?」
「?」
「小指」
「あ、ああ。忘れてたわ。忘れるくらい大丈夫や。ありがとうな」
「そっか」

ゆっくりと振り返った治くんの頬は膨れてて。もぐもぐ口を動かす彼の手にはおにぎりが握られていた。突き指くらいで心配する程でもないだろうか。でも、話すきっかけが欲しかったし。これで会話が終了しても、一言話せただけで万々歳。って思ったけれど、意外にも治くんが会話を繋げてくれた。

「そない目立つ?これ」
「言われないと気づかないと思う…?私はたまたま治くんが突き指したところを見ちゃっただけで」
「ほぉん。ほな、恥ずかしいとこ見られてもうたな」

後ろを振り向きながら、もぐもぐと。恥ずかしいとこ見られた、という彼の表情はふんわり柔らかいもので。その顔に胸が高鳴る。この高鳴りをバレないようにしなきゃ、絶対に。と考える私を他所に治くんはおにぎりを待っていない突き指した方の手を自身の目の前に待ってきた。おにぎりを持っていない方と言ったけれど、既に治くんの手にはおにぎりはない。相変わらず、食べるの早いなぁ。

「結構腫れてるね」
「……」

無意識にちょんっとそこに触れた。腫れた指を形取るようになぞってみると、指の先に治くんの顔があるのに気付いた。何を考えているか読み取れない整った顔がそこにある。

「!?ごめん!いきなり触ってびっくりしたよね!?嫌だったよね!?ごめん!」
「嫌、やないけど。びっくりした。あと、なんや……擽ったかったな」
「そ、そうだよね!急に失礼しました!」

治くんはあまり顔に出ないタイプだと思う。だから気付けないけど、嫌じゃないって言ってくれるのは彼の優しさで、本心は触られて気分を害してしまってる可能性だってある。
って思ったけれど、またも治くんは意外な行動をとる。

「みょうじさんの指、きれいやなあ」

そう言って、自分がやられた動きと同じように自身の人差し指を使い、私の小指を形に沿ってゆっくりなぞる。その瞬間、体がビビッと小さく跳ねた。確かに、これは擽ったい。でも、私も治くんにやってしまったことだから、自分だけ「やらないで」と言うのは駄目だろうと、耐えた。でも、擽ったい。やられる対象が治くんじゃなければ、こんなに擽ったくならないのだろうか。小指に全神経が集中した。最後までなぞり終えた時。「擽ったいね」と声を振り絞ってそう言えば、治くんは人差し指と親指で爪を軽く挟み、少しだけ歯を見せて笑った。

「な?擽ったいやろ?」

なんて。イタズラをする子供みたいに。でも、大人っぽいその表情に。胸を擽られているようだった。