同窓会で再会
土砂降りの雨。傘がひっくり返る程の暴風。朝のニュースでは、台風が接近していると言っていた。
そんな中、同窓会をやるのだろうか。中学の同窓会。成人し、クラスでの集まりは今日で二回目。数日前からグループメッセージを確認しても中止の連絡はないから、やるのは決まっているのだろう。この雨の中、みんな来れるのかな?大丈夫なのかな?そう疑問に思うも、実際私は今集合場所である居酒屋の前に来れている。
しかし、数分経っても知り合いが来る気配はなかった。場所間違えたのかな。もう一度スマホを確認してみたけれど、間違えてはいなかった。少し前に友人に連絡を入れたが返事はまだきていない。どうしたものかと思考を巡らせていると、一人の同級生が現れた。
「……孤爪、くん?」
疑問形で聞いてしまう。声も震える。だって、今の彼はとても有名人だから。クラスの中でも特別目立つ方ではなかった彼が、今は世界のKODZUKENと呼ばれるくらい世界中で認知されてるくらいの人だから。
「まだみんな来てないんだよね」
きごちなく私の名前を呼んだ孤爪くんに困ったように笑いながら言う。それに対し、帽子を深く被っている彼は一度下を見てから顔を上げ、私の方を見た。
「今日、中止になったんだけど」
「……え」
「……」
「中止?同窓会が?今日の?連絡あった?」
孤爪くんから発せられた事実がコヅケンに対しての緊張を上回り、凄い勢いで次々と質問を投げかける。いきなり近づき、声を張った私に向こうはコクリと頷いた。
「えぇー……うそぉ」
もう一度自身のスマホを開きグループのトーク履歴を確認するが、数日前から動いていない。というか、数日前から誰からも返信がきていない。もしかして、私のこのアプリに何か不備があるんじゃ?と考えたところで、孤爪くんが自分のスマホ画面をこちらに見せてくれた。
「これ」
「あ、本当だ。連絡来てる」
了解の返事もみんなしてる。私のトーク履歴には孤爪くんが見せてくれた内容は何もない。ただ受信されていなかっただけなんだ。でもそんなことある?聞いたことないけど。そもそも返信がなかなか来ない時点で可笑しいと思わなかった自分にも理解出来ず頭を叩きたくなった。
「教えてくれて助かったよ。ありがとう」
「……たまたま通りかかっただけだから」
「そっか」
この大雨の中、孤爪くんの小さな声は聞き取りずらい。通りかかっただけ、という彼はどうやらタクシーに乗っていたらしい。すぐそこに一台停まっている。
「……じゃあ、私はこれで。ありがとうね」
有名人と二人きりなんて誰が見ているか、撮られてしまうか分からない。そんなこと孤爪くんは気にしなそうだけれど、素人故にそういうことを気にしてしまう。傘を開き、駅まで走ろうと気合いを入れた。さっきより風が強くなっているから、きっと一瞬でこの傘は意味を成さなくなるだろう。
「っちょっと、待って」
「わっ、」
一歩踏み出した時、後ろから手首を掴まれる。瞬間、上半身が仰け反り、足を一歩戻して体勢を整えた。
「どう、したの?」
「送ってくから。家まで」
「え?……いや、大丈夫!」
「多分電車動いてない」
「……」
その言葉に急いでスマホを確認する。すると、孤爪くんの言った通り、運転見合わせの文字がたくさん並んでいた。ここから家まで距離がある。素直に「乗らせてください」と頼めば「うん」と返事を貰った。
家に帰るだけの間、一緒にタクシーに乗るだけ。たったそれだけ。時間もそんなにない。話すこともない。そう自分に言い聞かせ、孤爪くんの隣にゆっくり座った。
出来れば会いたくなかった。成人式の日だって彼は来なかった。二次会にももちろん来ない。今日の集まりだって来ないと思っていたのに、出欠を取り終わるギリギリで参加すると言ってきた。
どうしてそんなに会いたくないのかというと、中学の時に少しだけ付き合っていたからだ。未練がましく今も私は少しだけ孤爪くんが気になっているから。きっと会ったらこの気持ちが膨らんでしまうと思ったから。
「あーーーーー!!」
「!?」
今、私は一人でタクシーに乗っている。何度もそう自分に言い聞かせ、隣にいる孤爪くんに意識が向かないよう集中していたのだが、家に着くギリギリである事に気付いた。大声を出したことにより、肩をビクつかせた孤爪くんと運転中のドライバーさんに謝罪をしてから隣を見て言う。
「あの、さ。やっぱり家じゃなくて、適当にホテルとか行ってもいい……?」
「え」
「……」
「家に鍵忘れたの?」
なんで分かるの!?……そうだ、そうだった。中学の時から言葉にしなくても何でも当てられてたことを思い出す。そういうところ、好きだったけど。ふっ、と心の中で小さく自分に苦笑し、呆れた。
「まだ実家に住んでるんだけど、今日から数日家に人いなくて。絶対に鍵忘れちゃダメだなって思ってたのに忘れちゃった。あ、私より家の人が後に出たから鍵はちゃんと掛かってるんだけどね」
「そうなんだ。じゃあ、うち来る?」
「うん、だからホテル…………は?」
何部屋か空いてる、と言う孤爪くんに驚きが隠せない。その間もタクシーは止まることなく自宅へと近付いていく。途中、会話が聞こえたのか一時停止をして「行き先変えますか?」と質問され、早く決めなきゃと返事を探す。ドライバーさんを待たせているという焦り。孤爪くんのじぃっと見つめてくる猫目が私を急かせる。
「お邪魔させてください」
あぁ〜〜〜〜〜!ちょっと下心。会いたくなかったけど会ってしまえば、もっと一緒にいたいと思う。もしかしたらまた……なんて浅はかな考えが頭を過ぎる。お邪魔させてくださいと震える声で伝えれば、孤爪くんは小さく声に出して笑った気がした。
「……お邪魔します」
猫背の家主の後ろを付いて上がる。タクシーで移動したとはいえ、多少は雨に濡れた。風邪引く前にとお風呂を沸かし、タオルと着替えを渡される。孤爪くんってお風呂沸かせるんだ、なんて失礼なことを考えながら受け取った着替えは彼のもの。
もう、むりむり……!これ着るの?いいの、着て!?
「借りちゃっていいの……?」
「うん」
「本当にいいの?……その、あの」
「……」
「彼女とかいない!?大丈夫!?家に上がらせてもらうのもそうだけど、服も着ちゃって!!」
「いないから大丈夫」
「そう!わかった!ありがとう!」
何に対してのありがとうだ。やりとり的に貸してくれてのありがとうでいけると思うけど、私の心は彼女がいなくて思わず感謝の言葉が出てしまった。いやだ、最低。消えたい。でも、彼女がいないことは嬉しい。
自分がそのポジションになれることなんてないと分かりきっているのに、何喜んでいるんだと思った瞬間、自爆する。早くお風呂をお借りしよう。とぼとぼお風呂場に向かうと、後ろから声をかけられた。
「……あのっ……さ」
「?」
「いないの?……彼氏、とか」
「う、ん。いない」
「そうなんだ」
「……うん」
どうして聞いたの?なんて質問したい気持ちは心の中に閉じ込めておく。中学の時、孤爪くんに告白した時と似た雰囲気でなんとも言えない心情になった。
急いでシャワーを浴び、湯船に沈む。孤爪くんと同じシャンプー使っちゃった。ここで毎日孤爪くんが体を……なんて想像しちゃう。途中コンビニに寄って買ったお泊まりセットを見つめながら、ここから出たらまた孤爪くんに会えるんだと思うと緊張する。
「お風呂、ありがとう」
「……」
貸してもらうお部屋にいた孤爪くんは布団を敷いてくれていた。タクシーで人に貸すようの布団があると言っていたのだけれど、眉を寄せて顰めっ面で敷き終わった寝床を見つめていたから首を傾げる。
「どうしたの?」
「!!……いや」
「?」
「……こないだ使った時に洗って干してたと思うから大丈夫だと思うけど、臭かったら言って」
「うん……?」
最近誰か使ったのだろうか。その人用なら逆に私が使っていいのか不安になる。そんな私を他所に「家にあるもの適当に使って。食べ物とか飲み物も取っていいから」と孤爪くんは言って部屋から出て行った。
寝るにはまだ早い時間。でも孤爪くんが同窓会に来ると分かっていた昨日は夜眠れなかったから、今からでもすぐ眠れそう。一人になった部屋。敷いてもらった布団に寝転がった瞬間、睡魔に襲われた。
ぱちり。大きな音に目が覚めた。どれくらい寝てしまったのだろうかとスマホを確認すると、まだ二時間程度しか経っていなかった。やっぱり孤爪くんとひとつ屋根の下では目が覚めてしまうのだと思うも、きっとそれだけじゃない。家が吹き飛んでしまうんじゃないかと不安になる程の台風に頭が覚醒し、眠気が吹っ飛んだのもある。
昔から台風が苦手だ。孤爪くんと付き合った数ヶ月。二人で出かけたこともなく、ただ一緒に学校から帰ったことが数回あるだけ。手を繋いで帰ったのはそのうちの一回。
その一回は、今日みたいな台風だった。校舎を出て直ぐ傘がひっくり返り「なんでひっくり返るの!?」と叫ぶ私に孤爪くんは「逆にひっくり返らない方が凄いよ」と冷静に返した。そんな冷静な彼氏の傘はひっくり返っていない。凄いと感心しながら一緒に入れてもらい、物凄い風に震えていたら手を繋いでくれた。
嬉しかったなぁ。あの頃に戻りたいかも。でも別れを告げた私がそう願うのはいけない話だ。別々の高校に入りお互い忙しくなり中々会えず、連絡も取らなくなって別れた。数ヶ月付き合っただけだし、その後にも何人かと付き合い、好きだった孤爪くんも元カレのうちの一人になるんだろうと思った。
けれど、自分が思っているより孤爪くんのことが好きだったらしい。付き合っても、孤爪くんとここに来たらどんな感じなんだろう、こういう時はどういう反応をしてくれるのかな、どんな話をするんだろう、笑ってくれるかな、なんて他の人といるのに孤爪くんのことを考えてばかりだった。毎回ではないけれど、ふとした瞬間に頭に過ぎっていた。
そんな孤爪くんの家にいる。こんなドラマみたいな展開があるのだろうかと疑問に思うも、最後はドラマのようにはいかず、ただ帰るだけなんだと思う。伝えてもいいのだろうか、この気持ちを。でも振った私が?
「っ!?」
頭の中で悶々考えを巡らせていた時、凄い音が耳に入る。木でも倒れた?レベルの音だ。ちょっと一人は無理かもしれない。でも孤爪くんに頼むわけにはいかないし、とりあえず一回トイレに行こうと恐る恐る部屋を出た。
「あ、孤爪くん」
トイレから出て直ぐ、孤爪くんと鉢合わせる。大きな音に怯えているのを隠しながら名前を呼べばこっちを数秒見つめた後、彼は口を開いた。
「……大丈夫?」
「え?」
「音、凄いから」
「う、ん。だいじょ…………ばないかもしれない」
大丈夫。伝えようとした瞬間、また耳に入ってくる台風の音。きっと寝れないし、怖い。一人は怖い。孤爪くんの家はとても静かだから余計に怖い。俯き、素直に怖いと伝えたら「寝るまで一緒にいる……?」と視線を彷徨わせながら言ってくれた。
コクリと頷き、孤爪くんと一緒に部屋に戻る。敷かれた布団の上に横向きで座り、その隣をぽんぽんと叩く。ここに座って、と。大人しく腰を下ろした孤爪くんに安堵しながらこの後どうしようと、急に自分がした言動を理解し頭を抱えたくなった。数分気まずい雰囲気が流れる。その雰囲気を先に破ったのは向こう。
「……手、いる?」
恐る恐る差し出された手に「いる」と返した。ゆっくり手を重ね繋げば、孤爪くんの温もりを感じ、外から聞こえてくる音も怖くなくなる。不思議。繋いでいる手から孤爪くんの音が伝わってきて安心する。やっぱり私は孤爪くんが好き。
「もう一回付き合ってほしいって言ったら怒る?」
私、今も孤爪くんのことが好きなの。今日初めて会った時と同じ震える声で伝えた。そしたら、孤爪くんは「怒らない」とだけ返してくれた。
次に目が覚めた時、大好きな人が「中学の時からずっと好きだよ」と言ってくれることを今の私は知る由もない。