ただ嬉しいだけ

幼馴染だと思っていた相手に告白された。
いつものふざけた冗談かと最初は思ったけど、向こうの雰囲気からしてそうではないらしい。

「そういうふうに見たことなかった、ごめん」

と、珍しくなまえの前で視線を彷徨わせながら答えると「逆に変なこと言ってごめんね」と眉を下げて謝ってきた。別に変なことなんて言ってない。そう伝えたいのに、向こうの気持ちに応えられないおれは何も言えなかった。


それからなまえとは気まずい雰囲気が流れると思ったけど、向こうが普通に接してくれたからこっちもいつも通りに出来た。でも心のどこかにいつもあの時のことが置いてある。

なまえと付き合うなんて想像出来ない。でも、なまえが他の人と付き合ったりしているのも想像つかない。今まで彼氏を作らなかったのは、おれのことが好きだったから?想いを伝え終えた今なら他の人と付き合うんだろうか。それは、なんか、ちょっといやな気がする。

告白をされたからなのか。それともされなくてもそう思うのか。自分の都合の良い思考に嫌気が差す。



そんな中、街中でなまえに会った。どうしても欲しいゲームがあってネットじゃ買えなくて、たまたま部活が早めに終わった今日、お店に足を運ぶことが出来た帰りに遭遇した。

「ゲーム買いに来たの?」
「うん」

柔らかく笑いながら聞いてくるなまえに目が合わせられなかった。こんなこと一度もない。合わせないんじゃなくて、合わせられないことなんて。

「なまえは?」
「うん?」
「なにか、買いに来たの?」

いつもと違った服装、髪型、雰囲気に誰かと会う約束でもしているんだろうかと気になってしまう。少しだけソワソワしているようにも感じて気になってしまう。こんなこと気になるなんて、なかったはずなのに。

「うん、目的のものは特にないけど何かいいのあれば買おうかなーって」

かわいいお洋服あって買っちゃった、と紙袋を顔の横に持ってくる姿に心が和らぐ。こういう顔を見るのは昔から好き。いつもふざけたことばかり言うことの方が多いけど。そこまで考えてふと気が付いた。最近、冗談とか言わなくなった?
そのことに気づき瞬きを数回繰り返して、相手を見つめれば首を傾げられる。それからなまえはゆっくり口を動かした。

「もう家に帰るだけ?」
「うん」
「じゃあさ、一緒に甘いもの食べに行かない?」

こっちを伺うように上目遣いで聞いてくるなまえに、早くゲームしたいから、と断る。もし一緒に食べに行ったら、何かに気づいてしまいそうで怖かった。

「そっか。じゃあ、一緒に帰ってもいい?」

今度は首を縦に振る。すると、なまえは隣にやって来て、二人並んで歩き出す。断られたのにどこか嬉しそうな幼馴染に不思議に思った。

「なんでそんな嬉しそうなの?」

本当に嬉しそうなのか分からない。だけど、そう見えたから素直に聞いてみた。この時だけは、今までの自分の中にあった気まずさが嘘のように晴れてなくなる。

「え?ああ、研磨に会えたのがただ嬉しいだけ」

だけど、平常に戻れたのは一瞬で。にこにこ、本当に嬉しそうな顔でこっちを見てくるなまえに心臓が忙しく動き始めた。ああ、すごく、いやだ。

眉を顰め、顔を顰め、単純で訳の分からない自分の気持ちの変化に嫌気が差す。この感情は、変化したのか、元からなのか。それすらも分からない。