そんな仲
「あれ、角名じゃん」
「あ、みょうじ。おつかれ」
「お疲れ〜、今帰り?」
「そう。そっちは昨日だっけ」
「当たり。よく知ってるね」
真昼間のコンビニの前。最寄りの駅と家の丁度真ん中に位置するそこで、たまたま同級生と出会した。雪が降りそうな気温に二人して肩を竦めて見つめ合う。
高三の二月。自由登校になって直ぐ、寮の部屋をある程度片付けて実家へと帰ってきた。兵庫から愛知へ。
私は中学の時に厳しそうな女の人に声をかけてもらい、稲荷崎高校の吹奏楽部へ入部した。目の前にいる中学の同級生でもあった角名も同時期にバレー部顧問の先生にスカウトされたらしい。家は遠くもなければ近くもない。小中高と一緒の腐れ縁。必ず一度は同級生になる間柄。学校では、目が合えば目で挨拶するし、余程のことがない限り話さない。そんな仲。
「このまま真っ直ぐ家?」
「その予定だけど」
「ふーん」
「みょうじは食べ行くの?」
「……うん、無性に食べたくなって」
「じゃあ、俺も行こうかな」
「え?」
「あれ、誰かと一緒?」
「違うけど」
無性に食べたくなり家を飛び出して向かおうとしていたのは、ファーストフード店。他にもお店はあるというのに、ここから離れた目的地を言い当てられ、更に私の気持ちを汲み取ったかのような発言に流石だと感心する。こういうことは一度や二度ではない。昔からずっとそう。
「いいの?家の人待ってるんじゃないの?」
「帰る時間までは言ってないから大丈夫でしょ」
「そっか」
今度は横に並んで同じ方向へ歩き出す。角名も無性に食べたくなった?と横を見上げて問えば、「まあ、そんなとこ」と曖昧な返事がきて思わず声に出して笑ってしまった。
「ふわぁー、やっぱりこっちはいいね。気軽なく角名と話せる」
「よく三年間頑張ったよね」
「バレー部のファン多かったからね」
二人きりの時はよく話す仲だ。周りに人がいなければ、角名ー!と声をかけて話をしてしまうくらいのお友達ではある。だけど、それもバレー部の異様なまでの人気さに怯え、周りに人がいなくても学校では角名に話しかけないルールを自分の中で決めていた。一応、本人には軽く伝えていたけれど、ファンが怖いからという私に「それは双子だけでしょ」と言った角名のことを今でも忘れない。表に出ていないだけで角名にも結構女子のファンはいるのだ。ファンというか、恋しているというか。
同じ中学で、昔からのノリで話しているところなんて見られて、誰かに勘違いされたら大変。避けれる問題は出来るだけ避ける!
そのせいか二人で会う時は、今まで話せなかったことや聞きたいことがたくさん出てきてしまうもの。毎回、時間はあっという間に過ぎる。
「あ、治も食べに行くって」
SNSに投稿した画像を治くんも見たのだろう。角名宛に個人メッセージで「俺も食いたなった。食ってくる」の簡潔な文面が送られているのを見せてもらった。そして、その後に表示された文字を見て絶句した。「みょうじさんとおんの?」
「って、これ私の手写ってる!!」
「あ、ほんとだ」
「あ、ほんとだ。じゃないよ!」
「大丈夫。バレー部とみょうじしかこの投稿見れないから」
「そういう問題じゃない!」
私の三年間の努力を返して……!しかもなんで治くんは手だけでみょうじだと聞いてきたのだろう。不思議だ。
「学校行って色々聞かれたらどうしよう」
「心配しなくてもみんな俺にもみょうじにも興味ないから大丈夫でしょ」
「言っとくけど、今時期から卒業式まで告白フィーバーなんだからね。私はないけど、あなたに興味ある子なんてたくさんいるんだからね」
「みょうじに興味ある男だっているんじゃない?」
「バカにされているような気分だ!」
ポテトを齧りながらこちらを横目で見下ろす角名は少しだけ楽しそうに見える。いないと分かってて言ってくるんだから揶揄ってる以外の何者でもない。いつもより爽やかな笑顔がより一層そう思わせる。
「先週告白されてたよね」
「なんで知ってるの!?」
「たまたま見てた」
「見てた!?……断りました!その人誰でも良かったみたいなので!断ったら今度は違う子に告白してました!なので、私に興味ある人はいません!」
「じゃあ、俺だけか」
角名は煽るのが年々上手くなっている。こんなやりとり学校ではしたことない。ポテトを一本ずつ摘む角名に対して私は三本口の中に入れて良く噛んだ。唇に塩がついて少しだけ染みる。このままでは唇おばあちゃんになってしまうと考えたところで、食べかけのポテトがトレーに音を立てず落ちていった。
「じゃあ、俺だけか……?」
口内にあるものを飲み込んでから声に出す。聞き流してしまえばよかったのだけれど、そうしなかったのはただの気まぐれか。本能か。驚きつつも怪訝な表情を相手に向けるも返ってくるのは、小さな笑いだけ。その隙に私のポテトが数本盗まれる。声を上げることも、奪い返すことも今の私には出来ない。空耳か……?そうだ、聞こえなかった事にしよう。
「聞こえなかった事にしないでね」
「……」
学校では、目が合えば目で挨拶するし、余程のことがない限り話さない。二人きりの時はよく話す。そんな仲。