体重計デート

最近太った、と感じる。怖くて体重計が乗れない。でも分かる。これは確実に太っている。2キロは確実にいっていると思うのだが、多分これは3キロ増だ。

だって、ズボンがキツイもん!チャックがギュッてなる!前までは、サッでした!トップスをスカートにインする時もこんなキツくなかった。なんなら、スカートが下がって腰で履けちゃって困っていたくらい。

「研磨ぁーーー!」

叫びながら音を立て廊下を走り、勢いよく扉を開けて居間を覗くと、半纏を着てコタツに入っている彼氏が「なに?」と平然とした様子で返してくる。こっちは焦っているのに、これが日常茶飯事とでも言いたげな雰囲気。
それにしても、研磨の手には私を惑わすオレンジ色のものが握られていた。あれは、みかん。みかん……

「食べる?」

流石、洞察力に優れている男。私の思考を読み取られてしまった。

「食べたいって顔に書いてあるよ」
「……食べ、うっ」
「食べう?」

食べたらまた太ってしまう。でもみかんは水分って言うし?水分だし……?なんて考えていると、何が面白かったのか、研磨は私の発言にケラケラ笑う。彼女が太ったっていうのに、あんまりだ。

「って、ちがうーー!!みかんを食べに来たわけじゃない!私、研磨に体重計乗るお誘いに来たの!あっ研磨は乗らなくていいよ?私だけ」
「なにその誘い」
「そう!これは体重計デートですっ」
「えぇ……」

一人で測るの不安だから。一人で現実を受け止めるのは怖いから。だから付き合って!の思いを込めて、祈りを捧げるように握った両手を顔の前で突き上げるが、祈りを捧げられた相手はコタツから出たくなさそうに、今よりもっと背を丸め、両手を暖かいテーブルの下へ伸ばした。けれど、一秒経たぬうちにゆっくり腰を上げた研磨に目をぱちくりさせる。

「え、いいの!?」
「だって、デートなんでしょ」
「……好き」


そうして体重計の前にやってきたのだが、なかなか足を乗せる勇気が出ない。緊張で心臓に両手を添えている私とは反対に、研磨は怠そうに半纏のポケットに手を突っ込んでいる。

「こういうのって見られなくないんじゃないの」

見ててね!見ててね!と必死に懇願したら、そう言われてしまった。

「見られたくない気持ちもあるけど、現実を受け止めるのに一緒に見てほしい」
「そう」
「病める時も、健やかなる時も〜だよ!」
「あ、そう」
「じゃあ行くね!」
「ドーゾ」

ふぅっと息を吐く。恐る恐る体重計に右足を乗せた。その後、左足。そして、全体重を…………え?……

「あれ?見えない……?あっそうだ、メガネかけてなかった」

有り得ない数字が見えて目を擦る。若干、居心地が悪そうな研磨を他所に、体重計から下りて数値を覗いた。

「う、そでしょ」

さっきの有り得ない数値は、有り得なくもなく、嘘でもなく、現実だった。5キロ以上、太って、る……?これはもう、服を脱ぐしかない。少しでも抗わなくては。

「ちょっ!?」

いきなり服を脱ぎ出したことに驚かれたけど、それどころじゃない。着ている服を一枚、二枚と脱ぎ、インナーのみになった。一応、下着は隠れている。パンツもインナーでギリ隠れるくらいだから大丈夫。下着は隠れてるし、親しい仲にも羞恥ありを心得ているから大丈夫だと、ドヤ顔で研磨を見れば、眉間に皺を寄せ、険しい顔をしていた。「全然大丈夫じゃない」と言っているよう。

「え!私、2キロの服を着てたの!?」

服を脱いで測ってみると、さっきよりマイナス2キロ。良かったと思うと同時に、もう脱ぐものがないことに気づく。これ以上、減らないってこと?待って、前よりかなり増えてる。

「3.5キロ」

前回、というより、ここ数年キープしていた体重より3.5キロ増えていた。徐々に増えているとは分かっていたけれど。

「信じられない」
「……」
「……もしかして、気づいて、た?」

あまり動じてない研磨を見て、素直に言葉が出た。研磨が動じても変な話だろうけど。だけど、今、目の前の彼氏は私の問いに、気まずそうに目を逸らしたのだ。

「私が3.5キロ増えてるの、気付いてたの!?」
「っ何キロまでは知らないよ!?てか聞かないで!!」

なに、それ。ってことは、研磨は私が太ったって気付いてたってこと?そんな目に見えて体が大きくなってたの……?恥ずかしすぎる。バレてないと思ってた自分が恥ずかしい!嘘やお世辞を言わない友達からも見た目では太ったって分からないと言っていたから、余裕こいてた。

「でもたしかに。私達、裸の付き合いもしてるから」
「その言い方やめて」
「うぅ〜〜……もう、むりぃお嫁にいけないぃぃ」

自分の中にある体重を上回ってしまったショックで、その場に力無く座り込み、両手で顔を覆う。私の体重が増えたとしても研磨は何とも思わないだろうけど、私自身が嫌なのだ。悶々とマイナスなことばかり考えていると、目の前にひとつ影が落ちる。研磨が勢い良くしゃがんだせいで、軽く風が吹く。わ、っと驚く前に私の顔から両手をそっと離して言った。

「あ〜〜っっもう!俺のお嫁になるんでしょ!?」

早く服着て、風邪引くと続けて発せられ、近くに落ちてるパジャマを強引に頭から被せられた。答えは最初からひとつしかない。すぽっとパジャマの襟元から顔を覗かせて、瞼を閉じた笑みを浮かべながら言う。

「うん、なるぅぅぅ……」