向けられる想い

昔から私は思っている事を言葉にするのが苦手だ。だからといって友達が少ないわけでも、人とコミュニケーションが取れないわけでもない。普通の会話は出来る。ただ、大事な事を口に出すのが苦手なのだ。言えないわけではない。というか、その逆で余計なことを言ってしまう。


私には数年前から想いを寄せる人がいる。その人に近寄りたくてボーダーに入隊したというなんとも不謹慎な理由で頑張り、今はB級隊員。それだけではないが、その人を好きになったのは近界民から助けてもらったのがきっかけで、同じように誰かを助けたいという思いもちゃんとある。

入隊して一年と数ヶ月が経とうとしているのに未だ声をかけることが出来ない。同じクラスで仲良くしてもらっているヒカリちゃんからその人の話を聞くくらいで一方的に知っていくだけ。このまま何も言えないままなのだろうか。まだ、助けてくれた時のお礼も出来ていないというのに。駄目だ、まず助けてくれたお礼を言おう。数年越しになってしまったけれど。



そして、自販機でひとり飲み物を買っている影浦先輩を見つけそこへ足音立てず近寄る。短距離走をした後のような心臓の速さを隠そうと必死で胸を押さえながら。き、緊張する…。だ、だって、かっこいいし、それに…


「おい」


ゆっくりと階段を一段ずつ降りていくと、飲み物を取るため上体を屈ませ、取り出し口に手を入れながらこちらを鋭い目つきで睨みつける先輩。もしかして、何か不快なことを感じさせてしまったのだろうか。サイドエフェクトを知っているが故に冷や汗が流れる。


「それやめろ」


とても気分が悪い、と言ったような表情で放つ影浦先輩に喉がひゅっとなる。初めて話しかけられた。けれど、それは嬉しい内容ではなく、怒らせてしまったという残念なもので。相手にも失礼なことをしてしまったとさっきと比べ物にならない程、心臓が速くなる。
やめろ、というのはこの感情のことだろう。この想いは迷惑、と。遠回しに振られてしまった。


「……寒気がする」


ボソリ、と小さな呟きに固まる。まるで心臓が凍ったよう。でも、優しい影浦先輩が純粋に好き、という感情に傷つく返しをするだろうか。そこでハッとする。


「もしかして、エロい目で見ていたのが感じ取れてしまったのでしょうか!?」
「……」
「あああ!!すみません。私、純粋な心だけじゃなく邪な心、下心有りで影浦先輩のことを想っていてっ!」


す、すすすすすみません…!でもこの感情は抑えることが出来なくて。なるべくは近寄らないようにしますので!そう続けると、盛大な舌打ちと小さく「…だから今までとちげーのか」の声が微かに聞こえた。きっとモテる影浦先輩はこう言う感情をたくさん向けられているだろう。今までと違う、とはそのまんまの意味で。

どうやら、私の下の心に寒気がしたらしい。確かに見かける度、かっこいい、エロいな、特に腰…とか変なことを考えてしまっていた。しかも、さっきも飲み物を取る姿にエロッなんて思っていたし…。ちょっと反省、プラス落ち込む。少しだけ。不快な思いをさせてしまったことに。


「それがなけりゃあ別に、」


そこまで言って、自分の発言に顔を顰めた。もしかしたら、私が申し訳なさそうにしていたのを感じ取ったのかもしれない、なんて失礼ながら予想する。こういうところが好きなんだ。


「なければ別に、ですねっ!!」
「なくてもやめろ」


飲み物を手に取り、この場を去ろうとする背中を追いかけて自分の名前を名乗る。続けて、あの時のお礼をした。


「…ああ」
「え、覚えてるんですか?」


数年前に助けでもらったことを言うと、素直にお礼を受け取られ首を傾げる。覚えてるの…?数年前のことを?たくさんの人を助けているのに?しかし、直ぐにその答えが分かった。


「あの時から寒気がすんだよ、お前のは」


ああ、そういうことか。確かに、助けてもらった時。第一印象は、なんだこのドストライクのエロさは…だったな。