2021/12/24

まずはホットミルクで乾杯しよう

ミラージュ夢
2021年クリスマス記念🎄
皮肉屋スキンを想定して書いていますがnot別人格です

* * *


穏やかなペールブルーがアクセントになっている生成色の美しいドレスはとても繊細だった。
可動域を広く取るために裾口はふんわりと広がっていて、丈も膝の少し下で揃っている。

雪や氷の妖精?はたまた、天使だろうか?
クリスマスにちなんだ衣装の筈だが元になったテーマが分からず「うーん」と首を傾げていると「お、クララだな?」と背後から声を掛けられた。

「ミラージュ先輩」
「いいな!心優しく、茶目っ気のあるヒロインは君にぴったりだな!」
「……そのクララって?」

私がそう言うとミラージュ先輩はきょとんとした顔を見せる。直ぐにニヤッと「知らなかったのか〜?」と笑うと、彼は赤色の兵隊を思わせる衣装を、私に見せ付ける為に胸を張った。

「……先輩の衣装はおもちゃの兵隊ですか?」
「そうだな、正しくは兵隊の格好をしたくるみ割り人形だ」
「くるみ割り人形ってタイトルは知ってるんですけれど、ストーリーは全く知らないんですよね……」
「童話でもあるし、バレエの演目でもあるんだけどな……」

コミカルなつけ髭を一撫ですると、彼は「見てろ」と腕と足を大きくリズミカルに動かし、行進した。続けて指と足先をピンと伸ばしたと思いきや空中で小刻みに足を動かした。
中々にキレのある、美しい動きに思わず私は拍手をした。

「イブの日に、クララ達子供は親戚からプレゼントを貰うんだが、その中でも不恰好なくるみ割り人形をクララは何故か気にいるんだ」
「……可愛らしいとは思いますよ?」

人形を模す為に、ミラージュ先輩の顔にはペイントやら仰々しいつけ髭が施されていたが、それが明るい彼の人柄とマッチしていて、ひょうきんな愛らしさを感じた。

「それは俺だからな!……まあ、本家本元は違った訳だ。不恰好なもんだから、なんでそんなのが良いんだ?って兄弟に揶揄われ、喧嘩になってくるみ割り人形は壊れてしまうんだ」
「えぇ、可哀想」
「だろ?クララはその晩、懸命にくるみ割り人形を直してやるんだ。すると、突然クララの体は縮んでしまうんだ……そして困っている所に更なる試練が待ち受ける」

絵本の読み聞かせの様にミラージュ先輩は感情を込めて物語を教えてくれるものだから、私も思わず真剣に聞き入ってしまう。

「何が起きたんですか?」
「ネズミだ。小さくなったクララと同じくらいの大きさのな。アッシュの奴がペットにしてるのよりグッと不潔な奴だ……それに囲まれたんだ」
「それは……ピンチですね」

想像して思いっきり顔を顰めると、彼は笑った。

「そこに颯爽と現れるのが、この俺だ。他のおもちゃ達を先導して戦うんだよ。カッコいいだろ?」
「ふふ、そうですね」
「無事、おもちゃ達が勝利を収めるとクララはくるみ割り人形に駆け寄るんだ。“怪我してないかしら?”ってな。クララが彼の手を取ると、くるみ割り人形は王子様に姿を変えるんだ。そして、おもちゃの国の住人達と素敵なパーティーを開くんだ」
「へぇ……素敵」

クリスマスのロマンチックな明かりに包まれたおもちゃの世界はとても色彩豊かで素晴らしいものだろう。私が幼い少女だったら想像だけでうっとりしてしまうに違いなかった。

「だが、朝を迎えるとおもちゃの国の美しい景色が消えてしまうんだ。そう、全ては夢だったって訳だ」
「ええぇ……夢オチなんですか?」

てっきりクララもおもちゃの国の住人になると思ったのに。思わずガッカリしてしまうが、クララにも家族はいるのだ。仕方の無い事なのかもしれない。
うーむ、と思わず唸るとミラージュ先輩は眉間に皺を寄せる私を見て笑った。

「確かに、物語の世界ではそうだが……安心してくれ!誓って、このミラージュがクララに夢を見せ続けてやるさ」
「ふふ、それは素晴らしい冬の贈り物ですね?」
「な?だろう?春になっても夏になっても覚めない夢をな」

凍える寒さも、きっと彼が居てくれれば心から暖炉にあたった時の様に温まる。
真っ赤な衣服で着飾った広いに胸に頬を寄せると、ぎゅっと彼の腕の中に包み込まれた。

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